総合病院で行う生殖医療
生殖に関するすべての段階の医療を提供
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター
(大阪府 大阪市住吉区)
最終更新日:2024/02/21
「大阪急性期・総合医療センター」の生殖医療センターは、総合病院の中で不妊治療を担当する部門だ。その強みを生かして、産科、婦人科、泌尿器科、内科など多数の診療科と連携し、がんをはじめとするさまざまな合併症を持つ患者にも生殖医療を実践し、「卵からゆりかごまで」をキャッチフレーズに、トータルな医療を展開する。生殖医療センターセンター長の森重健一郎先生と産科・婦人科医長の久保田哲先生に、不妊の原因や治療の基本から、同院が注力する総合病院ならではの生殖医療を詳しく聞いた。(取材日2023年12月22日)
目次
不妊の原因は男女半々、夫婦の意識をそろえ一日でも早く相談を
- Q不妊の原因と検査を受けるタイミングとは?
- A
【久保田先生】原因は男女で半々です。男性側の原因としては無精子症、精子の数や活動性の低下など、女性側では卵巣から排卵されない、卵管や子宮内腔、子宮頸管の障害で受精や着床が困難といった原因があげられます。一般的に半年間避妊なしで夫婦生活があれば約6割が妊娠に至り、1年間では約9割に上がると言われています。ただ昨今は初婚年齢が30歳を超え、妊娠トライを始める年齢も上がっています。女性は35歳を過ぎると妊娠しやすさが急激に低下するので、妊娠のチャレンジから1年待たずに不妊の治療を始めることをおすすめします。また、女性側だけが検査を受けるケースがよくありますが、夫婦で検査を受けることが大切です。
- Q不妊の検査や治療の内容とは?
- A
【久保田先生】男性の場合は精液の検査が基本で、女性の場合は排卵から着床に至るまでのどこに原因があるかを検査します。血液を採取してホルモンの検査を行い、排卵の有無の確認や、超音波検査やエックス線検査で卵管と子宮を詳しく調べます。それらの検査で、例えば、排卵に問題があれば排卵を起こすための薬で治療します。卵管の閉塞には内視鏡で治療する方法の他、不妊治療が保険適応になってからは、すぐに体外受精に進む人も増えてきています。体外受精とは、卵子を取り出し精子と受精させた後に培養器で育て、子宮内に戻す治療法です。卵子や精子、受精卵を専門に扱う高い技術を持つ培養士にも支えられて治療を実施しています。
- Qがんになるとこの先も妊娠ができるか不安です。
- A
【森重先生】抗がん剤治療で、妊孕性(子どもをつくる能力)を失う可能性のある10代から30代の若いがん患者さんを対象に、妊孕性を温存する相談や医療にも対応しています。特に、大阪では、「大阪がん・生殖医療ネットワーク」という連携組織があり、がん治療を行う医療機関から、妊孕性温存を望む若い世代のがん患者さんが紹介されてきますので、随時相談に応じています。この場合は、がん治療を行う他院の主治医と情報交換し、適切なタイミングで治療と生殖医療を行うことを心がけています。あらゆるがんに対応しますが、例えば、卵巣のがんでは卵巣の正常な部分を残すというような治療は婦人科で実施します。
- Q総合病院の不妊治療ならではの特徴についてお教えください。
- A
【森重先生】合併症を持つ患者さんの場合、その病気の診療を担当する当院の他診療科と密に連携しながら不妊治療にあたることができます。例えば、薬の調整をしながら妊娠をめざしたり、病気が落ち着いているタイミングで妊娠のトライをしたりなど、他科と連携の上ですすめることができます。また持病がある方ですと、妊娠後はリスクを背負っての出産になります。当院には患者さんの診療情報がそろっているので、安心して出産に臨むことができると思います。いろんな病気を抱えた方に対しても、不妊治療や、妊娠のサポート、妊娠中、分娩するまでのフォローアップと、すべての段階の医療をワンストップで提供することができるのが当院の強みです。
- Q流産でお悩みの方の相談も受けているそうですね。
- A
【久保田先生】女性は35歳を超えると妊娠のしやすさが急激に低下し、40歳の方が体外受精を行った場合の着床率は2割程度と言われています。妊娠する年齢があがっている今、妊娠する年齢が上になればなるほど流産のリスクが高まります。そして流産したら次に妊娠をトライするのに、少し時間を空けないとなると、心身への負担もかかってしまいます。当院ではそんな流産でお悩みの方もご相談いただけたらと思います。ちなみに男女共にタバコは不妊の大きな原因。精子の数がしっかりあっても質への影響や流産しやすくなることもあるため、今日からでも止めましょう。
森重 健一郎 センター長
1985年大阪大学医学部卒業。米国メイヨークリニック研究員、大阪府立成人病センター婦人科医長、大阪大学大学院医学系研究科准教授を経て、2010年~2022年岐阜大学大学院医学系研究科産科婦人科学教授。2022年4月大阪急性期・総合医療センター生殖医療センター長に就任。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医。婦人科腫瘍と妊孕(にんよう)性温存が専門分野。
久保田 哲 医長
2008年大阪大学医学部医学科卒業。市立豊中病院産婦人科、大阪労災病院産婦人科、大阪大学医学部附属病院産婦人科、大阪府済生会中津病院産婦人科を経て、2018年から大阪急性期・総合医療センター産科・婦人科勤務。日本産科婦人科学会産婦人科専門医。