スポーツによる肩のけが
その手術とリハビリテーションについて
独立行政法人地域医療機能推進機構 東京高輪病院
(東京都 港区)
最終更新日:2025/01/22
- 保険診療
- 五十肩(肩関節周囲炎)
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スポーツに取り組む中で、肩のけがや痛みに悩まされている人は少なくないだろう。「肩を痛めても、薬物療法とリハビリテーションだけで競技や日常生活への復帰が期待できることも少なくありません」と話すのが、「東京高輪病院」整形外科の熊本久大先生。一方で、手術をしないと完治が望めないことや、放置していたことで悪化し難しい手術が必要になることもあるので注意が必要だとも言う。そこで、肩関節疾患とスポーツ整形外科が専門で、関節鏡を用いた肩の手術も得意としている熊本先生に、スポーツにおける肩のけがの原因や治療方法などについて、詳しく教えてもらった。(取材日2024年11月14日)
目次
体の構造上、けがをしやすい肩。保存療法や手術などで競技や日常生活への復帰をめざす
- Qスポーツによる肩のけがの主な原因は何ですか?
- A
まず、肩は人間の体の中で可動域が一番広い関節であることです。言い換えると一番不安定な関節で、強い外力で外傷性肩関節脱臼などになりやすい。もう一つは、腕を上肢として使うのは人間だけで、ほかの動物はすべて前足です。人は2本足で立ち、腕を下ろした状態から物を投げるなどさまざまな動作をするので、負担がかかりやすいのです。そのため、ラグビーやアメリカンフットボールのような強い身体的接触があるスポーツなら脱臼、野球やバレーボールなら上腕骨と肩甲骨が衝突して起こす関節唇損傷が多いです。武道でも肩の腱板や筋を痛めることは少なくありません。上肢を使うスポーツであれば、どれでも肩はけがしやすいと言えるでしょう。
- Q肩を痛めた場合の初期対応はどうすればよいですか?
- A
まずは肩を安静にすることが重要です。腕を下げていると不安定になるため、三角巾でつるなどして動かさないようにします。次に、よく冷やすことです。肩を痛めると炎症を起こし熱感が出ますので、それを落ち着ける必要があります。ただ近年では冷やすと治癒過程を遅らせるので、治癒促進のためには温めたほうが良いという論文も出ています。しかし、炎症を治める必要はありますので、バランス良く対処することが大切です。これらの処置とリハビリテーションなどで治癒が見込めることもあり、全例で手術が必要になるわけではありません。一方で、痛めたときには検査を受けて実際に何が起きているのかを知り、再発や悪化を防ぐことが重要です。
- Q肩のけがに対する手術にはどのようなものがありますか?
- A
一つは、肩関節脱臼の際に行う肩関節唇形成術です。肩関節を構成する肩甲骨と上腕骨は、腱板と肩甲骨関節窩に付着する関節唇からはじまる関節包靭帯でつながっていますが、脱臼ではこの関節唇が剥がれてしまうことが多いです。肩関節唇形成術ではその剥がれた関節唇を修復します。次に、野球などに多いSLAP損傷(肩関節上方関節唇損傷)の手術です。投球動作やバレーボールなどのオーバーヘッドの動作によって損傷した上方関節唇を修復します。もう一つは、中高年に多く五十肩と間違えやすい肩腱板断裂の修復手術。この手術では切れてしまった腱板を骨に縫いつけます。これらの手術はすべて関節鏡で行い、かかる時間は1〜1時間半程度です。
- Q手術後のリハビリテーションについても教えてください。
- A
基本的に手術の翌日からリハビリテーションを開始します。しかし、肩の手術は腱板でも関節唇でも糸で結んで留めているだけですので、直後から激しく動かすと、切れたり剥がれたりする恐れがあります。また、肩の関節は上腕骨と肩甲骨からできていますが、実際の動作では、鎖骨や胸郭、胸椎、股関節といった体幹の動きや開き、安定性が非常に重要になります。そのため、手術の直後は肩関節以外のそれらの部分をしっかりと使えるようにするためのストレッチから始め、肩関節のリハビリテーションは徐々に進めることが大切です。その際は医師とリハビリテーションスタッフ、患者さんがしっかりとコミュニケーションを取りながら行うことが必要です。
- Q手術後にスポーツ復帰をめざす際の注意点は何ですか?
- A
特にアスリートの場合は、肩を治すだけでなく競技に復帰することが目標になります。そのためには、体幹の筋力トレーニングや股関節のストレッチなど、肩以外の部分の維持が非常に大切です。また、肩をけがした場合でも、その根本的な原因はプレースタイルが関係している場合があります。例えば、野球であれば投球動作に悪いところがあり手投げになっていると、一度治療しても再び痛める可能性が高くなるのです。つまり、再発を防ぐには投球動作へのアプローチも必要になります。また、肩は1回脱臼すると繰り返す可能性が非常に高いことがわかっています。その度に骨や靱帯も傷つきますから、早めに手術を受けることをお勧めします。
熊本 久大 先生
2002年昭和大学卒業。昭和大学病院や日本鋼管病院、東京明日佳病院(現・おくさわ脳卒中リハビリテーション病院)などを経て、2024年より現職。日本整形外科学会整形外科専門医。専門は、肩関節外科・関節鏡手術・スポーツ整形。昭和大学整形外科業任講師。東京工科大学兼任講師。