あいちせぼね病院
(愛知県 犬山市)
伊藤 研悠 副院長 の独自取材記事
最終更新日:2025/09/30


負担の少ない手術で苦痛の軽減をめざす
人体を支える背骨、すなわち脊椎疾患の治療に特化した病院として誕生した「あいちせぼね病院」。一口に脊椎疾患といっても種類はさまざまで、同院では専門的な設備はもちろんのこと、専門性の異なる医師を多数そろえ、あらゆる脊椎疾患の治療に対応できる体制を築いている。それぞれの医師が自身の専門性を発揮し、時には医師同士で連携しながら適切な治療の提供に力を尽くす。手術部長を務める伊藤研悠(けんゆう)副院長の専門は、内視鏡による低侵襲手術と、背骨が左右に曲がる側弯症の治療。豊富な経験を基盤に、先進技術を駆使しながら、安全性に配慮しつつ適切な治療の提供に心血を注ぐ。「手術の技術を高めるには、経験を重ねるだけでなく、一人ひとりを大切にし考えていくことが何よりも大切」と伊藤副院長。痛みやしびれに悩む患者を一人でも多く救えるよう自己研鑽に励むだけでなく、若手医師の育成にも積極的に取り組む。悩みにさいなまれる患者を救うため、日々診療に向き合う伊藤副院長に、同院の強みをはじめ、伊藤副院長が専門とする内視鏡手術のメリット、側弯症の治療などについて、治療にかける思いと併せてじっくりと聞いた。(取材日2025年8月6日)
低侵襲手術のメリットや、御院の強みを教えてください。

低侵襲手術にはさまざまなメリットがあり、その一つが手術時の傷口が小さいことです。手術を受けるとなった際、患者さんが目にされるのは手術痕かと思います。低侵襲手術でも切開は必要となりますが、その幅は数ミリから1cm程度。傷口が小さいので痕も目立ちにくく、術後感染を防ぎやすいのもメリットです。傷口が小さいだけでなく筋肉を切る範囲も最小限となるので術後の痛みや腫れが起きにくく、手術後すぐにリハビリテーションを開始できます。内視鏡による手術が確立されたことで、従来では身体負担が大きく手術を回避していた疾患にも適応が拡大されました。患者さんの早期回復に貢献するため、当院では神経を圧迫する部分を取り除く内視鏡下除圧術だけでなく、脊椎分離症や、すべり症など骨がずれて痛みが生じる疾患に対して行う固定術も内視鏡下で行っています。
低侵襲手術を提供するためにどんな設備・体制を整えていますか?

日々進化する手術技術は積極的に取り入れています。例えば固定術においては、ナビゲーションシステムを東海地区でも早くから取り入れ活用しています。ナビゲーションシステムによって、体表からは見えない、背骨の構造などを詳細に確認でき、連動させることでより高い精度でねじの挿入位置などを定められるようになりました。当院では被ばく量の少ないシステムを導入しているので、患者さんはもちろん、手術を行う医師側の安全性に配慮しやすい点も特徴です。私自身、ハイテク技術を取り入れることが好きなのですが、一方でこういった技術を取り入れるだけで手術の精度が向上するわけではありません。それを生かす人間の技術も、当然ながら求められます。つまり、低侵襲手術の多くのメリットを下支えするのは、医師の技量なのです。熟練した技術を持つ医師が多数在籍し、日々互いに研鑽し合っている点も、当院の強みといえるでしょう。
側弯症とはどんな病気ですか? 治療法と併せて教えてください。
側弯症とは背骨が左右に曲がった状態になる疾患で、大きく3種類に分類できます。特発性側弯症は小学校高学年から中学生頃に見つかることが多く、原因は明らかになっていません。そのほか、脳性まひなどの疾患の影響から筋肉のバランスが取れず背骨が曲がる症候性側弯症、加齢に伴う変形による変性側弯症があります。治療方法は患者さんが成長期であるかどうかで異なります。例えば成長期に多い特発性側弯症の多くは装具を装着し、成長の力を利用して曲がった背骨を矯正することをめざし、必要に応じて背骨を矯正する手術を検討します。一方で大人の場合は、背骨が曲がっていることで起きる症状の改善が治療の主軸となります。症状に応じてまずは薬物療法やコルセット装着を行い、改善しない場合は手術を検討します。側弯症治療と内視鏡手術それぞれの経験を積んできたことで、幅広い視野を持って治療を検討・実施できるのが私の強みです。
患者さんの回復を支えるには院内外での連携も不可欠と感じます。

もちろんです。院内においては、診療内容はカルテで共有するだけでなく、カンファレンスを毎日実施しています。また、当院では手術が決まった段階からリハビリテーション部門の理学療法士と連携し、治療計画を練っていきます。病院としては規模が大きすぎず、院内スタッフ同士のコミュニケーションが取りやすく、互いをフォローアップし合う関係性が築けていると感じます。大規模病院や大学病院などのほかの医療機関との連携も、適切な治療を提供する上で欠かせません。例えば、小児の整形外科疾患など当院では対応が難しい症例は、専門とする医療機関に紹介しています。開業医の先生方との連携も重要で、長年脊椎疾患に特化した診療を行ってきたこともあり、中には長いお付き合いとなる先生も増えてきました。今後もより良い関係性を保てるように、医師会の活動にも積極的に参加して、連携体制の強化に努めています。
診療にかける思いと、今後の展望をお聞かせください。
整形外科はケガや痛みなど日常生活によくある、生活の質への影響も小さくない悩みを扱う診療科です。悩みを抱える患者さんを助け、地域を支えたいという思いを持って日々診療に臨んでいます。もしも今、痛みやしびれなどに悩んでいたら、症状の程度や期間にかかわらず、まずは受診していただきたいです。特に、まひは放置すると十分な回復が見込めなくなる可能性もあるので、異変を感じたらなるべく早めに受診しましょう。安全で、症状が改善でき、効果を長く実感できる、さらに低侵襲であるなど、達成すべき課題がたくさんあります。けれど、患者さんにはとても大切なことです。私たち医師も、外来診療や手術はもちろん、論文発表や症例発表などを通じて自己研鑽し、より良い治療の提供に努めてまいります。

伊藤 研悠 副院長
2004年名古屋大学医学部卒業後、岡崎市民病院、名城病院、国立長寿医療研究センター、名古屋大学医学部附属病院で整形外科医師として研鑽を積む。2018年に米国留学し、帰国後は江南厚生病院脊椎脊髄センター長兼整形外科部長を務める。2023年にあいちせぼね病院に入職し、2024年より現職。同院最小侵襲脊椎手術部長および側弯センター長を兼任する。日本整形外科学会整形外科専門医。医学博士。