東京大学医科学研究所附属病院
(東京都 港区)
志田 大 外科科長 の独自取材記事
最終更新日:2024/11/08
手技と熱い想いで外科チームをけん引
「確実」そして「安全」な手術を追求し、患者に「安心」を提供することをモットーに掲げる「東京大学医科学研究所附属病院」の外科チーム。直腸がん・結腸がんの総称である大腸がんのほか、胃がん、鼠径ヘルニアなど消化器疾患のスペシャリストが多数在籍し、腹腔鏡手術やロボット支援手術を中心に低侵襲治療を積極的に実施している。そのリーダーである外科科長の志田大先生は、大腸がんの腹腔鏡手術・ロボット支援手術を得意とし、大腸がんの手術は責任術者として全例参加する。国内および世界の医療の発展のため症例に基づく研究に熱心に取り組む他、適切な医療を多くの患者に提供することをめざして地域医療連携にも注力。2020年の着任以来、地域の医療機関と信頼関係を築いてきた。患者が病気への不安を感じる期間が短くて済むよう、初診から1ヵ月で手術・退院までをめざし、チームが一丸となって患者一人ひとりに寄り添う医療を実践している。外科医として日々患者と向き合う中でやりがいを感じない日はないと話す志田先生に、「医科研外科チーム」が一丸となって取り組む消化管の低侵襲治療についての熱い想いを聞いた。(取材日2024年9月25日)
得意とするロボット支援手術について教えてください。
当科では、直腸がんや結腸がんのほぼ全例で保険診療によるロボット支援手術を行っています。これはおなかに開けた小さな穴から内視鏡や鉗子などの器具を入れ、術者がモニターで観察しながらロボットアームで手術する方法です。傷が小さく患者さんへの負担が少ない上、術野を拡大して見られるので狭い骨盤内でも操作しやすく、繊細で精度の高い治療がめざせます。胃がんや鼠径ヘルニアは腹腔鏡手術で対応し、胃がんの腹腔鏡手術が専門の愛甲准教授、鼠径ヘルニアの腹腔鏡手術に関して豊富な経験を有する門間助教を中心に取り組んでいます。また、研究にも力を入れ、論文発表を継続的に行っています。その成果を生かし、個々の患者さんに合わせて複数の選択肢から適切な治療法を採用できるのも当科の強みですね。「医科研外科チーム」に所属する全員がそれぞれの技術を磨きながら、力を合わせて患者さん一人ひとりに寄り添い、がんを克服していきたいと思います。
チーム一丸となり低侵襲手術に取り組まれているのですね。
ロボット支援手術の精度の高さは医師1人の力ではなく、チーム力によります。当科では、外科医、麻酔科医、看護師、ロボットを調整する臨床工学技士からなる「医科研外科チーム」で手術を行い、これまでに154例(2021年4月〜2023年12月)、1年間で94例(2023年1月〜12月)を手術しましたが、一例一例手術を重ねるごとにチームの力が上がり、現在の手術と2年半前の1例目を比べると、同じ手術内容でも手術時間が約1時間短くなっています。大腸がんの手術は私が責任術者として全例参加していますが、術野での鉗子の出し入れや私の指示にもあうんの呼吸でチームのみんなが応えてくれています。そして、一例一例の経験をチーム全員で共有していくことで、同じ方向を向いて手術に向き合うことができます。医科研外科チーム一同、「確実」そして「安全」な手術を心がけ、患者さんに「安心」そして「笑顔」を提供することをめざしています。
術後の早期回復に向けた取り組みに注力していると伺いました。
大腸がん手術では、術前・術中・術後の各過程に分けて行う「ERAS(イーラス)」という早期回復プログラムを実践しています。例えば、手術前後は絶飲食・絶対安静というイメージを持つ方が多いと思いますが、ERASでは手術当日の早朝までは経口補水液を飲むことや、手術翌日に立って歩くことが推奨されます。ほかにも医学的エビデンスに基づいた項目が20ほどあり、包括的に実施することで術後の早期回復をめざします。そしてそのためには、外科医、麻酔科医、病棟看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士といった多職種の力が欠かせません。私は日本にERASが紹介された当時に在職していた病院でチーム医療として取り組んだ経験があり、多職種が互いの専門性を生かすことの重要性を身を持って感じました。ですので、その後に勤務した病院、そして当院でも実施し、術後の早期回復・退院・社会復帰に生かしています。
地域の医療機関との連携や研究にも力を入れているそうですね。
私のめざす「顔の見える双方向の医療連携」を実現するため、着任時から地域のクリニックへの訪問を続けています。私が直接足を運び関係性を築いてきたクリニックの先生とは今も継続して連絡を取っていて、「医科研病院に行けばロボットで手術をしてもらえるから、いってらっしゃい」と患者さんを送り出してくださっているようです。ご紹介のがん患者さんはすべて私が担当し、可能な限り当日、遅くとも翌日に診察するようにします。また、研究面では、各種の治療ガイドラインに引用されるような論文を継続的に発表しエビデンスを提示することで、私が筆頭著者の論文が日本や海外の大腸がん治療ガイドラインに引用されているものもあります。未開拓の部分を切り開くことで世界中のガイドラインをより適切な内容へ書き換える一助になれば、目の前の患者さんだけでなく、医療の発展へ貢献することになると信じています。それこそが研究の本質だと思います。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
大腸がんは、肝臓などへの転移がなければ進行がんであっても、きちんと検査して、適切な手術をすることで治癒につながる可能性があります。「大腸がんは治療できるがん」なのです。しかし、こうした情報をよくご存じない方、誤った情報を信じている方もおられますから、当科では治療に前向きに取り組んでいただけるよう、初診日に1時間をかけてご本人の病状や予後、治療法などを詳しくご説明し、手術日にも同様のご説明をします。私は以前より、手術をお受けになる患者さんとは、初診時の時点で「しっかり一緒に乗り越えましょう」という応援する意をこめて、 手術当日の朝は「今から頑張りましょう」の激励をこめて、 退院時には「よく回復してくれました」の感謝をこめて、握手をしています。「患者さんと信頼関係を築きながら、 一緒にがんを乗り越えていきたい」ーー「医科研外科チーム」にとってそれが何よりの幸せと感じています。
志田 大 外科科長
1996年東京大学医学部卒業。大腸がんの治療を専門に、腹腔鏡手術やロボット支援手術など低侵襲で行う手術を得意とする。茨城県立中央病院、東京都立墨東病院を経て、2013年国立がんセンター中央病院大腸外科・医長。2020年9月より現職。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。がんの紹介患者が安心して治療に臨めるよう、責任者として初診から手術、退院まで一貫して関わっている。