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低侵襲な治療で早期社会復帰をめざす
大腸がんの腹腔鏡手術

川口市立医療センター

(埼玉県 川口市)

最終更新日:2023/11/30

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  • 大腸がん

罹患率が増加傾向にある大腸がんの治療は、腹腔鏡手術やロボット手術といった手術創の小さい低侵襲手術が主流となりつつある。「川口市立医療センター」ではここ数年、大腸がんの手術のほぼ全例で腹腔鏡手術を実施。腹部からアプローチする一般的な腹腔鏡手術に加えて、2021年には肛門側からアプローチする腹腔鏡手術であるTa-TME (経肛門的直腸間膜切除術)を導入し、多彩な手術を展開している。加えて、2023年11月にはロボット手術を開始し、さらに治療の選択肢が広がるという。そこで、同院の大腸がん手術をけん引する柳舜仁消化器外科医長に、ライフワークである大腸がんの腹腔鏡手術について聞いた。(取材日2023年9月5日)

傷が小さく合併症のリスク軽減も図れる腹腔鏡手術。先端テクノロジーを活用しがんの根治と機能温存をめざす

Q大腸がんの手術にはどのようなものがありますか?

A

複数の術式から、患者の状態に合わせて治療方針を決定する

大腸がんの術式として多いのは、右側に結腸がんができた場合に行う結腸右半切除や回盲部切除、S状結腸がんに対するS状結腸切除、直腸がんの手術における高位前方切除、低位前方切除などが挙げられます。そして、これらの術式のアプローチ方法として、開腹手術、低侵襲の腹腔鏡手術、肛門側からの腹腔鏡手術(Ta-TME)、ロボット支援下手術があります。術式選択には腫瘍の位置、浸潤の程度、進行度が関わるだけではなく、肛門の機能や並存疾患など腫瘍以外の患者さんの状態も重要です。腫瘍の状況だけで治療方針・術式を選択するのではなく、総合的な健康状態と患者さんの社会背景を考慮して判断していく必要があります。

Q腹腔鏡手術のメリットとリスクを教えてください。

A

下部消化管の外科手術を専門とする柳先生

腹腔鏡手術のメリットは、手術創が小さいため痛みが少なく術後の早い段階からリハビリを行えることです。手術後に起こり得る下肢静脈血栓や肺塞栓、腸閉塞、無気肺・肺炎などの合併症は、術後の離床やリハビリが進まないことで起きやすくなります。腹腔鏡手術では、こういった術後合併症のリスク軽減となると思います。リスクとしては、腹腔鏡手術は外科医の技量が出やすく、治療成績の施設間差があることです。従ってどの施設で手術を受けるかは非常に重要です。また、手術中に空気でおなかを膨らませる腹腔鏡手術では、二酸化炭素が血管内に入り塞栓を作ってしまう合併症が起こり得ますが、数分気腹を中断することですぐに改善します。

Q治療後はどのような生活になりますか?

A

同院では、術後のフォローも手厚く行っている

大きな腫瘍で腸管の慢性的な閉塞症状がある場合、術後に排便習慣の改善が望めます。しかし、特に直腸がんの手術では宿便機能を持つ直腸をある程度切除してしまうため、頻便や便漏れといった排便障害の症状が起こることも。対策としては、肛門の筋肉を鍛える骨盤底筋運動や内服薬、生活習慣の見直しなどが有用です。また、人工肛門を装着することになった後の生活では多少の不便と注意は必要ですが、外出時にトイレの場所を事前に調べておく、飛行機では気圧に配慮してガス抜きをする、公衆浴場の入り方など、各自の工夫次第で以前とほとんど変わらない日常生活を送ることができます。公共の場では、オストメイト対応のトイレ設置も進んでいます。

Qこちらの病院の腹腔鏡手術の特徴を教えてください。

A

術前の徹底したシミュレーションで正確な手術に努めている

従来の腹腔鏡手術のほかに肛門からアプローチする特殊な腹腔鏡手術、Ta-TMEも導入しています。複雑な術式では、安全性に配慮しCT・MRIで血管や腫瘍の位置を限界まで調べ、VRシステムで手術のシミュレーションを行います。術中は、近赤外線による蛍光ガイドを用いて病変や血管、尿管を視覚化し、精密に剥離を行うことで可能な限り出血を少なく、縫合不全などの合併症を防ぐことを心がけています。周囲臓器も切除する拡大手術も、VRシステムや、蛍光ガイド、Ta-TMEを活用しながら2チームで行い、安全で低侵襲な腹腔鏡手術に努めています。また、出血が少ない手術をAIに学習させるため企業との共同研究も進めています。

Qロボット手術の導入でさらに治療の選択肢が広がると聞きました。

A

消化器外科のロボット手術は2023年11月より開始する

低侵襲手術として、従来の腹腔鏡手術、肛門側からの腹腔鏡手術であるTa-TME、そしてロボット手術と3つの方法がそろうことは非常に重要なことです。画一的な治療ではなく、より適切なアプローチの選択、あるいは組み合わせが可能になり、がんの治療と機能温存の両立がこれまで以上に期待できます。ロボット手術はこれまで腹腔鏡で行っていた操作をロボットで行いますので、ロボット特有の操作を理解する必要があります。導入に際しては、専門性に優れた先生を全国からお招きしサポートしていただき、患者さんに不安を与えることなく手術ができるように体制を整えていますので、安心して治療の選択肢の1つに加えていただければと思います。

患者さんへのメッセージ

柳 舜仁 消化器外科医長

2009年東京慈恵会医科大学卒業。専門は下部消化管。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本大腸肛門病学会大腸肛門病専門医。臨床、手術一筋で一人でも多く救うため大腸がんの手術に心血を注ぐ。蛍光ガイド手術などの新しい術式の工夫に関する論文を国内外で多数発表。30歳台でありながら、米国や韓国からの招待講演の経験も。企業との共同研究でAIに自身の手技を学習させる取り組みも行う。

患者さんが命をかけて臨む手術を自分たちに任せてもらえることを、本当に大きなことであると受け止めています。患者さんがトータルで幸せだと思える術式を選択し、一例一例の手術を大切に、真摯に、全身全霊をかけて執刀しています。安全性を追求して先進の技術を多数取り入れていますが、これは若い医師の育成にも役立ち、チーム全体のレベルアップにつながっています。低侵襲手術は僕の生きがいであり、可能な限りのすべての時間を大腸がんの手術に費やし1人でも多くの患者さんを救っていきたいと考えています。他院では手術できないと診断されてしまうような局所進行がんにも対応できる地域の砦になりたいと思います。

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