埼玉県立循環器・呼吸器病センター
(埼玉県 熊谷市)
吉川 雄一郎 脳神経外科科長 の独自取材記事
最終更新日:2026/07/02


どんな時も、安心して受けられる医療を
「埼玉県立循環器・呼吸器病センター」では、2019年に脳神経センターを開設。その際、初代センター長として迎えられたのが脳動脈瘤をはじめとした脳血管障害の診断・治療が専門の吉川雄一郎(きっかわ・ゆういちろう)先生だった。同センターでは、大学病院と遜色のないレベルの技術と設備で、専門的な脳卒中の緊急治療や、破裂するとくも膜下出血を引き起こす脳動脈瘤の診断・治療に注力。熊谷、比企、秩父、深谷、本庄・児玉、行田、鴻巣、羽生といった県北地域で発症した脳卒中の患者を24時間、365日体制で受け入れることで地域医療に貢献し、救急搬送・手術件数も大幅に増加している。いつでも安心して受けることのできる医療の提供をめざす吉川先生は、さまざまな不安を抱えて訪れる患者の心が少しでも軽くなるよう丁寧な診療を心がけている。そんな吉川先生のこれまでの歩みや医師としての思いを聞いた。(取材日2025年8月27日)
初めに、医師という職業を選んだ理由についてお話しください。

はっきりした理由は覚えていないのですが、気づいたときには医師になると決めていました。脳神経外科を選択したのは、救急患者さんへの対応や緊急手術といった急性期治療が自分の気質に合っていると直感したからです。今振り返っても、その選択は間違っていなかったと思っています。それから、ちょっとした自慢ですが、体力にはかなり自信があり、それも脳神経外科医にとっては大切な資質の一つだと感じています。というのも、脳神経外科では、真夜中まで及ぶような長時間の手術もしばしばあり、救急患者さんの手術も昼夜を問わず行われます。そのため、体力は質の高い医療を支える最大の資本だと考えています。24時間体制で命を守るという医師の仕事に向き合う毎日は、私の性分に非常に合っていると感じています。
その後、現在に至るまでのエピソードもお聞きしたいです。

医師になった当初から、脳血管障害の手術を専門とする脳血管外科の医師をめざしていましたが、12年間の九州大学在籍時は、脳血管障害以外にも、脳腫瘍や頭蓋底手術、小児手術などさまざまな手術を経験しました。九州大学でお世話になった佐々木富男教授は、患者さんを助けるために一切妥協を許さない方でした。非常に難しい症例ばかりが集まってきていましたが、最後まで決して諦めず、何としてでも患者さんを救うという強い信念を持って手術に臨まれていました。私にとってかけがえのない指導者であり、今も心の支えとなっています。その後、教授の退官がきっかけだったと思いますが、埼玉医科大学国際医療センターの教授から声をかけていただきました。同センターは、自らの専門領域である動脈瘤治療に積極的に取り組んでいることで知られ、迷うことなく埼玉行きを決断しました。今振り返ると、この出来事が脳神経外科の医師としての大きな転機でした。
医師として大切にしていることは何でしょうか。

常に良いコンディションで治療に臨むためには、精神の安定も含めて体調を整えておくことが大切です。そのために、しっかり食べ、よく眠り、感情をうまくコントロールして、いつも機嫌良く過ごすことを心がけています。休日にはしっかりリフレッシュすることも欠かしません。また、若い頃とは違い、多くの技術が身についた今は、その維持とさらなる向上のために日々努力を続けています。医療を提供する立場としては、患者さんやご家族に安心感を持っていただくことが非常に重要であり、対話を何より大切にしています。一方的な説明ではなく、言葉や感情をキャッチボールするように、多くの患者さんの気持ちや背景をしっかりと受け止めたいと思っています。病院は誰もが不安を抱えて訪れる場所です。どのような状況でもここで治療を受けて良かったと感じていただけるよう、適切な医療を安心して受けられる環境を提供することが、私の役目だと考えています。
脳動脈瘤の治療をする際、病院選びのポイントはありますか。

脳動脈瘤が見つかり、治療方針を決めたり治療を受ける際には、開頭クリッピング術とコイル塞栓術の両方に対応できるかどうか、そして一定以上の手術件数を有しているかどうかが、病院を選ぶ際の大切なポイントになります。当院には、開頭手術の専門チームと血管内治療の専門チームがあり、症例ごとにどちらの治療が適切かをスタッフ全員で議論し、それぞれの得意分野を生かしながら適切と思われる治療方針を導き出しています。さらに、手術を受けるメリットだけでなく、デメリットを正直に説明してくれるかどうかも重要です。どんな手術でも合併症や死亡のリスクはゼロではありません。脳の手術と聞けば、多くの方が不安になり、できれば避けたいと思うのは自然なことです。だからこそ、患者さんの気持ちを受け止め、知りたい情報を誠実に伝え、できることとできないことを明確に示してくれる病院を選ぶことが大切だと考えています。
最後に、患者さんへのメッセージをお願いします。

患者さんが抱える不安は実にさまざまです。いつ破裂するかわからない脳動脈瘤があることへの不安、手術が成功するかどうかの心配、さらには入院中のご家族の生活や、入院が長期になった場合のお仕事のことなども気になると思います。私は、治療はまず心の負担を和らげることから始まると考えています。そのため診察では、できるだけ患者さんの不安や背景に丁寧に向き合うことを心がけています。患者さんから感謝のお手紙を頂くこともあり、その言葉に私自身も励まされています。より良い治療につなげるためにも、手術を始める前に心配なことを一つ一つ、一緒に乗り越えていきましょう。

吉川 雄一郎 脳神経外科科長
2002年長崎大学卒業。研修医を経て九州大学医学部脳神経外科入局。2010年九州大学大学院医学研究院修了。2014年より埼玉医科大学国際医療センターに勤務し、高難度を含む脳動脈瘤手術を多く手がける。くも膜下出血後の脳血管攣縮の研究にも従事。2019年、脳神経センターの立ち上げに際して初代センター長として同院に着任した。





