エビデンスに基づく世界標準の治療を大切に
あらゆる乳がんに対応
地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪急性期・総合医療センター
(大阪府 大阪市住吉区)
最終更新日:2024/02/20
- 保険診療
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日本人女性が罹患することが多いがんである乳がんは増加の一方を辿っている。「大阪急性期・総合医療センター」の乳腺外科では、加々良尚文主任部長を中心とする専門の医師たちが乳がん治療に注力。高度な治療の提供をめざし、低侵襲の手術から薬物療法、放射線療法、形成外科との連携による乳房再建まで多角的な治療に取り組んでいる。さらに、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の遺伝子検査・診断・予防的治療にも対応するなど、女性の健康と不安に寄り添うことに余念はない。「乳がんは想像以上に身近な病気だから、検診異常はもちろん、おかしいなと感じることがあれば相談していただければと思います」と話す加々良先生に、乳がんについて詳しく解説してもらった。(取材日2023年12月27日)
目次
30代ごろから罹患率が増加する乳がん。定期的な検診や気軽な受診で早期発見を
- Q乳がんとはどのような病気ですか?
- A
乳腺にできる悪性腫瘍で、日本人女性が罹患するがんの中で最も多いがんといわれています。どの年代にも発症する可能性があり、30代ごろから罹患率が増加し、発症のピークは40代〜50代頃。早期発見し治療できれば治癒も期待できますが、乳がんで亡くなる女性は年々増加しており、閉経後の60代以降でも油断できません。乳がんの原因ははっきりと解明されていないものの、女性ホルモンや月経歴、出産歴、授乳歴、飲酒習慣、肥満、女性の社会進出によるストレス、経口避妊薬の服用などが関係すると考えられています。現代は9人に1人が乳がんにかかるともいわれる時代。命を守るためにも他人事にせず、定期的な検診を受けることが大切です。
- Q乳がんにはどのような症状があるのでしょうか?
- A
乳がんは初期症状が乏しく、ごく初期の段階ではほとんど気がつきません。全身症状もほとんどないため、だるさや食欲不振などの全身症状もみられません。そのため、マンモグラフィなどの検査でがんが発覚して驚くことも多いのです。自覚症状としては、乳房のしこり、ひきつれやへこみなど皮膚の異常、乳房の左右差や変形、脇の下の腫れ、乳首のただれ、乳頭からの異常な分泌物などを認めるようになります。これらの症状すべてが乳がん特有の症状だというわけではありませんが、自己診断は非常に危険です。乳がん検診で異常を指摘された時やこれらの症状に気がついた時は、できるだけ早く専門機関を受診し、必要な検査を受けることが大切です。
- Q遺伝する場合もあるのでしょうか?
- A
遺伝性乳がん卵巣がん症候群という特定の遺伝子に生まれながらの変異があり、それによって起きるがんがあります。若年で発症することが多く両方の乳房にがんを発症する、片方の乳房に複数回発症する、乳がんと卵巣がんを併発する、男性でも発症するなどの特徴があり、全乳がんの約5〜10%が遺伝性の乳がんだといわれています。遺伝性乳がん卵巣がん症候群であるかどうかは、遺伝子検査によって調べることが可能で、条件がそろえば健康保険の適応となります。遺伝子の変異は体質のようなものなので変異そのものを治療することはできませんが、早期発見のために検診回数を増やすなどして、リスクの低減を図れます。
- Q治療を始めるタイミングとは?
- A
乳がん治療のタイミングは、がんの大きさやステージによっても変わりますが、早期発見・早期治療であるに越したことはありません。できるだけ小さいうちに発見すれば転移の心配も少なく、手術も低侵襲で済むことが多いため、社会復帰までの期間も短くなります。ただ、ほとんどの乳がんは急にできたものではなく、これまでにゆっくり時間をかけて大きくなってきたもの。今日、明日に緊急手術をと焦る必要はまずありません。仕事や妊娠などの希望があれば、まずは主治医に伝えよく相談しましょう。ただし、急ぐ必要がないのは検査を終え、診断が出てからのこと。異変を放置していると想像以上に進行し、全身に転移にする可能性もあります。
- Q治療にはどのような方法がありますか?
- A
乳がんの治療はまず手術が基本で、術前や術後に補助療法として抗がん剤やホルモン剤などの薬物療法や放射線療法を組み合わせて行います。手術の方法はがんの部分だけを切除する乳房温存手術と全摘出をする乳房切除術があり、がんの状態や患者さんの希望に合わせて術式を検討します。遺伝性乳がんの場合には、がんができた乳房だけでなく反対側の乳房も切除することが可能です。乳がん治療には、標準治療といわれる現時点で効果が期待される治療法が存在します。自分のがんに対してどんな治療を行うのか、納得するまで主治医と話し合い、納得して治療法を選びましょう。また、手術によって失われた乳房は、形成外科で再建を図ることが可能です。
加々良 尚文 主任部長
1998年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院乳腺外科で常勤医師として研鑽を積み、2022年4月大阪急性期・総合医療センターに入職。2022年4月より現職。エビデンスに基づいた世界標準の治療を大切に、専門的で高度な医療の提供に尽力している。日本乳癌学会乳腺専門医、日本外科学会外科専門医。