骨折予防が骨粗しょう症治療の目的
注射の活用で続けられる治療を
医療法人楠和会 公文病院
(兵庫県 神戸市長田区)
最終更新日:2024/05/14
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年齢を重ねるにつれて骨密度が低下し、骨が弱くなる骨粗しょう症。自覚症状がないので患者自身が気づかないうちに進行し、ある日ちょっとした転倒で骨折、そうして初めて骨粗しょう症と診断されることもあるという。このため、高齢患者の受診が多い「公文病院」の整形外科では、骨粗しょう症の診療に力を入れている。「この病気が怖いのは、高齢者では骨折が寝たきりや認知症の入り口になりやすいからです」と話すのは、ベテランドクターの大崎信宏先生。骨粗しょう症では薬物治療が中心になるが、自覚症状がないため患者が治療意欲を保ちにくく、患者の性格などもふまえて薬剤選択や生活指導を行っているという。今回は骨粗しょう症のメカニズムや同院で受けられる治療について、詳しく話を聞いた。(取材日2023年4月20日)
目次
自覚症状がない骨粗しょう症だからこそ、患者に合わせた薬剤選択で治療の継続をめざす
- Q骨粗しょう症とはどんな病気ですか?
- A
骨では、骨をつくる「造骨」と骨を壊す「破骨」という新陳代謝が起こっています。しかし高齢になると、この新陳代謝のバランスが崩れて「破骨」のほうに傾きやすくなります。カルシウムなどが骨から溶け出し、骨密度が低下したり骨の質が悪くなってもろい状態になる、これが骨粗しょう症です。もろい骨は変形しやすいですし、わずかな衝撃でも折れやすくなっています。ただ、このような骨の変化を、患者さんご自身が自覚することはできません。このため、ある日転倒して骨折し、そこで骨密度を検査して、初めて骨粗しょう症に気づくこともあるのです。骨折は、転倒による手首や腕の付け根、大腿骨の骨折や、背骨の圧迫骨折が中心です。
- Qどんな人が骨粗しょう症になりやすいのでしょうか。
- A
骨密度は加齢に伴って、特に女性では閉経後から、低下のスピードが早くなります。また、運動不足や偏った食生活、極端なダイエットなども、骨がもろくなる原因です。ステロイドを長期に投与していると骨が弱くなることもわかっています。それから、骨粗しょう症では骨折が大きな問題になりますが、高齢になると筋力やバランス感覚も低下しますので、日頃からあまり動いていない人、運動していない人は転びやすくなり、骨折の危険性が高まります。このため、女性であれば閉経後から60歳頃までにまず一度、骨密度を測定してほしいと思います。そこで骨密度が70%を下回っているようであれば、治療を検討することになります。
- Qこちらでは、どのような検査や治療が受けられますか。
- A
当院では、かかとの骨に超音波を当てて骨密度を測定します。機械に足を乗せて測定するだけですので、簡単に検査できますし、エックス線は使いませんので被ばくの心配もありません。検査で骨密度が70%を下回っていたり、すでに骨折が起きているような場合には、主にビスホスホネート製剤という種類の薬で治療を始めます。ビスホスホネート製剤には内服薬と注射剤があり、毎日、週1回、月1回などさまざまな投与間隔の製品があります。内服薬は飲み方に決まりごとが多く、またすぐには骨密度の変化が期待できないことも。注射は受診していただく必要があり、当院では月1回投与の製剤を選択することが多いです。
- Qお薬の使い分けや、治療の注意点を教えてください。
- A
骨粗しょう症の治療薬は継続することが大事ですが、自覚症状がないので経過の確認方法は主に骨密度の数値になります。ですので、患者さんが治療の手ごたえを感じ、「投薬を続けよう」と思ってもらえるように、患者さんの骨密度にもよりますが、月1回の注射薬を積極的にお勧めしています。ただ、治療効果が得られたとしても、骨密度が過度に上昇すると骨が硬くなりすぎて、逆に普段は折れない位置で骨折が起こる可能性もあります。ですので、基本的には4ヵ月に1回の割合で骨密度の検査を行って、数値の変化を確認しながら治療を進めることが大切です。
- Q骨粗しょう症を治療しないでいると、どんな危険性がありますか?
- A
やはり何よりも、「骨折しやすくなる」ということです。ちょっと転んで手をついた際に、手首を骨折してしまう。また、足をねじったりして大腿骨近位部を骨折してしまうと、入院して手術、早期からのリハビリテーションになりますが、普段よりもベッドの上で寝ている時間が長くなると、1週間ぐらいで認知症のような症状が出てくる人もいます。また、リハビリに積極的でないと、筋力が急速に落ちて寝たきりになってしまうことも。高齢者が入院すると、どうしてもこのような危険性があるので、やはり骨密度を高め、骨折しないように日頃から注意しておくことが大事だと思います。
- Q予防方法や、日常生活で気をつけることを教えてください。
- A
1つは、先ほどもお話ししましたが、早い段階でご自身の骨密度を知っておくこと。最近では公的検診で骨密度測定を行う自治体もありますので、そういった機会を利用してみてください。日常生活では、バランスの良い食事ですね。患者さんはカルシウムを含む食品を気にしますが、それだけでなく好き嫌いなく食べるようにお話ししています。また適度な運動も大事です。ただ、移動が増えると、ご自身が気をつけても他の人とぶつかることもあり、転倒のリスクはどうしても高くなります。ご自宅内ならスロープや手すりでバリアフリーにする、外出する際は、できれば誰かに同行してもらえると安心だと思います。
大崎 信宏 医師
1969年和歌山県立医科大学を卒業後、神戸大学整形外科医局へ入局。神戸労災病院、北兵庫整形外科センター(現・朝来医療センター)等で整形外科診療に従事。公文病院でも30年以上にわたり勤務し、多数の患者の手術治療などを担当。現在は非常勤として週2回勤務。患者の話をよく聞き、疾患のみならず生活背景も考慮した患者・家族本位の診療を心がけている。