独立行政法人 労働者健康安全機構 中国労災病院
(広島県 呉市)
栗栖 薫 院長
最終更新日:2025/03/11


変貌する急性期医療にも対応できる病院へ
JR呉線の新広駅を降りると、海側に「中国労災病院」が見える。呉市東部を中心に東広島市の一部、竹原市、さらに瀬戸内海を挟んだ島しょ部も含めた広大なエリアを医療圏とする同院は1955年に開院。診療部門や病床数の拡充を重ね、現在は地域の中核病院として高度専門医療、周産期医療、救急医療などの急性期医療、さらに治療と仕事との両立支援なども含めた良質かつ包括的な医療で、住民の暮らしを支えている。そんな同院を2020年から率いるのが、病院創立70周年と同じタイミングで古希を迎える栗栖薫院長だ。「職種や部門を越えた情報共有でレジリエンスの高い人材や組織を育て、地域医療に貢献したい」と笑顔で語る。現在は突発的な救急ニーズにも対応できる診療体制の構築や、先進機器を用いた高度医療、地域医療とのシステマチックな連携などに注力。さらに社会的側面からの患者支援や医療人材の育成にも取り組むなど、多方面から良質な病院づくりをめざす栗栖院長に、現在の同院について詳しく聞いた。(取材日2025年1月15日/更新日2025年3月6日)
貴院の歩みや理念について教えてください。

1955年に病床数50床、内科、外科、整形外科の3診療科でスタートした当院は現在、26診療科・410床の地域基幹病院になり、開院70周年を迎えました。当院は労災病院であることから「働く人と地域の人のために患者中心の良質な医療を提供します」という理念を最終到達目標とし、「尊厳と権利の尊重」「高度で安全な医療」「地域医療機関との連携」「治療と仕事の両立」「優れた人材の育成」という6つの基本方針を掲げています。例えば、当院の属する二次医療圏は医療体制が比較的充実してはいますが、当院ではさらに診療科ごとに診療内容を全国平均と比べるなどして、必要な医療にアクセスできない住民が地域内で生じることのないよう診療機能の活用に努めています。また医療職向け総合実習・研修センターや、就労をめざす患者さんをサポートするため設置された治療就労両立支援センターと連携し、「人」を中心とした支援の実践に取り組んでいます。
高度専門医療での新たな取り組みについて、お聞かせください。

2022年に導入した純国産の内視鏡手術支援ロボットは、当初は泌尿器科で主に前立腺がんの前立腺摘除術で用いていました。その後膀胱がんにも拡大し、さらに腎臓がんの手術も始める予定です。また、消化器外科でも直腸や結腸などの下部消化器がんでロボット手術を行っており、今後は上部消化器がんにも対応します。ロボット手術の特色である精緻な手技で、患者さんのメリットを高めていきたいですね。新型コロナウイルス感染症の流行により、内視鏡検査数は多くの医療機関で減少していました。5類感染症に移行したこともあり、当院では以前より検査ライン数を増やしています。また専門の医師が着任し、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)などを日常的に行える体制も整えました。なお、高度で専門的な検査や診断ではMRIが大きな役割を果たしますが、2024年の年末には1.5テスラのMRIを新しく入れ替え、高画質かつ短時間での撮像に役立てています。
地域医療機関とは、システマチックな連携も増えているとか。

2023年以降、認知症の新規治療薬が登場し大きな注目を集めていますが、投与前には軽度認知障害(MCI)の評価をしたり、投与開始後もリスク管理のためにMRI検査を行ったりする環境が必要です。そこで脳神経内科ではMCIの評価ができる専門のスタッフを増員し、チェック体制を増強。また治療開始後はMRI検査ができる神経系の専門病院と連携し、患者さんはそちらで治療が続けられるようにしました。それから消化管の内視鏡検査でも、ご紹介いただいたかかりつけ医療機関で検査の前処置の説明や処方をしていただき、患者さんはそれに従って前処置を行い予約当日に当院へ来てもらえれば検査ができるという流れを整えています。以前は1回受診してから別の日に検査をしていましたので、患者さんの利便性はかなり向上したと思います。このようなシステマチックな連携で、地域の先生方と当院の医師との「2人主治医制」をさらに定着させていきたいです。
「人」に対する支援にも力を入れていると伺いました。

2022年に設置した総合実習・研修センターでは、医療職をめざす学生から現職の医療関係者まで、幅広く実習や研修が受けられる窓口を設け、研究の場も提供しています。近年では看護実践能力を高めるためシミュレーター開発が行われ、学生や看護師が先進の技術を体験できる機会になっていますし、研究される先生方の論文執筆や発表にも役立っています。また、患者さんの就労支援にも携わりたいと、がんや糖尿病、脳卒中の患者さんをサポートする体制を整えました。他に、痩せ傾向にある妊婦さんに栄養学的な支援を行い低出生体重児の予防を図ったり、働く女性の出産・育児支援を助産師が中心となり行ったりと、新たな取り組みも始まっています。当院では研修医の初期臨床研修でも、治療と仕事の両立支援を具体的に学べるカリキュラムを設けています。医療は「人」が支えるものですから、人材育成や研究、その成果の社会実装には今後も力を入れていきたいです。
最後に、こちらの病院の強みや今後の展望をお聞かせください。

2024年から2025年の年末年始の9連休では、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の感染が急拡大。大半の開業医院が休診する時期でもあり、過去に例を見ない数の救急患者さんが基幹病院に集まりました。入院加療が必要な方も多く全国的に非常事態が続きました。感染症だけでなく、この地域では南海トラフ地震の影響も想定され、今後は予定された高度急性期医療に加え、突発的な急性期医療の需要拡大にも対応が求められます。院内では以前から各部門内や部門間の会議で問題点を共有し、改善に取り組んできましたが、その過程で風通しが良くガバナンスが効いた組織基盤が育まれてきました。リハビリテーションの365日実施など、現場からの提案でスタートした取り組みもあります。このような強みを今後も高めつつ、公的病院に課せられる多彩なミッションに、適切に応えていく病院でありたいと考えています。

栗栖 薫 院長
1981年広島大学医学部卒業。脳神経外科に入局し助手、講師、助教授を経て1995年より25年間教授職を務める。文部科学省在外研究員として1999年にドイツ・カナダ・アメリカに留学。広島大学病院副病院長、広島大学副理事を歴任。2020年3月広島大学を退職後、同年4月には中国労災病院長、広島大学名誉教授に就任。院内外で広く連携しレジリエンスの利いた病院づくりに尽力。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。