安全性に配慮された環境で受ける
顎変形症の治療
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター
(大阪府 大阪市住吉区)
最終更新日:2025/02/07
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- 保険診療
「顎変形症」について、どのような疾患なのかを知る人は少ないだろう。顎関節症とも混同されがちだ。しかし、症状に悩む人にとっては、日常生活のさまざまな場面で不便さや不都合を感じることが多く、場合によっては睡眠時無呼吸症候群の要因になることもあると、「大阪急性期・総合医療センター」歯科口腔外科主任部長の石原修先生は言う。同院の歯科口腔外科では、多くの場合、全身麻酔での手術が必要となる顎変形症に対して、安全性に十分に配慮するとともに、患者への負担をできる限り抑えた低侵襲の治療を実践している。「ICUや麻酔科と連携して術後管理を行えるのが当院の強みです」と語る石原修先生に、顎変形症とはどのような疾患なのか、手術はどのように進められるのかなど、詳しく教えてもらった。(取材日2024年12月20日)
目次
ICUや麻酔科との連携を生かして安全性を重視した手術を行う
- Q顎変形症とはどのような疾患ですか?
- A
歯科口腔外科の石原修先生
顎の骨の大きさや位置に問題があるため、受け口(反対咬合)や出っ歯(上顎前突)といった噛み合わせの異常、顔のゆがみなどが生じている状態です。当院に来られる患者さんの場合、理由で最も多いのは見た目の問題で、噛みづらい、食べにくい、食べる際に音がする、滑舌が悪い、うまく発音できないなど、皆さんそれぞれに悩みを抱えておられます。見た目に大きく関わるので、以前は20代の若い患者さんが多かったのですが、最近は50代の患者さんも増えており、さまざまなメディアを通して顎変形症に対する治療があることを知り、「これが治療できるんですね」「今まで治療できるとは思っていませんでした」と来院されます。
- Q放置するとどういったリスクがありますか?
- A
患者への負担をできる限り抑えた顎変形症の治療を行う
食事は毎日のことなので、常に噛みづらさや食べにくさを感じたり、音がするのを気にしていたりすると、QOLの低下につながってしまいます。上下の前歯が噛み合わない開咬の方は、前歯で食べ物を噛み切れないので、食べられるものも限定されます。滑舌の悪さや見た目もご本人にとってはとても深刻な問題で、それがコンプレックスとなって悩んでおられる方も少なくありません。また、顎の発育が不十分で顎が小さい方は、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高くなってしまいます。こうした場合は、顎を前に出し、喉を広げるための手術を行うことで、舌が喉のほうに落ち込んで気道をふさぐ状態にならないように導き、無呼吸症状の改善を図ります。
- Qどのような治療を行いますか?
- A
硬性内視鏡支援下骨切り術の実際の様子
治療が適用できるのは、男性は18歳以上、女性が16歳以上で骨の成長が完了した方です。当院に来られる方は、歯列矯正では改善が見込めない骨に問題がある方なので全身麻酔下で骨切りの手術を行います。受け口の方の場合は、手術で下顎の骨の一部を切り、顎を後ろに下げることで、正しい噛み合わせへと導きます。場合によっては、上顎の手術も行い、前に出したり後に下げたりすることで正しい噛み合わせをつくることもあります。顔のゆがみが生じている場合は、目から歯までの骨の高さが違うため、上顎を切って高さをそろえていきます。手術は口の中から行います。硬性内視鏡を応用し、周囲の血管や神経に十分な注意を払って処置します。
- Q手術に要する時間や入院期間が気になります。
- A
チーム一丸となり患者をサポートしている
当院の場合、下顎の手術の場合2時間〜2時間半、上下の顎の手術は5〜6時間ほどかかります。入院期間は平均して9日程度です。下顎だけの手術の場合は当日の夜から、上顎も処置した場合も翌日から流動食を食べていただき、退院までに軟食に移行します。また、食事をすると口の中が汚れるため、術前に加えて術後も歯科衛生士が口腔内ケアを行います。術後は口の中に傷口があり、ブラケットと呼ばれる矯正装置がついているため、難易度の高いケアです。入院中の患者さんの身の回りのお世話は看護師が担当し、術後1ヵ月間程度は食事の制限があるため、退院後の食生活について管理栄養士が指導を行うなど、チームで患者さんをサポートします。
- Q御院の顎変形症治療の特徴を教えてください。
- A
ICUや麻酔科と連携して術後管理を行っている
上下の顎の手術は侵襲度が高く、生命に関わる気道閉塞のリスクもあります。このためICUと連携して術後管理を行います。気管挿管を行う麻酔科とも協力するため、手術後に気管切開が必要となるようなトラブルが起きたことはありません。気管切開を行うと侵襲度が高くなり、回復も遅くなってしまいます。また、術前および術後の周術期口腔ケアを担当する歯科衛生士は、手術の際の合併症の予防に努めることで治療を円滑に進め、入院期間の短縮に貢献しています。特に傷口のある術後のケアでは、短時間で、効率的なケアを行うことを大切にしており、各歯科衛生士のケアのクオリティーを担保するため、勉強会やセミナーに積極的に参加しています。
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石原 修 主任部長
1987年日本歯科大学卒業。1991年日本歯科大学大学院修了。愛知県がんセンター頭頸部外科、日本歯科大学新潟歯学部第二口腔外科などで勤務した後、2001年より現職。日本口腔外科学会口腔外科専門医。専門分野は口腔がん、顎変形症の外科的治療、顎顔面インプラント治療。