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自覚症状なく進行する胃がん
腹腔鏡手術で胃の全摘出の回避を

東京大学医科学研究所附属病院

(東京都 港区)

最終更新日:2024/11/15

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  • 保険診療
  • 胃がん
  • 逆流性食道炎

国立がん研究センターのがん統計によれば、胃がんは日本人で新たにがんと診断された数の上位を常に占めており、患者数の多いがんの一つだ。また、罹患者の平均年齢は70歳を超え、高齢者の病気になりつつある。高齢の患者が多くを占める現状を鑑み、「東京大学医科学研究所附属病院」では、患者への負担が少ない腹腔鏡手術を積極的に実施している。さらに可能なら胃の全摘出を避け、残せる部分は極力残すのが同院の胃がんの治療方針だ。胃がんの腹腔鏡手術を数多く手がけてきた日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医の愛甲丞(あいこう・すすむ)先生に、患者の体への負担を減らし、早期の体力回復をめざす胃がん治療の取り組みについて、胃がんの基礎知識と併せて紹介してもらった。(取材日2024年9月25日)

「残せる胃は残す」ことを目標に、低侵襲な腹腔鏡手術でがんの根治と機能の温存の両立を図る

Q胃がんの初期症状や早期発見の方法について教えてください。

A

「胃がんの早期発見には定期検診が有用」と話す愛甲先生

初期症状はほぼありません。胃もたれ、吐き気、みぞおちの痛みなども、実際に調べると胃炎や逆流性食道炎など別の病気が原因であることが多く、「たまたま同じ検査で胃がんも見つかった」ケースが大半です。中には胃の出入り口付近にできたがんが、もともと狭い部分をさらに狭くして食欲不振や胸焼けなどを招く場合がありますが、それもだいぶ進行してからの症状です。多くの胃がんは無症状のまま進行することがほとんどで、早期発見には定期検診が有用です。特に内視鏡検査は50歳以上なら2~3年に1度、50歳未満でも5年に1度は受けましょう。また、胃がんの発症リスクを高めるピロリ菌を見つける検査は20代からでも受けてください。

Q胃がんの治療法で腹腔鏡手術と開腹手術はどう違いますか?

A

腹腔鏡手術は傷口が小さく術後の痛みも軽減される

現状では放射線療法や化学療法だけで根治を図るのは難しく、ごく早期で内視鏡治療が可能な場合を除き、胃切除手術が第一選択です。腹腔鏡手術と開腹手術はどちらもおなかの中では同じ範囲を切除します。開腹手術だと腹部を約20cm切開しますが、腹腔鏡手術は5~12mmの穴を5~6ヵ所開けるだけで済みます。傷口が小さい分、術後の痛みが軽減され癒着も起こしにくいです。腹腔鏡なら微細な構造が見え、がん組織をより精密に切除しやすいのもメリット。早期がんでは標準手術とされますが操作が難しいため、進行がんの場合は執刀医の技術と経験が必要です。手術時間は開腹手術が3~4時間、腹腔鏡手術はそれより1時間ほど長くかかります。

Qこちらの病院は胃切除でも「残せる胃は残す」方針と伺いました。

A

可能な限り全摘は避けたいとの考えのもと、治療方針を決める

胃の切除後、特に全摘後は体重や筋肉が減りやすく、術後も体力が十分に回復しないことが多いのです。しかし最近はがんの状態により、胃を残せる場合もあることがわかってきました。そこで当院では初診日に患者さんの内視鏡検査を行い、消化器内科と外科の医師が話し合って治療方法を決定する方針です。「残せる胃は残す」方針のもと、ごく早期の胃がんなら内視鏡治療で、胃の切除手術を選ぶ場合も患者さんの年齢や体力、がんの状態を見極めながら胃の出口側を残す「噴門側胃切除」、胃の上部3分の1と胃の出口を残す「幽門保存胃切除」などの縮小手術も行います。胃がんは高齢の患者さんが多く、可能な限り全摘は避けたいと考えています。

Q高齢者の胃がん治療はどんな点に注意が必要なのですか?

A

同院では患者の負担を減らすため、ほぼ全例を腹腔鏡手術で対応

高齢の方にとって入院や手術は体力低下につながるリスク要因で、胃の全摘はさらにそのリスクを高め、術後に体力が回復せずに寝たきりになったり、肺炎など別の病気を招いたりすることもあるからです。このため当院では患者さんの体への負担を減らすことを重視し、ほぼ全例を腹腔鏡手術で対応。高齢の方の進行したがんの手術でも「残せる胃は残す」よう努めています。さらに術前からの適切な栄養摂取、術後のリハビリテーションなど体力回復に役立つサポートも積極的に行っています。「大きな手術後だからしばらく安静に」ではなく、なるべく食べて動くことが体力回復につながり、治療後の人生が充実したものになると考えています。

Q希少がんのGISTも腹腔鏡による治療を検討されるそうですね。

A

内科と合同で行う腹腔鏡・内視鏡合同手術

一般的な胃がんは胃の粘膜から発生するのに対し、GIST(消化管間質腫瘍)は粘膜下にある筋肉の層から発生します。リンパ節転移しにくいとされ、治療は腫瘍の大きさに合わせて切除する範囲を決める局所切除が第一選択です。当院では5cm程度までのGISTは腹腔鏡を用いた局所切除で対応することが多く、私自身豊富な実績があります。さらに内科と外科が協力する腹腔鏡・内視鏡合同手術により、胃の外側と内側から範囲を確認しながら手術することで、局所切除をより適切に行う低侵襲な治療に取り組んでいます。また、GISTが大きいと開腹手術になりますが、その場合も全摘ではなく、可能な限り局所切除で対応するよう心がけています。

Q胃の切除手術後、食事の制限や職場への復帰はどうなりますか?

A

原則食事制限はなく、少量の飲酒も可能です。ただし手術後は胃の容量が減り、一度に多くは飲めないし食べられないので、少量を、時間をかけて、よく噛んで食べるようにしましょう。噛まずに飲み込みがちな麺類は特に注意を。当院では栄養士による食事指導で、新しい食生活に慣れていただけるよう入院前から退院後まで継続してサポートします。食事量が減って栄養不足の場合は、栄養補助食品の取り入れ方をアドバイスし、内服薬の処方も行います。手術から退院までは1~2週間ほどですが、職場復帰のタイミングは力仕事の有無、職場のサポート体制、間食ができる環境かなどで異なります。退院1ヵ月後の診察時に判断するのが望ましいでしょう。

患者さんへのメッセージ

愛甲 丞 先生

2000年東京大学医学部卒業後、がん研究会有明病院、東京大学医学部附属病院等を経て、2020年より現職。専門は胃がんや食道がん、高度肥満症の腹腔鏡手術、ロボット支援手術。特に胃がん、GIST(消化管間質腫瘍)の低侵襲手術を得意とし、術後早期回復をめざし栄養や運動療法に注力。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本消化器内視鏡学会消化器内視鏡専門医。日本内視鏡外科学会評議員。

胃がんは罹患数が減少しつつあり、手術せず内視鏡で治療できる早期がんの割合が増えています。ただ、中にはスキルス胃がんのように発見が難しいがんもあるため、内視鏡に精通した医師に診てもらうことをお勧めします。当院では、初診日から消化器内科と外科の医師が協力して診療し、詳細な検査をもとに病状に応じた治療を速やかに提案できる体制を整え、入院までの待ち時間削減にも努めています。専門性の高い技術と豊富な治療経験を持つ外科と他科との連携で安全性に配慮した腹腔鏡手術を実践するほか、腹腔鏡・内視鏡合同手術、開腹手術などにも対応し、患者さんに適した治療を心がけていますので、ぜひご相談ください。

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