足の付け根のしこりや痛みへ
負担の少ない鼠径ヘルニアの手術
医療法人敬愛会 西宮敬愛会病院
(兵庫県 西宮市)
最終更新日:2024/05/27
- 保険診療
- 鼠径ヘルニア
がんなどの悪性疾患では、手術だけでなく化学療法や放射線治療など集学的治療が必要になる一方で、鼠径ヘルニアや胆石の手術は良性疾患といわれ、治療の中心は手術になるという。そのため良性疾患では手術の質が治療成績に直接関わると、「西宮敬愛会病院」の三賀森学(みかもり・まなぶ)先生。所属する低侵襲治療部門「COKU」では、鼠径ヘルニアで悩んでいる人たちに対し、より丁寧に負担の少ない手術を提供しようと努めている。「手術を通して患者さんの健康に貢献したい」と語る三賀森先生に、鼠径ヘルニアとはどのような病気なのか、診察や手術はどのように進められるのかなど、詳しく教えてもらった。(取材日2024年2月27日)
目次
一人ひとりの症状や病気の状態によって、幅広い選択肢から手術方法を選び対応する
- Q鼠径ヘルニアについて教えてください。
- A
一般的には脱腸と呼ばれる病気です。ヘルニアには“脱出する”という意味があり、加齢に伴っておなかの底にある筋肉の膜が弱くなって穴が開き、その穴から臓器が飛び出した状態です。飛び出した臓器のために、鼠径部と呼ばれる足の付け根の辺りに膨らみが生じます。65歳以上になると発症が増え、8割以上が男性です。主な症状は、痛みや突っ張り感、違和感などで、陰嚢が腫れたような状態になる方もおられます。一方で、特に症状を伴わないこともあり、放置されるケースも少なくないのが現状です。悪化すると飛び出した臓器が戻らなくなり、その部分が壊死してしまう嵌頓(かんとん)のリスクもあり、自己判断で放置するのはお勧めしません。
- Qどのような状態になったら受診すべきですか?
- A
基本的に鼠径ヘルニアは自然治癒はしないため、根治をめざすとすれば最終的には手術が必要となります。しかし、症状の悪化の程度や嵌頓のリスクは穴の大きさや飛び出し方によって異なります。手術の必要なタイミングなどは一緒にご相談させていただきますので、膨らみや違和感に気づいたら、一度受診されることをお勧めします。当院の場合、問診で特徴的な症状がないかを確認し、さらに視診、触診を行います。CT検査を補助的に行うことで、術式の選択などにも役立てます。鼠径ヘルニアであることが確認されれば手術のお話をさせていただきます。
- Q手術の方法について教えてください。
- A
かつては、筋肉を縫い合わせる方法が一般的でしたが、組織を引っ張って縫い合わせるので強い痛みを伴う、再発率が高い、といったデメリットがありました。現在では、穴の部分に医療用の繊維で作られたメッシュを置いて修復する方法が一般的です。メッシュを入れる方法には、鼠径部を切開する方法とおへその辺りから腹腔鏡を用いて行う方法があります。本邦では半々くらいの割合で行われていますが、短期的に見ると、腹腔鏡手術は痛みが少なく、日常生活に早く復帰できるのがメリットです。腹腔鏡手術には筋肉と腹膜の隙間に腹腔鏡を通すTEP法と、腹膜を切っておなかの内部に腹腔鏡を入れ、おなかの内側から穴に到達するTAPP法があります。
- Qどのようにして手術の方法を決めるのですか?
- A
当院では、腹腔鏡手術も鼠径部切開法にも対応しております。腹腔鏡手術ではTEP法とTAPP法の両方の術式を行っており、どの方法を選ぶかは、ふくらみの大きさや発症からの年数、他の疾患の有無、これまで受けられた治療の内容によって使い分けています。各術式のメリットやデメリットなどを考慮し、一つの方法にこだわらず、事前の検査・診断に基づいて手術内容をご提案いたします。さらにメッシュの種類にもこだわり、痛みを軽減するために固定が不要のタイプを使うなど患者さんに合ったものを選びます。またさまざまな併存症をお持ちの方は医療機関と連携して、安全に手術を行えるように十分に準備を進めます。
- Q手術の流れを教えてください。
- A
手術後の不安がある、同居している家族がいないといった場合は、病院の施設を活用した一泊手術も選んでいただけますが、術前検査で問題がない方は日帰りも可能です。手術は全身麻酔下で行い、所要時間は麻酔の処置を含め1時間半〜2時間ほどです。術後は、心電図などのモニターをつけてリカバリー室で30分ほど安静にしていただきます。麻酔の覚醒が確認でき、看護師と一緒に歩行できる状態なったら、リクライニングチェアでさらに1〜2時間ほど休んでいただきます。その間に、水やお薬を飲んだり、軽食を食べたり、トイレに行ってもらったりして、問題がないと確認できれば帰宅可能で、翌日こちらから容体確認のお電話を差し上げます。
三賀森 学 消化器外科部長
2007年弘前大学医学部卒業。膵臓や肝臓などの侵襲の大きな治療から鼠径ヘルニアや胆のう疾患まで幅広い消化器外科領域を診る外科医として、大阪市立総合医療センター、大阪医療センター、大阪警察病院、大阪国際がんセンターなどで診療経験を積む。日本外科学会認定外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。手術を通して患者の健康に貢献できる医療の提供をめざしている。自身の健康のために週2回の運動も続ける。