顔面骨骨折で顔が変わることも
詳細な画像診断に基づく治療が重要
独立行政法人地域医療機能推進機構 東京高輪病院
(東京都 港区)
最終更新日:2023/11/15


- 保険診療
- 顔面骨骨折
見た目に大きく影響を与えるだけでなく、見る、食べる、においを嗅ぐ、呼吸をするなど、さまざまな役割を果たしている顔面。その顔面を構成している骨が、何かしらの理由で折れてしまったのが顔面骨骨折だ。そして、「顔面骨骨折は、骨がずれた状態で固定されてしまうと治療するのが難しくなるため、速やかに受診することが重要です」と話すのが「東京高輪病院」形成外科の大塚尚治先生。同院では大塚先生の豊富な経験を生かし、できるだけ単純エックス線撮影で診断することで被ばく量の軽減に努めると同時に、必要であれば院内外の他診療科とも連携しながら、骨折した顔面の見た目や機能を元の状態に回復させることをめざしている。そこで顔面骨骨折の基本的なことや治療について、大塚先生に詳しく教えてもらった。(取材日2023年8月22日)
目次
速やかに治療を行うことが大切になる顔面骨骨折。被ばく量にも配慮しながら適切な診断と治療をめざす
- Q顔面骨骨折とはどのようなものでしょうか?
- A
外傷によって、前頭骨と呼ばれるおでこの部分の骨の陥没や、眼球が入っている頭蓋骨の丸い窪みの底の部分である眼窩底、鼻骨、頬骨、上顎や下顎など、顔面の骨の骨折のことを顔面骨骨折と言います。外傷の原因は、お酒に酔って転んでしまった、高齢者が階段から誤って転落した、自転車で転倒した、スポーツ中のアクシデントなどが多いです。眼窩底骨折をすると、目の位置がずれることでものが二重に見えるようになる。鼻骨を骨折すると鼻が曲がり、鼻出血や鼻の通りが悪くなる。頬骨を骨折すると、皮膚のしびれが起きる。上顎や下顎を骨折すると噛み合わせがずれたり、口が開けられなくなったり、などの障害が起こることが少なくありません。
- Q顔面骨骨折で顔が変わってしまう可能性もありますか?
- A
顔面骨骨折の原因と症状について語る大塚先生
骨折すると変形を来たすことが多いですから、顔が変わってしまうことも当然あります。鼻骨を骨折すると鼻が曲がってしまうことがほとんどですし、頬骨を骨折すると頬の出っ張っている部分が引っ込んで、片方だけ平らになってしまいます。そして、これらを治療せずにしておくと、骨がずれた状態でくっついてしまいますから、もし後から治そうとしても、わざわざ骨折させなくてはいけなくなるなど大変になります。ですから、診療ガイドライン的には2週間以内ですが、骨折したらできるだけ早く手術をしたほうが良いのです。特に、眼窩底骨折によってものが二重に見えている場合は、できれば即日など早い段階で手術をする必要があります。
- Qどのように診断や治療をするのでしょうか。
- A
左頬骨・下顎骨骨折術前のレントゲン写真
まずは、単純エックス線撮影を行います。それで大体のことがわかりますが、必要な場合には骨折している部分を集中的にCT撮影で確認します。その結果によって、必要であれば手術をして、プレートなども用いながら骨を正しい場所に固定し、外観や機能をより正常に近く回復させることをめざします。また、骨折をしていても骨のずれが少ない場合などは、手術をしても意味がないですから、そのまま様子を見ることもあります。印象としては、8割くらいのケースで手術が必要になります。治療は、形成外科単独で行うこともありますが、眼窩底骨折などは眼科、鼻骨骨折などは耳鼻咽喉科、上下顎の骨折などは歯科口腔外科と連携して行うこともあります。
- Q被ばく量の少ないエックス線撮影で診断ができると聞きました。
- A
患者の状態によって適切な治療方法を選択している
私は形成外科を専門にしてから35年以上がたちますが、以前は必要なときしかCT撮影はしていませんでした。しかし、最近ではほぼ全例で、いきなりCT撮影を行う医師や病院がほとんどです。ですが、例えば10代前半の人は放射線の感受性が強いですし、CT撮影は単純エックス線撮影の10〜20倍の被ばくをします。それでも、基本的には問題のない被ばく量ですが、10代前半までの人などは注意をすることに越したことはありません。私は、単純エックス線撮影だけで診断する訓練を受けており、それだけで済むことも多いと考えています。余計な被ばくを避けるため先に単純エックス線撮影を行い、必要なときだけCT撮影をしています。
- Qこちらの病院の特徴を教えてください。
- A
まず、形成外科があることです。例えば、鼻を骨折した場合に耳鼻咽喉科の医師が治療をすることもありますが、鼻の通りなど機能的なことに重きを置いて治療をすることがほとんどで、鼻が曲がったままになってしまうことがあります。形成外科で治療しても、多少の曲がりが残ることもありますが、外観もできるだけ考えながら治療を行っています。同様に、顔を切開してスクリューでプレートを固定するような手術が必要な場合でも、傷が目立ちにくい場所からアプローチをしますので、近づいてよく見ないとわからないくらいの傷で治療をすることが望めます。また、先天性疾患では院内外で他の診療科と連携して治療にあたれるのも特徴です。

大塚 尚治 先生
1986年昭和大学卒業。同大学形成外科学教室に入局。同大学病院や関連病院勤務、同大学横浜市北部病院形成外科教授などを経て、2023年より現職。日本形成外科学会形成外科専門医。医学博士。