東京大学医科学研究所附属病院
(東京都 港区)
四柳 宏 病院長
最終更新日:2022/04/25


研究と臨床の両輪で社会の医療ニーズに対応
設立から1世紀以上の歴史を持つ「東京大学医科学研究所附属病院」は、一般の大学病院とは一線を画す研究所付属の病院として、基礎部門の研究成果を臨床につなげていく橋渡し的な役割を持つ研究を行ってきた。感染症やがんなどの難治性疾患を主な研究・診療対象としており、専門病院からの紹介で来院する患者が多いが、近年は内科、外科ともに大きく人材の変化があったこともあり、地域連携にも積極的に取り組み、病院から在宅医療への橋渡しにも注力。なお一層、病院内が活気づいているという。その時代ごとに社会や患者のニーズに合わせた診療で多くの人々からの期待に応えながら進化を続けてきた同病院は、また新たな時代に向けて大きな転換期を迎えており、ロボット支援下手術やゲノム医療、感染症など次々と新しいジャンルに取り組んでいる。そんな常に発展し続ける病院に病院長として就任した四柳宏病院長に話を聞いた。(取材日2021年6月29日)
病院の成り立ちについてお聞かせください。

1892年北里柴三郎博士により大日本私立衛生会附属伝染病研究所(通称・伝研)が設立され、ほぼ同時期に付属病院が設置されました。伝研設立の当初の目的は主に感染症の克服。伝研はワクチン製造をわが国で早期から手がけ、近代ワクチン療法の発展に貢献してきました。その後、公衆衛生の向上とともに医療のニーズも変化したことから、1967年に現在の医科学研究所へ改組し、病院も東京大学医科学研究所附属病院と改称しました。現在は、感染症やがんなど難治性疾患の解明と克服をめざしています。この数年で当病院に優秀な人材をお招きできまして、従来の体制を時代のニーズに合わせて改変して、腫瘍・総合内科と緩和医療・先端臨床腫瘍科、泌尿器科の診療を開始いたしました。
一般的な大学病院とはどのような違いがありますか?

先端医療をめざしており、中でも基礎部門の研究成果を治療に役立てていくための橋渡し的な研究や、臨床試験の中でも初めて人に実施するような早期の臨床試験も行っています。一般の大学病院では対応が難しいことをしていくのも当病院の役割です。先端医療の開発に意欲的なスタッフが全国から集まっているのも特徴で、最近はさまざまな分野で新しい人材が入り、活気にあふれています。そして診療の現場においては、患者さんや社会にとって必要度の高い医療の提供をめざしてプロジェクト診療を行い、難治性の病気や治療を扱うのが難しい病気を中心に診ています。そのため一般の病院にはない名称の部門があるのも特徴です。がん診療、ゲノム医療、血液腫瘍、免疫疾患、渡航に特化した外来など社会的に重要度が高いが、専門性も高く、一般の病院では対応が難しい分野を中心に研究を行いつつ臨床にも取り組んでいます。
近年は地域医療連携にも積極的に取組まれているそうですね。

地域への貢献はこれからの大事な使命の1つです。実際に外科の志田大先生や泌尿器科の高橋さゆり先生が中心となって地域のクリニックを直接訪問し関係構築を行っています。患者さんも多数紹介されており、当病院で手術・加療後にまた逆紹介を行うなど、一連の流れをスムーズに行っていくよう取り組んでいます。緩和医療の分野でも病院から在宅医療への橋渡しを行っており、2018年に当病院の隣に設立された慈恵会医科大学附属病院が管理するがん在宅緩和ケア支援センターとも連携を図り利用者をサポートしています。また、当病院では先端の機器を充実させており、紹介状があればCT・MRI検査に速やかに対応していくことも可能ですので、開業医の先生方にご活用いただけたらと思います。今後も自分たちの強みを生かしながら、地域のお役に立てるよう連携の輪を広げていきたいと思っています。
創設時の主眼であった感染症治療や対策についてはいかがですか?

時代の求める医療ニーズに合わせて発展し続けてきた当病院として、感染症への取り組みは重要です。私自身が専門とする感染症は当病院が長年にわたり診療してきた分野であり、研究所の中にも専門の先生がたくさんおられます。HIV治療については歴史もありますし、渡航専門の外来を立ち上げ世界中のさまざまな感染症にも対応してきました。渡航する方のための助言や予防接種はもちろん、帰国後の体調不良の相談、インバウンドで持ち込まれる感染症の対策なども当病院の使命です。また新しい感染症が次々登場する現代において、平時の情報収集も今後の重要な課題と考えています。海外の機関との連携や、世界中にあふれる情報の精査などを行い、他の研究機関と共有し対策に役立てていく。それも大切な当病院のミッションです。
今後の展望をお聞かせください。

コロナ禍で運動ができなくなり代謝性疾患が悪化する方、定期検診を逃して進行した状態でがんが発見される方が増えています。がん治療の多くはガイドラインに沿って行われますが、中には特殊なケースや進行している例もあり、その時は先端医療を行う当病院がお役に立てることもあるかと思います。またロボット支援下手術の豊富な経験を持つ先生方がおりますので、患者負担が少ないとされるこの手術で対応可能な場合も多いです。緩和ケアにおいても専門のチームが、緩和医療を行う一方で可能性がある積極的治療を試みており、病院全体としてさまざまなステージのがん患者さんの治療に取り組んでいます。さらに世界レベルで治療法を探索していく人工知能を用いた大規模データベースを参考に、世界中の治療例から可能性の高い治療法を探すことも行っていきます。加えて教育機関として医科研マインドを持つ、研究者であり医師でもある人材の育成にも努めていきます。

四柳 宏 病院長
東京大学医学部医学科卒業。同大学医学部附属病院や聖マリアンナ医科大学勤務を経て、2016年より東京大学医科学研究所先端医療研究センター感染症分野教授。東京大学医科学研究所附属病院副病院長を経て2021年4月病院長就任。長年、感染制御・臨床感染症について研鑽を積む。穏やかな語り口と笑顔で、緊張しがちな時も人の気持ちが和む話を心がけることに加え、毎日の血圧・体重測定、発酵食品の摂取が健康維持の秘訣。