順天堂大学医学部附属浦安病院
(千葉県 浦安市)
田中 裕 院長
最終更新日:2024/02/02
高度医療と医療連携で地域医療を支える
現在6つある順天堂大学の附属病院のうち3番目に開院した「順天堂大学医学部附属浦安病院」。1984年の開設以来、順天堂の理念である「人在りて我在り、他を思いやり慈しむ心」という「仁」の精神に則った患者中心の医療を実践。地域の医療機関との連携で大学病院として高度な医療を追求するとともに、地域に貢献できる優秀な人材の育成にも努めている。同院が位置する千葉県東葛南部・北部地域は、県全体の人口約600万人のうちおよそ半分を占める人口密集地であることから、同院は、高度医療を求められていることはもちろん、救命救急センター・地域災害拠点病院の機能を有する地域の基幹病院、急性期病院としても重要な位置づけにある。そのような中、2023年9月に高度救命救急センターとして指定を受け、これまでのチーム医療をさらに強化し、広範囲熱傷、指肢の切断、急性中毒、多発外傷といった最重症の治療に24時間体制で取り組んでいる。また、第1期の病院改修工事が終了し、患者目線の大改革が一歩前進。そこで日々進化を遂げる同院の現在の取り組みについて、田中裕院長に聞いた。(取材日2023年11月20日)
2023年9月に高度救命救急センターに指定されましたね。
高度救命救急センターが担う広範囲熱傷、指肢の切断、急性中毒、多発外傷は、救急科単体ではなく、複数の診療科によるチーム医療でなければ救命は望めません。多発外傷で頭部であれば脳神経外科、四肢の骨折であれば整形外科、重症のやけどは救急科と形成外科の熱傷の専門家が参加してチームで治療していきます。つまり高度救命救急センターになるということは、積極的にチーム医療を実践する必要があるということです。当院には長くチーム医療を活発に行ってきた歴史があり、その体制をより強化し、最重症患者さんを受け入れる環境を整えています。今後は高度救命救急センターの外来フロアを大幅に拡張する予定で、比較的軽症な方と最重症患者さんを診る場所をゾーン分けし、診察室に隣接した手術室を設置するなどの高度化をめざしたいと考えています。
第1期の病院改修工事が終わり、院内の様子はいかがですか?
以前は、病院の正面玄関から遠い位置に採血室、その向かい側に放射線撮影室という配置だったため、混み合う時間は順番待ちをする人の長蛇の列で、座る場所もないほどでした。治療に来た患者さんのストレスが大きかったことから、まずはそこを解決するため、1期工事ではロビー近くに、中央採血室、超音波検査室、呼吸機能検査室などを1ヵ所に集めた身体機能検査センターを開設しました。患者さんは受付が終わるとスムーズに採血室などに行き必要な検査を受けることができます。移動は最小限に検査をシームレスに完結できるようになったので、待ち時間が非常に短くなり、サービスの向上につながりました。動線が短くなったことでスタッフも働きやすくなったと思います。また、レストランやコンビニエンスストアができ、休憩スペースも拡大されたことで、診察を待つ間もリラックスして過ごしていただけるようになりました。
複数の診療科によるセンター化を推進されているそうですね。
2023年は身体機能検査センターのほか、フットケアセンターも新設しました。下肢重症虚血で悩む人が多いことから、循環器内科、形成外科、整形外科、腎臓内科を中心に下肢の血流を良くすることをめざしています。腎臓内科では、血管が詰まる原因となるLDLコレステロールを除去するための血液浄化療法に対応しており、地域の透析病院と協力し、血液浄化療法の導入は当院で、その後は地域の透析病院でという医療連携を推進しています。昨年開設した膠原病・リウマチセンターは、膠原病・リウマチ内科、整形外科、産婦人科、呼吸器内科が介入しています。このように、センター化するということは、診療科の垣根を超えたチーム医療を行うということです。当院は目標の一つに「安全で質の高い高度な専門医療をチームで行う」ことを掲げています。各分野を得意とする専門家が集まることで成り立つこうした医療は、総合病院であり大学病院だからこその強みです。
がん医療にはどのように取り組んでいかれるのでしょうか。
がん診療は昔のような手術、放射線治療、化学療法だけではなく、ゲノム医療など選択肢が多様になりました。がん患者さんの生存期間も長くなっていることから、地域がん診療連携拠点病院は、治療後のがん患者さんのフォローやケアまでを担っていくことが求められています。そのためには、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、医療ソーシャルワーカーなど多職種が、治療のチーム、支援のチームと複数のチームを結成し、がん診療を進めていくことになります。高度急性期医療を担う大学病院にとって、がん診療は特に力を入れるべき分野の一つです。千葉県では当院、千葉大学医学部附属病院、船橋市立医療センター、国立がん研究センター東病院が柱となって、急性期治療の中のがん診療に積極的に注力しております。当院では現在、ほとんどの診療科でがん患者さんを診ています。急性期プラスその後のフォローまで患者さんの一生を支える覚悟で向き合っていきたいです。
最後に、地域の皆さんへのメッセージをお願いします。
開設から約40年がたち、当時から利用されている地域の患者さんにとっては大学病院というよりは、近くのかかりつけの病院というイメージが強いと思います。そういった患者さんは引き続き当院を頼りにしていただきたいです。と同時に、紹介受診重点医療機関として、より積極的に専門診療が必要な初診患者さんを受け入れ、地域医療連携を積極的に推進していきたいと考えています。病床についても有効利用を心がけ、救急患者さんなど入院が必要な方がスムーズに入院していただけるよう取り組んでいます。この3年は新型コロナウイルス感染症との闘いでしたが、地域の基幹病院として、重症患者さんを積極的に受け入れ、救命に尽力してきました。新型コロナウイルスは収束の兆しが見えてきましたが、今後来るであろう新興の感染症や災害についても、高度救命救急センターおよび感染対策室を中心に対策してまいります。
田中 裕 院長
1982年大阪大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院特殊救急部へ。交通事故や重症熱傷など特殊な救急症例の治療に携わる。1990年から3年間米国に留学し、呼吸障害の基礎研究に力を注ぐ。2007年に順天堂大学医学部附属浦安病院教授に就任。救命救急センター長、副院長、診療部長を経て2021年4月から現職。専門は救急医学、外傷外科。日本救急医学会救急科専門医。