再発防止と良好な術後経過を追求
鼠径ヘルニアのロボット支援手術
東京大学医科学研究所附属病院
(東京都 港区)
最終更新日:2026/09/16


- 保険診療
- 鼠径ヘルニア
- 大腸がん
足の付け根の鼠径部付近に、腹膜や腸の一部が飛び出す鼠径ヘルニアは、薬では治らないため、治療には手術が必要となる。これまでは鼠径部切開法や腹腔鏡手術が中心だったが、2026年6月にロボット支援手術が保険適用になったことで、導入する医療機関も増えているという。大腸がんのロボット支援手術を数多く行っている「東京大学医科学研究所附属病院」の外科では、早期に鼠径ヘルニアのロボット支援手術を開始。腹腔鏡による低侵襲な完全腹膜外修復法(TEP法)を積極的に行ってきた経験と、大腸がんのロボット支援手術で培った技術やノウハウを生かし、安全性に配慮した鼠径ヘルニアのロボット支援手術を実践している。そこで、同院外科の今泉潤先生に、鼠径ヘルニアのロボット支援手術の詳細を聞いた。(取材日2026年8月5日)
目次
鼠径ヘルニアのロボット支援手術が保険適用に。精密な手術で術後の痛みや再発リスク、合併症の軽減をめざす
- Q鼠径ヘルニアには、どのような手術法がありますか?
- A

手術法について詳しく説明する今泉先生
鼠径ヘルニアの手術は主に3種類あります。1つは、鼠径部切開法で、ヘルニアの膨らみ部分を切開し、飛び出さないように人工のメッシュを置きます。2つ目は、腹腔鏡手術で、おなかの表面に小さな穴を開けてカメラを挿入し、中を見ながら手術をする方法です。腹腔鏡手術には、おなかの中に器具を入れ、腸やほかの内臓と同じ空間で手術するTAPP法と、おなかの中に器具を入れずおなかの壁の中で操作が完結するTEP法があります。TEP法は、腸やほかの臓器の損傷を回避でき、患者さんの負担も少ないことから、当院では積極的に取り入れてきました。そして、3つ目がロボット支援手術で、執刀医がロボットのアームを操作して治療をします。
- Qロボット支援手術にはどんなメリットやデメリットがありますか?
- A

人間の手では難しい可動域など自在に操作が可能
腹腔鏡手術では鉗子の動きに制限がありますが、ロボット支援手術では、自在に動くロボットアームを操作することで、人の手では難しい部位でも緻密な処置が望めます。また、手ぶれを抑えた細かな操作や、立体的で広く鮮明な視野を確保できることもメリットで、腹膜をきれいに剥離しやすく出血を抑えられるほか、出血した場合にも速やかに止血を行えるため、術後の痛みや違和感、合併症のリスク軽減が期待できます。患者さんにとっての大きなデメリットは特にありませんが、腹腔鏡手術と同様に、過去におなかの手術を何度か受けている方や、腹腔内の癒着が強い方は、ロボット支援手術を受けられない場合があります。
- Q受診してからの流れや手術にかかる時間を教えてください。
- A

診察から検査、手術までスムーズな流れをサポート
当院では、入院期間は2泊3日を基本としています。初診時に診察を行い、鼠径ヘルニアは手術をしなければ治らない病気であることや治療法について説明した上で、手術を希望されるかどうかを伺います。その場で手術を受けることを決めた場合は、必要な検査をその日中に行うため、1回の受診で入院前の準備を終えることができます。手術は全身麻酔で行います。手術時間は、従来の腹腔鏡手術と大きな違いはなく、1時間から2時間弱程度。術後は、経過に問題がなければ退院となります。その後、2週間ほどたった頃に一度外来を受診していただき、傷の状態や合併症の有無、痛みの程度などを確認し経過をフォローします。
- Q手術後や退院後の生活で注意することはありますか?
- A

術後も丁寧なフォローを心がける
これはロボット支援手術に限らず、すべての鼠径ヘルニアの手術を受けた方に共通する注意点ですが、術後しばらくは、おなかに強い圧力がかからないようにしましょう。ヘルニアが飛び出さないように留置したメッシュが、強い腹圧によってずれてしまうと、再発につながる可能性があります。ですので、手術後少なくとも2週間から1ヵ月程度は、ダンベルを持つなど、おなかに無理な力がかかる動作は控えてください。それ以外は、普段どおりに生活していただいて問題ありません。
- Qこちらの病院ならではの特徴を教えてください。
- A

経験豊富な医師がそろい、迅速な対応ができる体制が整う
当院では年間116件(2025年1月~2025年12月)の大腸がんロボット支援手術を行っており、消化器外科領域で培ってきた豊富な経験とノウハウを生かして、質の高い鼠径ヘルニアのロボット支援手術の提供に努めています。また、大腸がんの治療と同様に、初診から手術までできるだけお待たせせず、スピード感を持って進めることを大切にしています。手術時期については、極力患者さんの希望に応じてスケジュールを調整し、早めの手術を希望される場合には、初診の翌週から実施できるよう努めるなど、患者さんのご都合に合わせて柔軟に対応しています。迅速に治療につなげられることも、当院の大きな特徴です。

今泉 潤 先生
2012年筑波大学医学専門学群医学類を卒業。竹田綜合病院で研修後、国立がん研究センター中央病院、群馬県立がんセンターを経て、2025年4月より現職。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。特に大腸がん・胃がんの診療を中心に従事し、外科手術の低侵襲化や薬物療法・内視鏡治療・放射線の進歩を踏まえ、「多職種と連携し、患者さん一人ひとりに最適な医療を提供できるよう努めています」と語る。





