卵巣嚢腫は急速に腫れることも
精緻な腹腔鏡手術でニーズに応える
医療法人恵生会 恵生会病院
(大阪府 東大阪市)
最終更新日:2024/11/28
- 保険診療
- 卵巣嚢腫
- チョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)
女性の体で重要な役割を果たすが、普段は意識する機会がほとんどない卵巣。子宮がん検診の際に「卵巣も調べましょうか?」と尋ねられ、迷った人も多いだろう。卵巣がん検診では通常、超音波検査で卵巣をチェックしており、腫れがあれば詳しい検査が必要だ。卵巣が大きくなる原因としては、悪性が多い充実性腫瘍と、良性が大半の卵巣嚢腫がある。ただ、体外からの検査だけで悪性を否定することは難しく、また卵巣嚢腫でも大きくなるとがん化や卵巣捻転などが心配されるため、手術を考える必要が。そこで、長年にわたり腹腔鏡による卵巣嚢腫の手術に携わり、現在は「恵生会病院」の婦人科内視鏡手術センターで難易度の高い症例にも応じる子安保喜院長に、卵巣嚢腫の治療や同センターでの手術について詳しく聞いた。(取材日2024年7月19日)
目次
若い世代にも多い卵巣嚢腫。傷口が小さく安全性を追求した腹腔鏡手術で、卵巣機能や見た目の維持をめざす
- Q卵巣が、腫れたり大きくなったりするのはなぜですか?
- A
卵巣が腫れる原因は、大きく2つ。1つは硬くしこりのようなかたまりができる「充実性腫瘍」で、もう1つは液体状の成分がたまりやわらかさのある「卵巣嚢腫」です。卵巣嚢腫は中にたまる成分によってさらに分類され、子宮内膜症が卵巣にできる卵巣子宮内膜症性嚢胞は、チョコレート嚢胞とも呼ばれています。また漿液(しょうえき)や粘液がたまる「膿胞腺腫」、皮脂や毛髪、歯などの組織が含まれた成分がたまる「皮様嚢腫」もあります。一般的に充実性腫瘍はがんなど悪性のものが多く、卵巣嚢腫は良性であることが多いのですが、両者の間に位置する低悪性度の卵巣腫瘍もありますし、卵巣嚢腫ががん化することもあります。
- Q卵巣嚢腫の症状や、手術をすべきタイミングを教えてください。
- A
卵巣嚢腫が大きくなると、破裂したり、卵巣を支持する靱帯がねじれ血流を妨げる卵巣嚢腫の茎捻転を起こしたりすることがあり、このような場合には急激な強い痛みを感じます。しかし、嚢腫があっても初期にはごく軽い痛みだけの場合や自覚症状がないことも。このため卵巣の腫れは子宮がん検診や妊娠などで偶然に見つかることが多いです。中には腫れが短期間で増大してしまう場合もあります。このため、検査で悪性でないと見込めれば3ヵ月程度の間隔で経過観察しますが、5~6cmを超えた場合には病理組織検査で悪性かどうかの確認が必要になります。さらに捻転や破裂を回避し、妊娠を望む場合には卵巣機能を維持するためにも、手術を考えます。
- Q卵巣嚢腫の手術方法には、どのようなものがありますか?
- A
もし手術中に卵巣嚢腫の内容成分が腹腔内に漏れ出ると、感染などの合併症や、悪性であれば播種も懸念されるため、悪性の可能性が高い場合は開腹手術を行います。それ以外のもの、つまり術前の画像診断や腫瘍マーカーで良性と見込まれる卵巣嚢腫では、卵巣へのダメージや傷口のサイズ、術後癒着の少なさなどから、腹腔鏡による手術が一般的になっています。卵巣全体あるいは嚢腫のみの摘出を行いますが、妊娠の希望があれば嚢腫のみを摘出することが多く、閉経後や、捻転などで腫瘍が壊死している場合、悪性の可能性がある場合には、卵巣全体を摘出します。なお、チョコレート嚢胞ではホルモン治療を優先して行うケースも増えています。
- Q腹腔鏡手術のメリットとデメリットは?
- A
腹腔鏡手術では、おなかに直径5~10mm程度の穴を2~4ヵ所開けて、そこから手術器具やカメラを挿入し、モニターを見ながら手術を行います。メリットは、小さな傷口で、体の負担が少ない手術を行えること。傷が小さく少ないので術後の癒着が少なく、その後の自然妊娠の可能性も残せますし、見た目においても非常に大きな意義を持ちます。また開腹手術よりも痛みが少なく、より短期間で退院や社会復帰が期待できます。ただし、画面を見ながらの施術では奥行きの感覚を得にくく、また処置を行う鉗子の数や動きも限られます。さらに卵巣はそれ自体が小さな臓器で、内容成分なども繊細な取り扱いが求められ、術者には技術の熟達が欠かせません。
- Qこちらの病院での腹腔鏡手術の特徴や強みをご紹介ください。
- A
まず、卵巣を残すのか摘出するのかを判断するためには、術前の的確な診断が重要です。当院ではMRIや腫瘍マーカーで卵巣嚢腫のタイプを見極めます。また手術直前にも超音波検査を行い、一時的に卵巣が腫れて徐々に落ち着く機能性嚢胞などで不要な手術をしないように努めています。手術に関しても、内容成分を腹腔内に漏らさないために、先に内容成分を吸引して小さくした卵巣を体外へ取り出し、そこで嚢腫の摘出や卵巣の修復を行って体内へ戻すなど、安全性に配慮した工夫も。同時に、卵巣機能を温存するために欠かせない血流の維持にも注意を払いますし、かなり大きくなった卵巣嚢腫でも、腹腔鏡手術を検討できる技術と経験を備えています。
子安 保喜 院長
1985年兵庫医科大学を卒業。市立川西病院(現・川西市立総合医療センター)や兵庫医科大学産婦人科を経て1993年からは宝塚市立病院産婦人科で腹腔鏡手術に注力。2005年より四谷メディカルキューブで勤務し同院ウィメンズセンター長、2010年からは同院副院長として腹腔鏡や子宮鏡を駆使した内視鏡手術を多数の患者に提供。2023年には関西へ戻り、恵生会病院にて院長と婦人科内視鏡手術センター長を務める。