関節に痛みや不安定さがあれば
専門医療機関で相談し適切な治療へ
独立行政法人 労働者健康安全機構 中国労災病院
(広島県 呉市)
最終更新日:2025/04/02


- 保険診療
- 変形性膝関節症
歩行や家事などの生活動作やスポーツのプレーなど、体のあらゆる動きに関わる関節。年齢を重ねたり競技を続けたりする中で、関節の不調に苦しんだ経験のある人も多いだろう。「年だから」「我慢できる痛みだから」と様子を見ているうちに動けなくなり、「車いすで受診される方もいらっしゃいます」と話すのは、「中国労災病院」人工関節センターの藤本英作センター長だ。同センターには膝、肩、股関節の専門家がそろい、関節疾患に特化した診療を提供。関節鏡視下手術や人工関節置換術といった手術から日常生活指導など幅広い選択肢をそろえ、「患者の希望に応えられる満足度の高い治療」をめざす。同センターの開設当初から膝関節の治療に携わる藤本センター長に、診療の特色や人工関節手術について聞いた。(取材日2025年1月15日)
目次
変形性膝関節症の治療に活用される人工膝関節置換術。精緻な手術と積極的なリハビリで症状の改善をめざす
- Q膝や股関節の痛みの原因には、どのような病気が考えられますか?
- A
膝関節の治療に携わる藤本センター長
高齢の方で膝に不調があれば、原因の大半は変形性膝関節症ですね。加齢によって軟骨がすり減り、進行すると膝関節に痛みや腫れが起きて、膝の曲げ伸ばしができなくなったり、歩くと膝が安定しないために体が左右にぶれたりします。また、最近では中高年の女性で、内側半月板後方損傷も増えていると感じています。膝にある半月板の後側が、階段の昇り降りなど何げない日常動作で切れて機能を失い、変形性膝関節症が急速に進んでしまうのです。半月板が切れた瞬間がわかる方も多く、「叩かれたような」とか「ピキっと音がした」などと言われますね。股関節も軟骨がすり減ると変形性股関節症が進行し、痛みのために歩けなくなることもあります。
- Q変形性膝関節症の検査や診断について教えてください。
- A
問診では「何に最も困っているのか、治療でどうなりたいのか」をまずお聞きします。また、足の形状や歩く様子、エックス線画像も確認しながら診断をつけていきます。ただ、エックス線画像で骨の変形が顕著でも、痛みはさほどではないことも。そこで痛みが強ければMRIで軟骨や半月板も調べ、原因を特定していきます。骨の変形が進行し関節に不安定性があれば、人工関節をお勧めすることが多いですね。逆に軟骨の損傷が軽い時期であれば、足底板を作製してクッション性を高めたり、立ち方や足の向きを調整するような指導によって、痛みの改善が見込める場合もあります。人工関節以外で対処できるものを、見逃すことのないように注意しています。
- Q人工関節手術は、どのような人に向いているのでしょうか?
- A
患者一人ひとりに合わせて、人工関節の特徴を丁寧に説明している
ご高齢で膝関節の破壊が進み歩行が不安定である場合、早めに人工関節にすることで、日常生活でできることを増やせることも期待できますし、転倒予防にもつながります。またすでに歩行が難しく、ご本人が「歩きたい、自分でトイレに行きたい」と強く希望されているような場合も、人工関節は非常に適した治療法と言えるでしょう。ただ、「人工関節にすれば痛みもすっきり改善するのでは」と過度な期待を抱く方もまれにいらっしゃいます。術後は痛んだり腫れたりしますし、違和感が生じることも。やはりご本人が「治療で何を改善したいのか」が大事ですので、患者さんの願いや知識に応じ、人工関節の特徴について丁寧に説明するよう努めています。
- Q術後のリハビリ期間や日常生活での注意点はありますか?
- A
豊富な経験を持つスタッフがリハビリをサポート
術後3ヵ月後の筋力は手術前の5割程度、6ヵ月後でも8割以下に落ちていることが多いといわれます。従って、病院でのリハビリに加え、ご自身でも意識的に筋力を鍛えることが非常に大切です。じっとしがちな方は、最終的に良い結果につながりにくいでしょう。当院では、安全性に配慮しながら、術後早期からなるべくご自身で歩いてもらいますし、毎日行っているリハビリでは豊富な経験を持つスタッフが積極的にリードします。退院直後は患部の腫れが増すこともありますが、「改善のためにもためらわずにどんどん動いてほしい、声をかけ合って頑張りましょう」と、入院中から繰り返しお話ししています。
- Qこちらで受けられる手術の特徴をご紹介ください。
- A
チーム一丸となり患者をサポートしている
膝の人工関節では、「人工関節を埋め込む位置」や、膝の曲げ伸ばしに必要な「骨と骨との隙間」に注目した手術を行っています。これらが膝の可動域や歩行能力、さらに術後の痛みなどにも深く関わるからです。このほど、コンピューター上でこれらを詳細に検討できる手術支援システムを導入しました。われわれの経験値に本システムのメリットを上乗せして、患者さんの負担がより軽く、満足度の高い手術をめざしています。また、2024年1月から同年12月の間には膝関節205例、股関節61例の人工関節置換術を実施しており、市民公開講座やクチコミなどで、人工関節に関心を持つ方が増えているとの手応えを感じています。

藤本 英作 整形外科部長
1988年広島大学医学部卒業。1999年にはスウェーデンイエテボリ大学臨床科学移植医学部門へ留学し、軟骨細胞培養移植の研究に従事。帰国後、2002年には中国労災病院へ入職し2021年より現職。2012年からは新設された人工関節センターのセンター長も兼任。「患部だけでなく患者さんの人生をよくする治療」がモットーで、診療と同時に市民健康講座などの啓発活動にも注力。日本整形外科学会整形外科専門医。