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診断の遅れが合併症のリスクにつながる
原発性アルドステロン症

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院

(神奈川県 横浜市港北区)

最終更新日:2023/12/08

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  • 保険診療
  • 高血圧症

ホルモンを分泌する器官である副腎の代表的な疾患の1つ原発性アルドステロン症は、副腎から分泌される血圧を上げるホルモンが過剰分泌され高血圧になる病気で、薬を飲んでも下がりにくい高血圧や若年から発症した高血圧が特徴的だ。専門性の高さから診断・治療ができる医療機関が限られているが、近年は、検査・診断の数も増えつつある。原発性アルドステロン症の診断・治療を行う横浜労災病院は、豊富な知見を備えて国内外に情報を発信するとともに、患者一人ひとりの病態を丁寧に評価し、適切な診療方針を提案している。そこで、同院の内分泌・糖尿病・代謝内科の齋藤淳内分泌・糖尿病センター長、鶴谷悠也糖尿病内科部長、中井一貴先生に原発性アルドステロン症の詳細を聞いた。(取材日2023年10月24日)

アルドステロンの過剰分泌が高血圧を引き起こす。早期診断し病態を見極め、手術または薬物療法で改善を図る

Q原発性アルドステロン症とはどのような病気ですか?

A

内分泌を専門とする内分泌・糖尿病センター長の齋藤先生

【齋藤先生】原発性アルドステロン症は、二次性高血圧という何らかの原因があって生じる高血圧症の代表的原因疾患です。アルドステロンは副腎から分泌されるホルモンで、体内に塩(ナトリウム)を残す作用を持ち、進化の過程で海から外へ進出した生物が、体液の量を保ち、血圧を維持するために大きな役割を果たしてきました。そのアルドステロンが、何らかの理由で自律的かつ必要以上に分泌されてしまう疾患の総称が原発性アルドステロン症です。高血圧の人のうち、5〜10%前後は原発性アルドステロン症の範疇にあるといわれており、とても頻度の高い疾患で、決して「珍しい病気」ではありません。

Q原発性アルドステロン症の症状を教えてください。

A

合併症によって脳卒中などを引き起こす可能性があると鶴谷先生

【鶴谷先生】最も多い症状は高血圧ですが、その他に特有の症状として、血液中のカリウムが減少する低カリウム血症があります。これは、関連するアルドステロンの過剰な作用によりカリウムが尿中に多量に排泄されることによるもので、自覚症状として脱力感や筋力低下、夜間多尿などがあります。合併症については、動脈硬化や出血といった動脈の障害がさまざまな臓器に起こりやすく、脳卒中、心血管障害、腎障害などが生じることがあります。一方で、動脈の障害は、肥満や喫煙、高血圧、糖尿病、脂質異常症によっても進行していくため、けして他の要因を無視して原発性アルドステロン症だけを治療すればよいというわけではありません。

Qどんな検査をして診断をするのでしょうか?

A

【中井先生】血液中のアルドステロン濃度を確認し、原発性アルドステロン症が疑われた場合は、さまざまな刺激を加えたときにアルドステロンがどう動くかを見る負荷試験を実施します。その動きが原発性アルドステロン症の特徴と合致すれば原発性アルドステロン症と診断されます。原発性アルドステロン症は大きくアルドステロン産生腺腫と特発性アルドステロン症に分かれ、病型や局在で治療法が異なります。確定診断された場合は、左右両方の副腎の静脈で採血する「副腎静脈サンプリング」というカテーテル検査でタイプを鑑別しますが、CTで副腎の形をみても直接診断にはならないため採血は非常に重要です。これらを入院検査で行います。

Qどのような治療法がありますか?

A

内分泌、原発性アルドステロン症を専門とする中井先生

【中井先生】手術療法と薬物療法があり、基本的には片側の副腎にアルドステロン産生腺腫がある場合は手術を、全体からアルドステロンが出てくる特発性アルドステロン症は薬物療法を選択します。手術は基本的には腹腔鏡手術で、術後アルドステロンが正常化すれば血圧の薬の服用をなくしたり減らしたりできます。薬物療法については、アルドステロンの分泌を正常化するのではなく、アルドステロンが悪さをするのを防ぐための治療になります。特発性アルドステロン症は病気の勢いがそれほど強くなく悪化することもあまりないため、ある程度は薬物でコントロールできますが、病気の勢いが強いアルドステロン産生腺腫の場合は手術をお勧めしています。

Q横浜労災病院ならではの特徴を教えてください。

A

副腎静脈サンプリングでカテーテルを挿入している様子

【中井先生】当院の診療の大きな特徴の1つは、超選択的副腎静脈サンプリング(SS-AVS)を実施していることです。通常の副腎静脈サンプリングでは出口の採血しか行いませんが、この方法では、中までカテーテルを挿入し区域ごとに採血することで、副腎のどの位置からアルドステロンが過剰に出ているのかを、より詳細に診断することができます。また、副腎部分切除術による副腎正常部分の温存手術に対応していることも大きな特徴です。部分切除は超選択的副腎静脈サンプリングで副腎の中でどの部分に病変があるかをある程度特定した上で初めて可能になる治療法で、アルドステロン産生腺腫の患者さんで適応のある人にはお勧めしています。

患者さんへのメッセージ

齋藤 淳 内分泌・糖尿病センター長

1987年愛媛大学医学部卒業。千葉大学医学部附属病院、国保旭中央病院、特別養護老人ホーム清和園、上都賀総合病院の勤務を経て、2000年横浜労災病院入職、2017年より現職。専門分野は内分泌・代謝内科。高齢者医療にも精通している。日本内分泌学会内分泌代謝科専門医。日本内科学会総合内科専門医。医学博士。

鶴谷 悠也 糖尿病内科部長

2003年千葉大学医学部卒業、2011年同大学大学院医学研究院卒業。同大学附属病院、千葉市立青葉病院、沼津市立病院、東京大学先端科学技術研究センター、公立学校共済組合関東中央病院等の勤務を経て、2015年横浜労災病院入職、2019年より現職。専門分野は糖尿病・脂質異常症。日本内科学会総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医。医学博士。

中井 一貴 先生

2012年東北大学医学部卒業。東京逓信病院、東京大学医学部附属病院での勤務を経て、2021年より現職。専門分野は内分泌、原発性アルドステロン症。日本内分泌学会内分泌代謝科専門医。医学博士。

【齋藤先生・鶴谷先生・中井先生】複数の薬を飲んでいるが血圧が下がらない、若い頃から高血圧だという人は、かかりつけの先生に相談の上、アルドステロンとカリウムのチェックをしてみてください。また、アルドステロン症で悩んでいる人にはぜひ手術療法で改善が期待できることを知っていただきたいと思います。当院は新横浜駅が最寄りにあり新幹線の便が良く、遠方からの患者さんも多くいらっしゃいます。ご紹介後は専門的な検査や手術は当院で、薬の処方は地元の先生にというように、基本的には地元の先生と連携して診療をしてまいります。毎回当院に足を運んでいただく必要はありませんので、遠方にお住まいの方もご心配なくご相談ください。

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