公益社団法人地域医療振興協会 東京ベイ・浦安市川医療センター
(千葉県 浦安市)
神山 潤 先生
最終更新日:2022/10/13
温かみあふれるケアと高度医療の融合
浦安市、市川市からの要請で2009年に開設された「東京ベイ・浦安市川医療センター」。救急に対応し高度な医療を提供する一方で、地域の医院と緊密に連携をとりながら、地元住民の健康を支える中核病院としても大きな役割を果たしている。合わせて、災害拠点病院としての機能も保有。日常の困り事から緊急時まで、幅広い対応力をもつ地域に欠かせない存在だ。診療の柱となるのは、「救急医療」「高齢化への対応」「小児医療」「周産期医療」の4分野。地域に根差した温かみのある医療を実現させるべく、各診療科の垣根を超えて医師やスタッフたちが協力し、患者をサポートする体制を構築している。循環器疾患の診療を行うハートセンターも、密な連携が形となったものの一つだ。人と人とのつながりを大切にする同院がめざす病院運営について、管理者であり、小児科の医師でもある神山潤先生に話を聞いた。(取材日2019年5月1日)
開院までの経緯と、病院が担う役割について教えてください。
当地の医療施設は大正年間に設置された伝染病の隔離病舎が起源で、その後「葛南病院」「浦安市川市民病院」と名称を変えて地域医療を支えてきました。2000年代初頭に医師不足で経営が困難になったことを受け、公募の末、現在の公益社団法人地域医療振興協会が運営主体となり、従来の「地域に根差した病院」というコンセプトはそのままに新病院として生まれ変わり、2012年には新病棟をリニューアルオープンさせました。リニューアルにあたり、総合内科やICU、救急科など、技術力の高い医師たちが参集してくれたことは、現在も大きな力となっています。診療の柱は「救急医療」「高齢化への対応」「小児医療」「周産期医療」の4つ。中でも救急医療、高齢化への対応は極めて重要で、今後の地域医療構想においても重点が置かれている分野です。
診療の特徴や近隣クリニックとの連携体制はいかがでしょう。
新病棟のリニューアルというゼロからのスタートだったことが幸いし、診療科ごとの垣根を超えた患者さん対応が実現できました。当院では、救急科がすべての救急患者さんに対応、重症な方はICUやHCUで、内科系は総合内科、外科系は一般外科、脳神経外科、整形外科など専門のドクターにつなげます。救急集中治療部門が中心となって全体をコントロールしていくこの仕組みは、いくつかの病気を併発されているご高齢の方などにもメリットが大きいと感じています。周辺クリニックとの日常的な協力体制の構築も、地域医療に欠かせない要素の一つです。当院では地域医療連携室を設置し、各医院へのごあいさつや勉強会の開催といった「顔の見える関係」づくりに注力しています。患者さんを紹介していただいた時には素早く対応し、丁寧なお返事を心がけています。地域の先生方から「すぐに詳しい返事をもらえた」などの声をかけていただけるようになりました。
救急対応や循環器疾患に特に力を入れているとか。
救急では患者さんが増える夜の時間帯に医師を増やすなど、受け入れ体制を整えています。浦安、市川域内の救急収容率は高く、当院の救急車応需率も高水準を保てているかと思います。これは、開院当初より「多くの患者さんをいつでも受け入れるようにするにはどうすれば良いか」という課題を掲げ、医師やスタッフと何度も議論を重ねたたまもの。救急の医師から各科の医師に連絡をとって判断を仰ぐなど、連携がとられています。循環器疾患においてはアメリカで研鑽を積んだ医師が中心となりハートセンターを結成し、診断から治療、リハビリテーションまでを一貫してケア。低侵襲の医療を提供するために、低侵襲心臓手術(MICS)、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)や経皮的僧帽弁クリップ術による治療を、循環器内科と心臓血管外科が協力して行っています。県内だけでなく、全国から手術を受けに患者さんがいらしています。
専門である小児医療の経験は病院運営にどう生かされていますか?
子どもの睡眠を専門に研究してきた経験を役立てるべく、週2回の頻度で睡眠専門の外来を開設。赤ちゃんの夜泣きでお困りのお母さんや、朝起きられない小中学生、夜眠れないビジネスパーソンなど、さまざまな睡眠関連疾患の相談窓口として診療を行っています。また当院の小児科は「大きな病院での高度な医療」と「一次診療を受け持つクリニックでの医療」の間を取り持つ病院として、入院依頼があればいつでも引き受ける一方、より専門的な医療が必要な際には連携病院にご紹介しています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
当院は公益社団法人地域医療振興協会のフラッグシップ病院の一つとして、全国の地域医療・へき地医療を支援するという大きな役割を担っています。将来の医療界に羽ばたく若い医師たちが常に切磋琢磨できる教育環境の整備に力を入れていきたいですね。合わせて喫緊の課題、働き方改革を念頭にタスクシフトなど、新たな診療スタイルの確立も、院内一丸となって取り組むべき課題の一つです。各セクションが手を取り合い、スタッフそれぞれに良いと思われる空間をつくっていきます。日々の診療では、患者さんとのコミュニケーションやふれあいをより大切にしたいと考えています。「手当て」という言葉があるとおり、治療は、患者さんに手を当ててお話をするところから始まります。一人ひとりの患者さんとしっかりと向き合いながら、手当てをする。この理念を受け継ぐ医師の育成にも力を注ぎながら、地域の皆さまに信頼される病院をめざしていきます。
神山 潤 先生
専門は子どもの発達や健康教育、睡眠の分野など。学生実習時、保健所で乳幼児健診にあたっていた医師の姿に影響を受けて小児科の医師を志す。卒業後に勤務した東京医科歯科大学が子どもの睡眠についての検査を行っていたことから、研究に取り組むように。現職就任後も子どもから大人までを対象とした睡眠専門の外来を開設するなど、豊富な経験を生かした医療の提供に尽力する。