地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立荏原病院
(東京都 大田区)
芝 祐信 院長
最終更新日:2025/09/12


地域医療支援病院として医療で地域を支える
“医療で地域を支える”を合い言葉に、田園調布地区を中心に、大田区、品川区、目黒区、世田谷区といった城南地区の地域医療を担う「東京都立荏原病院」。地域医療支援病院や二次救急医療機関として多くの医療機関や救急隊との連携を強化し、地域に必要とされる医療を提供している。2022年7月に地方独立行政法人化以降、より柔軟な病院運営や診療体制に取り組み、地域のかかりつけ医との密な連携で地域完結型医療をめざす。特にニーズの高い救急医療については、救急科の立ち上げや外部人材の活用により受け入れ体制を強化。地域住民の生活に密着して医療を提供する地元医療機関とも連携し地域医療支援病院の役割を発揮するために、個々の職員の意識を変え、チーム力の底上げを図り地域から信頼される病院に変化を遂げた。地域の視点、患者の視点、職員の視点を大切にした地域医療を展開する同院の近況について、芝祐信(しば・すけのぶ)院長に聞いた。(取材日2025年6月9日)
現在の病院の取り組みや近況を教えてください。

地域医療支援病院として継続して取り組んできたことが少しずつかたちになってきた中で、最近日頃やりとりをしている先生から、私たちの変化についてお褒めの言葉をいただく機会が増えました。患者さんをご紹介いただいてもお応えできないことがある中で、職員の数は変えずに病院の現状を変えていくためには、職員一人ひとりの意識を変えていくよりほかありませんでした。同時に、チームとしての意識も変えることで今まで以上にパフォーマンスを上げることで病院全体の意識を変えていきました。成果を数字で追い、うまくできている点、うまくいっていない点を振り返ることで、きちんとやっているけれどもうまくいかないところは、立ち止まりもう一度考え直すということを繰り返しながら、当院は日々進化を遂げています。
救急医療の取り組みについて教えてください。

1日の中で最も患者さんを受け入れやすい時間帯は日勤帯の9時から17時までですが、一方、昼間から夜間につなぐ17時から19時、夜間と日中の診療の隙間になる7時から9時という時間帯はどうしても患者さんを受け入れにくくなります。しかし、ほとんどのクリニックの診療時間は18時頃までの診療であることから、地域医療連携の観点から、連携医の先生たちが診療している時間帯もカバーすることで、日常的に患者さんを安心してご紹介いただけるよう、2025年4月に救急科を立ち上げました。また、これまで患者さんをお断りせざるを得なかった状況を分析すると、多くの場合が、ほかの患者さんの対応中で同時には受けられないという理由でした。そういったことを減らすため、平日の19時から翌朝7時の時間帯は外部の救急科医師に非常勤で来ていただくことで、救急の体制を強化しました。
地域のために新しいことも積極的に取り入れていかれるのですね。

当院が常に追求すべきなのは、自分たちがこの地域に存在する価値は何かということです。ただ救急患者さんを診ます、行政医療に取り組みます、というだけでよいのか、都立病院でしかできないことは何なのかを原点に立ち返り考えてみた結果、同じ救急であっても、複数の診療科にまたがるような、個々の専門領域の診療を行う医師が受けづらい患者さんを率先して見ていくことこそが、都立病院の存在価値だという答えにたどり着きました。地域の情勢が刻々と変化してきている中で私たちが抱える医療課題もかたちを変えてきます。柔軟に対応していくためには、私たち自身が変わっていく必要があります。その一つが救急科の立ち上げであり、夜間の外部人材の活用です。引き続き、昨年よりも今年、今年よりも来年と、できることを少しずつ強化してまいります。
地域医療支援病院として大切にしたいことはありますか?

地域医療支援病院としては、連携医院の先生の視点、患者さんの視点がもちろん重要ですが、職員の視点も大切にしていきたいと考えています。働いている職員が、やりがいや職場の魅力を実感できるようにするには、職員の成長に必要な自己実現を支援することが必要です。人は誰しもライフステージにおいて、子育てや介護などさまざまな問題に直面するわけですが、そういったことを抱えながらも仕事を継続していくことが大切になります。例えば、支える側から苦しい、つらいという空気が少しでも出れば、支えてもらう側の人は申し訳ないという気持ちになり、居場所がなくなります。お互いが気持ち良く支え・支えられるように、病院は支える側の人たちにもきちんと目を向けていかなければなりません。職員が病院で頑張れる環境を整えることも、地域の中での役割を果たしていくための足固めになると考えています。
最後に、地域に向けてのメッセージをお願いします。

当院が大切にしていることは、病気になっても病院ではなく住み慣れた自宅で過ごしたいという患者さんの思いに応えることです。そのためには病院の中で完結する医療ではなく、地域との連携でシームレスに移行することが重要です。当院では2人主治医制を推進し、退院後も医療を継続できるようにしていますが、大切なことは、患者さんとご家族がどんな医療やケアを受けたいと思っているのかをつなげていくことです。患者さんやご家族が自分たちにとって望ましい医療やケアをゆっくり考える機会が重視される中で、これから何を大切に生きていきたいかというアドバンス・ケア・プランニングについても病院と地域が連携して支援できるとよいと考えています。私たちがすべきことは、患者さんとご家族にとって最善の医療・ケアが提供できるように切れ目なく寄り添っていくこと、当たり前のことを丁寧に届けていくことです。そこに注力し地域医療を支えていきたいです。

芝 祐信 院長
1987年東京慈恵会医科大学卒業。武蔵野赤十字病院で研修後、東京ER・府中開設に従事。東京都立多摩総合医療センター内科部長を経て2022年より現職。専門分野は包括的がん医療。「がんになったとき患者と家族が仕事も生活も自分らしく両立することを支える緩和ケア」がモットー。専門分野は包括的がん医療。日本内科学会総合内科専門医、日本救急医学会救急科専門医。