妊娠・出産を諦めない
妊孕性温存をめざす婦人科がん治療
独立行政法人地域医療機能推進機構 東京高輪病院
(東京都 港区)
最終更新日:2023/11/14


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子宮頸がんや体がんになってしまったら、妊娠や出産は諦めないといけない。そう思っている人も多いだろう。しかし、「以前は子宮を全摘出しなければいけなかったような場合でも、現在は妊孕性を残したままの治療がめざせることもあります」と話すのが、東京高輪病院の池田俊一婦人科部長だ。池田婦人科部長は、子宮頸がんや体がんをはじめとする婦人科がんを専門としており、妊娠や出産を望む患者に対しては、その豊富な経験や知識、技術を生かしながら、できるだけその希望に添えるよう尽力しているという。そこで、婦人科がんの基本的なことや同病院で取り組んでいる治療などについて、池田婦人科部長に詳しく教えてもらった。(取材日2023年8月22日)
目次
妊娠や出産を諦めないためにも定期検診やワクチン接種、早期の受診が大切
- Q子宮頸がんになったら妊娠や出産は諦めざるを得ないのですか?
- A
子宮頸がんは、20〜30代の女性に増加しています。以前は、初期の子宮頸がんでも、多くの場合で子宮摘出が治療として選択され、妊娠や出産は諦めないとならない時代がありました。しかし、ごく初期の子宮頸がんであれば、子宮頸部円錐切除術と呼ばれる手術を行い、それ以上に広がりがなく、術後に状態が落ち着けば妊娠や出産も望めます。また、最近ではもう少し進行していて以前であれば子宮全摘出が必要な場合でも、妊娠の可能性を残せるよう広汎子宮頸部摘出術で妊孕性の温存を図ります。
- Q子宮頸がんなど婦人科系のがんはどのように発見しますか?
- A
婦人科がんを専門とする池田婦人科部長
初期の子宮頸がんは自覚症状がないことがほとんどです。そのため、子宮頸がん検診で子宮の入り口の部分である子宮頸部を、先端にブラシのついた専用の器具で擦って細胞を採り、顕微鏡で異常な細胞がないかを調べる細胞診を行います。子宮体がんでは、多くの場合で不正出血があります。そのため子宮体がんが疑われる不正出血があれば、細胞診や子宮内膜の一部を採取し顕微鏡で調べる組織診、超音波検査などを行います。卵巣がんや卵管がんも初期の時点ではほとんど自覚症状はありません。服のウエストがきつくなる、下腹部にしこりが触れる、食欲がなくなったなどの症状をきっかけに受診し卵巣がんや卵管がんであることがわかることもあります。
- Q検診でも発見できるがんとできないがんがあるのですね。
- A
病理検体を顕微鏡で観察している様子
子宮頸がんに関しては検診でわかりますが、子宮体がんや卵巣がん、卵管がんなどは検診で見つけるのは難しいのが現実です。また、子宮頸がんについても、扁平上皮がんと腺がんがあります。特に、腺がんの中には急速に進行するものがあり、1年前の検診では何もなかった人にがんが見つかることがあります。そのリスクは、大多数の子宮頸がんの原因である感染しているHPV(ヒトパピローマウイルス)の型によってわかりますので、一般の子宮頸がん検診の他に、HPV感染の有無や、その型を検査し、ハイリスクの型があれば細胞診で異常がなくても短い期間で検診を受けることが必要だと考えます。
- Q妊孕性を温存するには、どのように治療を行いますか?
- A
定期的に検査を受けることが重要だという
ごく初期の子宮頸がんで妊娠や出産を希望する場合には、先ほども話したがんがある子宮頸部を円錐状に切除を図る子宮頸部円錐切除術を行います。また、もう少し進行している子宮頸がんに対して行う広汎子宮頸部摘出術でも、子宮や卵巣、卵管などの機能を温存しつつ治療を行うので、術後に落ち着けば妊娠も望めます。子宮体がんについては、ごく初期の場合には、MPA(メドロキシプロゲステロン)と呼ばれる抗悪性腫瘍経口黄体ホルモン製剤を投与して、がんを消失させることをめざします。卵巣がんも、子宮やがんのない側の卵巣と卵管を切除せず手術をすることで、妊娠の可能性を残すことができる場合もあります。
- Q妊娠や出産の機会を失わないために、何をすべきでしょうか?
- A
子宮頸がんについては、定期的な検診を受けること。HPVの感染の有無や感染していればその型を知り、ハイリスクなタイプであれば、短い間隔で検診を受ける。また、子宮頸がんの90%以上はHPVウイルス感染が要因とされていますので、HPVワクチンを接種することもお勧めします。子宮体がんは、多くのケースで不正出血がありますので、茶色いおりものを含む不正出血があれば、速やかに婦人科を受診することが重要です。また、月経不順がある場合は、ピルなどを用いて生理のコントロールを図ることもがんになるリスクを減らせると考えられます。婦人科がんで妊孕性を保つことにおいても、早期発見と早期治療が重要です。

池田 俊一 婦人科部長
1986年埼玉医科大学卒業。1991年鹿児島大学大学院で医学博士号を取得。国立がんセンター中央病院でがんについて専門的に学んだ後、鹿児島大学医学部助手、米国ニューヨーク大学メディカルセンター、東京女子医科大学講師、国立がん研究センター中央病院医長などを経て2023年より現職。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医。