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原因を知って予防したい大腸がん
ステージ3でも根治をめざす時代

東京大学医科学研究所附属病院

(東京都 港区)

最終更新日:2024/11/15

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  • 大腸がん

大腸がんの患者は1980年代半ばから1990年代半ばに急増し、現在、日本人が最もかかりやすいがんとされている。近年は女性患者も増え、2022年の厚生労働省のデータでは女性のがん死亡数の1位、男性はがん死亡数の2位となっている。ただ大腸がんは早期なら治療しやすいがんの一つであり、治療法の飛躍的な進歩で、リンパ節転移のあるステージ3の進行がんであっても適切に治療を行っていくことで、根治の期待ができることもあるという。そこで、開腹手術、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術と大腸がんに対する治療法を複数そろえる「東京大学医科学研究所附属病院」外科の向山順子先生に、大腸がんのステージの決まり方、それぞれの治療法、さらには大腸がんの予防法などを教えてもらった。(取材日2024年4月15日)

チームで行う手術と術後の抗がん剤治療で再発予防を。リンパ節転移したステージ3の大腸がんでも根治が期待

Q大腸がんの予防法や検査方法を教えてください。

A

予防には食事や生活習慣、運動習慣の見直しが大切と話す向山先生

日本人に大腸がんが増えた要因として高齢化、食生活の欧米化などが考えられます。飲酒や肥満、一部の加工肉に含まれる保存料が発症リスクを高めるといわれ、予防には食事や生活習慣の見直しが重要です。また、日常的な運動習慣も大腸がん予防に役立つとされています。便潜血検査で陽性あるいは血便などの症状がある場合、まず大腸内視鏡検査を行い、大腸がんの疑いがあれば組織を顕微鏡検査で調べます。がんと診断がついたら、がんの進行度「ステージ」を確認するためのCT検査や必要な場合はMRI検査も追加します。なお、腫瘍マーカー検査は治療後の経過やがん再発などを見る指標として有用ですが、がんの有無の判断には他の検査も必要です。

Q大腸がんのステージ0~4はどのように決まりますか?

A

チーム一丸となってロボット支援手術も行う

大腸の壁のどの深さまでがんが入り込んでいるかを指す「深達度」、「リンパ節転移」や「他の臓器への転移」の有無、大きく分けてこの3つの基準の組み合わせで、がんの進み具合であるステージ0~4の分類が決まります。数字が大きいほど進行しており、例えばがんが粘膜内にとどまっていればステージ0、深達度にかかわらずリンパ節への転移があればステージ3、他の臓器に転移していればステージ4と診断されます。さらにステージ3は3a、3b、3cに分類されます。がんの深達度やリンパ節転移の有無は治療前の大腸内視鏡検査やCT検査で評価を行いますが、最終的なステージは手術で採取した組織を顕微鏡で検査する病理検査で確定します。

Qステージによって治療法はどう変わりますか?

A

チームワークを大切にしている外科

がんが粘膜内にとどまっているステージ0や、ステージ1でもがんの深達度が浅い場合は、大腸内視鏡による切除術の適応となります。ステージ1でも粘膜下層の深くまでがんが入り込んでいる場合や、ステージ2、ステージ3では手術が治療の基本で、がんの切除とともに、周囲の転移しやすいリンパ節領域を一緒に切除します。手術は、腹部を大きく切開する開腹手術と、腹部に小さな穴を数箇所開けて行う腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術があり、がんの部位や進行度などを考慮し適応を決めます。リンパ節転移があるステージ3と確定した場合は、再発リスクに応じて術後の抗がん剤治療を行うことで再発防止と根治をめざします。

Q術後に抗がん剤を使う目的や使う期間を教えてください。

A

再発リスクを抑えることをめざす抗がん剤治療は内科と連携

ステージ3では体内に残った微小ながん細胞が再発の原因になるため、再発予防のための術後の補助治療として抗がん剤を使用します。抗がん剤には内服、点滴があり、使用期間は半年間が一般的で、通院での治療も可能なため、働きながらでもがんの治療が続けやすくなっています。より再発率の高いステージ3cの方には点滴の抗がん剤を勧めるなど、主治医が再発率や患者さんのご希望を考慮して選択していきます。吐き気やしびれなど副作用には個人差がありますが、当院では抗がん剤治療を専門とする腫瘍内科部門との連携で、医師、薬剤師、看護師による「がんサポーティブケアチーム」がきめ細かにサポートし、副作用の予防と軽減に努めています。

Qステージ4は治療が難しいのでしょうか?

A

病棟ラウンジからの眺望。天気が良い日は富士山も見える

ステージ4の治療は主に薬物療法、放射線療法です。薬物療法は、抗がん剤や分子標的薬といった薬剤の組み合わせの他、一部の大腸がんでは遺伝子検査を行い、適応のある方には免疫チェックポイント阻害薬を使用しています。一方、放射線療法は骨に転移して痛みを伴う場合や、脳や肺に転移したときなどに行います。なお、がんにより出血や腸閉塞などの症状がある場合や、転移した部分を含めてがんをすべて切除できると判断される場合など、適応は限定されますが手術を行うこともあります。内科、外科、放射線科、緩和ケア部門などが集結し、適切な治療法を選択し治療にあたっています。

患者さんへのメッセージ

向山 順子 先生

2009年高知大学医学部卒業、2017年神戸大学医学部大学院後期博士課程修了。米国コロンビア大学に研究留学。2021年に帰国後、国際医療福祉大学三田病院消化器外科講師を経て、2024年5月より現職。医学博士。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。低侵襲性と根治性にこだわった治療の提供を心がけるとともに、臨床と研究の両方向から大腸がんの治療成績向上に貢献していくことをめざす。

大腸がんは早期であれば根治をめざせるので、40歳以上の人は年に1度検査を受けましょう。痔がある方の中には出血があって当然だからと便潜血検査が陽性でも大腸内視鏡検査を受けない人もいますが、実は大腸がんによる出血だったということも少なくありません。大腸がんの前段階であるポリープを早期で見つけるためには大腸内視鏡検査は非常に重要なので、便潜血検査は陰性でも、出血、血便、黒い便など症状があるときは必ず大腸内視鏡検査を受けてください。当院では医師、看護師、薬剤師、栄養士らによるチーム医療で、検査から診断、治療、入退院までを対応し、手術のための絶食期間を極力短くするなど早期の社会復帰にも努めています。

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