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国産の手術支援ロボットを活用した
低侵襲な前立腺がん治療

独立行政法人 労働者健康安全機構 中国労災病院

(広島県 呉市)

最終更新日:2023/05/19

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  • 保険診療
  • 前立腺がん
  • 尿失禁

さまざまな領域で治療の低侵襲化が進む中、がん治療についても手術支援ロボットを活用した手術のニーズが高まっている。従来の腹腔鏡手術よりも精度や安全性にこだわることができる手術とされ、保険診療適用の疾患も増加。そのような中「中国労災病院」の泌尿器科では国産の手術支援ロボットを導入し、前立腺がんの治療に取り組んでいる。人間工学に基づき日本人の体型にフィットした設計となっていることから術中の姿勢維持や操作性に優れ、より繊細な手術が期待されている。「病巣の精密な切除や縫合ができるため良い予後が期待でき、また合併症のリスクの軽減につながるほか、入院期間が短くて済むことも見込めます」という泌尿器科部長の小林加直先生に、手術支援ロボットを用いた前立腺がん治療について聞いた。(取材日2023年3月17日)

日本人にフィットした国産の手術支援ロボットを活用し、より安全性に配慮した精密な前立腺がん治療をめざす

Q前立腺がんとは、どのような病気なのでしょうか?

A

前立腺がんの治療について語る泌尿器科部長の小林加直先生

前立腺がんの発生・進行には男性ホルモンが関係しています。遺伝的な要素もあり、2親等以内に前立腺がんの方がいると罹患する確率が高まりますが、食事の欧米化など西洋的な文化により罹患率がアップしている病気の一つと考えられています。悪性度が高い場合は多くの場合予後が悪く、命に関わるがんと言えます。自覚症状がないため自分では気づきにくく、骨などに転移して腰痛から判明する場合や、排尿障害から前立腺がんが見つかる場合があり、自ら検査を受けなければ早期での発見が難しいがんです。そのため50歳を超えた段階で一度検査を受けるよう啓発活動などが行われています。

Q治療についてはどのような選択肢があるのでしょうか?

A

相談のしやすい環境を整えている

悪性度が低く転移がなければ経過観察となる場合があります。治療導入について考える時間をつくれる一方で、がんを持っている精神的な負担が続くことはデメリットといえます。悪性度が高い場合は、手術支援ロボットや腹腔鏡を使った手術でがんの病巣を切除する、あるいは放射線による治療を行います。放射線治療に関しては前立腺の中に放射性同位元素を埋め込む内照射治療、体外からエックス線を照射する外照射治療があります。がんが前立腺以外に浸潤していれば外科的な治療を行った後に放射線治療を行うことも。ほかの臓器や骨に転移が認められた際には全身的な治療が必要で、男性ホルモンを抑制するための薬や抗がん剤による治療を行います。

Q手術支援ロボットの治療対象となる患者さんを教えてください。

A

手術支援ロボットにより、より低侵襲な手術が期待される

まずほかの部分への転移がないことが条件です。前立腺周囲に浸潤があっても、集学的治療としてがん病巣を取り除くメリットがある場合には、相談の上で手術を行います。現代社会では元気な高齢者が増えています。平均余命は年齢で違いますが、例えば60歳であれば30年、70歳では25年、80歳でも20年くらいといわれています。同じ60〜80歳でも個人差がありますが、健康であればそれだけ平均余命が期待できるのです。そのため、当院では全身麻酔に耐え得る状態と判断した場合には80歳台でも手術を提案しています。ただし大腸の手術を繰り返しているなど、大きな癒着が懸念される場合は従来の腹腔鏡手術で行うほうがよいと考えます。

Q手術支援ロボットのメリットとデメリットをお聞かせください。

A

症例の画像を見ながら医師が議論を重ね、最適な治療法を探る

従来の腹腔鏡手術よりも頭の位置が低くできるので出血量が少なくなるほか、より精密な病巣の切除、縫合ができるので低侵襲な手術が可能になります。腹腔鏡で手術を行う場合は術者と映像を撮る人が違うのでラグが起きてしまう可能性がありますが、手術支援ロボットでは術者の視点にカメラが合うのでズレが起きません。また切除するライン取りも適切にできるので尿道を残せる可能性も見込め、術後の尿失禁のリスクを下げるといったメリットも期待できます。従来の腹腔鏡手術と異なり、腸管の癒着に対応することとなるのが唯一のデメリットと言えそうですが、ロボット支援手術では、腸管の癒着への対応にも優れており、ほぼ問題がないと言えます。

Qこちらの手術支援ロボットによる手術の特徴を教えてください。

A

これまでの手術支援ロボットは外国産のものが主流でしたが、当院では国産のロボットを導入しているというのが大きな特徴です。手術支援ロボットを導入するのも当院としては初の試みでしたが、開発にも携わった広島大学の日向信之教授に手術指導をしていただきました。人では難しい繊細な処置が可能であるほか、高精度なモニターが活用できるため非常にクリアな視界で手術を行うことができます。結果、病巣部の取りこぼしが少なくなると期待しています。それに加えて機械自体が日本人の体型に合った設計となっているので、無理のない姿勢での手術が可能です。技術者も同じ日本人ですから、不具合の相談がしやすく微妙なニュアンスも伝わります。

Q手術の際に気をつけているポイントはありますか?

A

3Dを見ながらロボットを操作する

やはり命を救うということが目的なので、確実に病巣を切除するという点は最大限重視しています。さらに安全に手術を行うためには術者だけではなくスタッフも重要になります。術者は意外と視野が狭く、助手や看護師、臨床工学技士などさまざまなスタッフの目を生かすことが欠かせませんし、みんなの意見を素直に聞くという姿勢も必要になります。ですからチームワークというのも一つのキーワードになってくるでしょう。もちろんロボットは使えば使うほどうまくなっていくものですから、シミュレーターを活用した練習を続け、より精密な動作による手術ができるよう研鑽を重ねています。

患者さんへのメッセージ

小林 加直 泌尿器科部長

1999年、宮崎医科大学(現・宮崎大学)を卒業後、広島大学医学部泌尿器科に入局。関連病院に勤務し、前立腺がんをはじめとした悪性疾患から尿路感染症など良性疾患まで幅広く診療を続けてきた。2014年1月に中国労災病院に赴任し、同年4月から現職。日本泌尿器科学会泌尿器科専門医。

手術支援ロボットを活用することで、以前の手術よりも患者さんの負担は低減できていると考えています。がんという診断を受けるとショックを受け、非常に心配されるかと思いますが、病巣の精密な切除や縫合ができるため良い予後が期待でき、また合併症のリスクの軽減につながるほか、入院期間が短くて済むことも見込めます。年齢や全身状態に不安があり諦めているという方でも、まずはご相談いただければと思います。しっかりとがんを評価し悪性度を判断した上で、心肺機能や呼吸機能などをチェックすれば手術ができる可能性もあるので、諦めるのではなく手術ができるのかどうかを調べるところから始めてみましょう。

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