独立行政法人国立病院機構 四国がんセンター
(愛媛県 松山市)
山下 素弘 院長
最終更新日:2024/09/24
がんの集学的治療と包括的なサポートを実践
がんを専門的に診る施設として国立松山病院に併設されて以来、四国はもちろん全国のがん医療の前線に立ってきた「四国がんセンター」。1950年代後半、国を挙げてがん治療に取り組む機運が高まった際には、全国がんセンター協議会の一員として、あるべきがん医療の姿を考え、地域がん診療連携拠点病院の構想から関わってきた。愛媛県はもちろん、中国・四国地域におけるがん診療の拠点として、専門病院ならではの包括的で質の高いがん治療を提供することを使命に、治療の3本柱である手術、放射線治療、抗がん剤治療を主軸とし、がんゲノム医療など先進的な医療、術後の早期回復をめざした多職種によるチーム医療、患者と家族の体と心の苦痛を和らげるための緩和ケアなどに注力し、がん患者を総合的に支えている。県内のみならず四国地方のがん診療の中心的役割を担う同院の現状について、山下素弘先生に聞いた。(取材日2023年12月19日)
病院の近況について教えてください。
病院のトピックスの一つとして、昨年4月に、がんゲノム医療拠点病院の指定が更新され、四国地方のがんゲノム医療拠点病院となったことが挙げられます。私たちががんに特化した治療や研究を行ってきたことを評価していただけたということで、しっかりと役割を担いながら四国内でのニーズの高まりを認識し、日常診療にあたりたいという気持ちです。それに伴い、従来からのがんに対する先進的な医療の一環として、がんの遺伝子の結果に基づいた治療を進めています。近年、がんの発生に関係する遺伝子を網羅的に調べるがんゲノムプロファイリング検査が保険適用となり、患者さんの遺伝子変異に合った薬を選べるようになりました。これによって副作用が比較的少なく、かつ効率良く治療が進められることに期待が寄せられています。そのような医療を率先する立場であるということを自覚し、より一層、専門病院として地域に貢献していきたいと考えています。
特に注力している治療をご紹介ください。
まず、早期がんについては手術や放射線治療が中心になり、負担が少ない低侵襲治療を進めるとともに、ある程度進行したがんについては、手術と放射線治療あるいは薬物治療などいろいろな治療の組み合わせによるがんの集学的治療も積極的に導入しています。特に抗がん剤治療をはじめ薬物療法の分野はがんゲノムの解析に基づく治療が目覚ましい進歩を遂げていますので、それについては今後も弛まぬ研究と努力を重ね、より良い治療、つまり先端の治療を届けていきたいと考えています。中でもその先端をいくのが肺がん領域ですが、当院は専門病院として特定の分野に限らずがん全般に向けて力を入れて取り組み、肺がん、大腸がん、胃がん、肝がん、乳がんといった五大がんに関してがんゲノムに関する新しい情報を常に収集し治療を行っています。
治療後のケアにはどのように取り組んでいますか?
がん患者さんに比較的お元気な高齢者が増えてきたことで、従来の80歳を超えたら無理して治療をする必要はないというイメージから、90代でも治療をすれば希望が持てるという考えが浸透しつつあります。しかし、どうしても入院中に体力が落ち、治療後に元の生活に戻りにくい人もいらっしゃるのが現状です。そこで当院では、リハビリテーション科の医師、歯科医師、看護師など多職種で複数のチームを組み、治療後、早く日常生活に復帰できるように入院中から計画を立て実践しています。また、治療に関わる患者さんだけではなく支える家族にも気配りをしながら、患者さんとご家族と一緒にがんの治療を考えていくという姿勢を大切にしています。ご家族の精神的なつらさや不安の相談まで視点を広げることで、治療をして終わりではなく、患者さんや家族のその後の人生をどのようにサポートしていくかということにも向き合っています。
医療連携など、地域に向けての取り組みはいかがでしょうか。
がんの疑いのある患者さんはなるべく早く検査や治療を受けたいという気持ちがあり、地域の先生方も早く診療をしたほうが安心できると思います。ですので、検査に時間がかかりすぎないようにし、なるべく早く治療を始められるよう迅速に対応することをめざしています。一人の患者さんが複数の医療施設にかかっていらっしゃるということもありますので、すべての情報を的確に判断できるよう連携を密に取り、患者さんの負担なく診療が進められるよう努めていきたいです。脳神経の領域や小児がんなど、当院では専門的な治療が難しい分野については、大学病院などのネットワークを構築し、診療に関する情報をオープンにするとともに、当院のがん相談支援センターでご相談いただけるようにしています。また、子宮頸がんワクチンをはじめとするワクチン接種に関する正しい情報を広く発信することで、将来的ながんの発症を減らすこともめざしています。
最後に地域の人に向けてのメッセージをお願いします。
私のモットーは、患者さんを目の前にしたとき、自分の親だったらどうするかを考え、してあげたいと思う治療を提供するということです。一方で、「治療は先生にお任せします」と言ってくださる患者さんも多いのですが、お気持ちはそうであっても、やはりがんの治療というのは医師と患者さんが協力し立ち向かうものです。患者さんの思いを治療やその後の生活に生かせるように、患者さんの人生観を大切にした治療を心がけるとともに、そのような意識を全職員で持てる病院でありたいですね。これまでも「がんだったら四国がんセンター」と思っていただきたいと発信してきましたが、これからは「がんかな?と思ったらまずは四国がんセンター」、さらに将来的には「がんにならないためにも四国がんセンター」と思っていただける存在になっていけるよう、総合的ながん診療を提供してまいります。
山下 素弘 院長
1985年岡山大学医学部卒業。ワシントン大学胸部心臓血管外科留学。岡山大学第二外科で肺移植に従事し、南岡山医療センター外科医長などを経て2017年から四国がんセンター副院長。2022年から現職。専門は肺がん、悪性胸膜中皮腫、縦隔腫瘍の外科治療。日本外科学会外科専門医、日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医。