川口市立医療センター
(埼玉県 川口市)
大塚 正彦 事業管理者
最終更新日:2023/11/30


地域のがん診療、救急、周産期医療を担う
1947年に開設された「川口市国民健康保険組合直営病院」を前身とする「川口市立医療センター」は、1994年に川口駅前から現在の地に移転した際に名称を変更。救命救急センターと周産期センターをもつ539床の急性期病院として、川口市と隣接する蕨市、戸田市とを合わせた南部医療圏の3次救急医療、周産期医療を担っている。同院ではもう一つの使命としてがん診療に注力。これまでの質の高い腹腔鏡手術に加えて2023年9月にはロボット支援手術を開始。また、治療のみならず緩和ケアの充実も図るため緩和ケア病棟を新設し、患者の受け入れ準備を進めている。2008年に地域がん診療連携拠点病院となったときにその責任者として奔走していた事業管理者の大塚正彦先生は、消化器外科医としてがん治療に従事していることもあり、同院のがん診療の発展への思い入れはひとしおだという。そこで大塚先生に同院における新たながん診療の取り組みを中心に、病院の現状を聞いた。(取材日2023年9月5日)
ロボット支援手術がいよいよスタートしましたね。

当院では地域がん診療連携拠点病院としてがん診療のさらなる充実を図り、ロボット支援手術をスタート、2023年9月に泌尿器科での導入に続き、10月には消化器外科でも開始しました。泌尿器科と消化器外科ではロボット手術の提供に先立ち、大学病院のロボット支援手術の指導者から直接指導を受け、腹腔鏡手術と同様に大学病院と遜色のない治療が提供できるように体制を整えてきました。特に消化器外科で行う直腸がん、結腸がんの治療については、蛍光ガイドを用いて術中に病変部や血管、尿管を光らせて手術をする方法などこれまでも先端の治療を取り入れてきました。そこにロボット手術が加わることで治療の選択肢が増え、個々の患者さんのニーズに応えていけると考えています。新しい機器が入ると同時に大切になるのが働くメンバーのレベルアップです。病院としては、各専門家が先端の医療を伸び伸びと行える環境をつくり支えていければと思います。
緩和ケア病棟も新設されると聞きました。

がんを患う患者さんの気持ちや家族に寄り添う緩和ケアをめざしていますが、通常の生活が送れる程度の意識を保ちながら痛みを取り除くことは非常に難しいことです。そこで当院では精神科の医師がさまざまな薬を用いることで、できる限り快適に過ごせるように努めています。また、緩和ケアは臨床心理士がいろいろ話を聞いて初めて成り立ちます。当院の臨床心理士はお寺の住職でもあり、人の心根を聞く力に非常に長けています。彼が患者さんと面談した後のカルテを見ると、私が聞くことのできなかった話がたくさん記入してあり、この患者さんはこんなことを考えていたのかとわかります。それだけでもいかにチーム医療が大切かを実感することができます。チームの一人ひとりが専門性を発揮しそれを私たちが受け入れて患者さんへ還元する。彼らの力はとっても大きくたくましく頼りになり、多職種連携の重要性を今改めて強く感じています。
放射線治療や化学療法についてはいかがでしょうか。

放射線治療は高精度な治療機器を導入し、IMRT(強度変調放射線治療)やVMAT(強度変調回転照射法)といった先端の高精度放射線治療を行っています。化学療法についてはがん研有明病院からの医師がキャンサーボードと呼ばれる検討会でも貴重な意見を述べてくれて、がん専門病院の高いレベルの医療を当院でも展開してくれています。一昔前、外科医が簡単な抗がん剤治療を行っている時代もありましたが、私はその頃からそれは違うと思っていました。私のポリシーは、外科医は外科の技術を磨き、そこに集中し、手術を極めるということ。もちろんがんや化学療法について知ることは必要ですが、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など日々新しい薬が開発され進化する化学療法に精通した先生が治療を担当し刺激を与えてくれることは、外科医にとってもとてもありがたいことで、これにおいても大学病院と遜色のない治療ができていると自負しています。
心臓血管外科や周産期医療にも注力されていますね。

心臓血管外科については、これまで定時の手術以外は対応が難しかったのですが、乖離性大動脈瘤の緊急手術にも少しずつ取り組むようになりました。最近では週に一度は心臓の大きな手術が定期的に入るようになり、ようやく軌道に乗りだしたところです。埼玉県大動脈緊急症治療ネットワークにも参加し、救急にも関与することで症例を増やしていければと思います。また、血管の手術も積極的に開始し需要も高まってきています。周産期医療については、東京医科歯科大学から小児科と新生児集中治療科で計20人もの医師が派遣されているほか、NICUが9床ありハイリスクの母胎搬送にも対応しています。それに加えて、手術支援ロボット導入を機に、婦人科疾患の手術にも力を入れていきたいと考えています。
医療連携への思いなど地域に向けてのメッセージをお願いします。

当院のような大規模病院と周囲の開業の先生や中小病院がタッグを組むことは非常に重要で、日々の診療のみならず大地震など災害時の医療でも役立ちます。重症患者さんは当院が、軽症の患者さんは地域の先生が受け入れるという明確な役割分担の上に、円滑な地域医療連携を行えるよう、ますます地域の先生方との協力を強化していければと考えています。当院は2024年で開設30年になりますが、常にブラッシュアップを重ね時代の先端をいく医療を届けてきました。一方で、急性期医療に力を入れながらも、じっくり患者さんや家族と向き合うということの大切さを職員全員が再認識して、病院全体で患者さんに寄り添う医療を実践することが理想だと考えています。今後も地域の病院でありながら高度で専門性の高い治療を提供するとともに、どの世代も安心して暮らせる町づくりに医療の面から取り組んでまいります。地域の皆さん、ぜひ期待していてください。

大塚 正彦 事業管理者
東京慈恵会医科大学卒業。消化器外科医として癌研究会附属病院(現・がん研究会有明病院)で研鑽を積み、川口市民病院付属神根分院に勤務後、川口市立医療センター開院時から外科医として勤務。2014年院長。2016年から現職。日本外科学会外科専門医。日本消化器外科学会消化器外科専門医。外科医の頃から「自分が手術をした患者さんには最後まで責任をもって関わりたい」が信条で、現在も同じ気持ちで緩和医療に取り組む。