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前立腺がんに対する重粒子線治療の
メリットとデメリットを解説

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 QST病院

(千葉県 千葉市稲毛区)

最終更新日:2023/05/01

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  • 保険診療
  • 前立腺がん

手術、化学療法と並ぶがん治療の一つである放射線治療。中でも重粒子線治療は従来のエックス線による高精度放射線治療よりも前立腺全体にピンポイントで照射が図れることから、周囲の臓器への影響が少なく副作用の軽減も期待できるといわれている。重粒子線治療の発展・普及に尽力してきた放射線科単体病院「QST病院」では、在籍する20人の放射線専門の医師のうち4人が前立腺専門の医師で、日々患者の希望に応えるべく治療に努めると同時に、より精度が高く治療期間が短く患者の負担が少ない治療にするための研究に余念がない。そこで、2018年に前立腺がんの治療で保険適用となった重粒子線治療の詳細について同院の石川仁副病院長に話を聞いた。(取材日2023年2月27日)

余計な照射を減らし周囲の臓器への影響を最小限に。副作用や通院、費用の負担を軽減し、より身近な治療に

Q前立腺がんの初期症状や原因にはどのようなことがありますか?

A

前立腺がんの治療と研究を担う専門チーム

前立腺がんの原因ははっきりしていませんが、女性の乳がんと同じようにホルモンが関係しており、男性ホルモンのテストステロンとアンドロゲンががんの形成に関わっていると考えられています。家族性もあり、親や祖父、兄弟に前立腺がんになった人がいる場合は、発症するリスクが高いとされています。前立腺がんは早期の場合、ほぼ症状がなく、多くの人が健康診断の血液検査で異常値が出て、精密検査、組織診断を経て、がんと診断されることになります。中には腰の痛みや血尿など病気が進んでしまったゆえに出る症状によって見つかることもありますが、早期の段階で発見されるので、早期治療ができる病気となっています。

Q前立腺がんの治療にはどのような方法がありますか?

A

垂直と水平の2方向から照射できる治療室

前立腺がんは病態によって治療が異なり、前立腺に限局したがんの場合の対応法は4つあります。1つ目は監視療法で、悪性度とPSA値が低くがんが小さく前立腺の中にとどまっている場合は、定期的に血液検査でPSAの値を測定し、がんの進行度を経過観察します。2つ目は手術、3つ目は放射線治療です。放射線治療は外部照射による重粒子線治療、陽子線治療、強度変調放射線治療(IMRT)と、内部から照射する小線源治療があり、重粒子線治療は今や標準的な放射線治療の1つとなっています。4つ目のホルモン療法は、過度な治療をしない場合やがんが前立腺の外に広がっている場合に選択されますが再発リスクに応じて放射線治療と併用します。

Q重粒子線治療の特徴を詳しく教えてください。

A

360度の角度から照射できる回転ガントリー治療室

IMRTで用いるエックス線は光の特徴を有する放射線で体内に入ってすぐにエネルギーが最大となり、次第に減弱するため、いろいろな方向から当てることで前立腺に放射線を集中させます。このため、少ない量ではありますが広い範囲に放射線が当たってしまいます。それに対して重粒子線は重みのある粒子の特徴を有します。ボールを投げればどこかで止まるように、体の中を真っすぐシャープに飛んでいき前立腺で止まります。さらに止まったところで最大のエネルギーを放出するので、照射する部分に限定した治療が行えます。そのため、前立腺の周囲の臓器への線量を抑え、照射される体積を小さくすることで副作用の軽減が図れます。

Q重粒子線治療のメリットとデメリットや費用を知りたいです。

A

石川副病院長は自分に合った治療を選択してほしいと話す

重粒子線治療のメリットの1つは、先述のとおりがん細胞にピンポイントに照射することで副作用の軽減を図れることです。もう1つは他の放射線と比べエネルギーが大きいことで、がん細胞が分裂を繰り返し増殖していくタイミングで照射してもがんへダメージを与えることへの期待ができます。一方デメリットは、重粒子線治療を行える施設は国内に7箇所しかないため、お住まいの地域によっては通院がしにくいことです。費用は前立腺がんの場合、数百万円ですが保険適用なので負担額は3割〜1割、さらに高額医療制度を利用すれば数十万円前後になることもあります。

Q重粒子線治療の具体的な流れについて教えてください。

A

治療準備や放射線治療が行われる新治療研究棟

まず診断時の前立腺がんの状況から再発リスクに応じて患者さんを低リスク、中リスク、高リスクに分類します。低リスクは重粒子線治療のみ、中リスクと高リスクは重粒子治療の前に3〜6ヵ月間ホルモン療法を実施し、高リスクの人は治療後にさらに1年程度続けていきます。また事前に重粒子線を照射するための目印となる小さなマーカーを前立腺の中に挿入します。その後、体に合わせた固定具を作製し、それを装着してCTを撮影後、治療計画を立て、検証作業を行います。そのため、CT撮影から治療開始までは約10日かかります。治療回数は3週間で12回、マーカーを入れる時のみ1泊2日の入院となりますが、それ以外は通院で治療できます。

Q対象となる患者の条件や適した病気の状態はありますか?

A

新治療研究棟ロビー

この治療はあくまでも前立腺のみにがんがある人に適用で、リンパ節や骨に転移している人は適用外です。その他、放射線治療一般に言えることですが、前立腺の後ろ側に直腸があり放射線が当たってしまうため、直腸がんや潰瘍性大腸炎などがある人にはお勧めできません。通常、体内で腫瘍が大きくなりがん細胞が密になると酸素が足りなくなり、放射線や抗がん剤が作用しにくくなることから、放射線治療は小さいがんに適しているとされています。一方、重粒子線治療では、酸素の濃度が十分でなくても力を発揮させることが可能です。重粒子線でもがんが大きくなると治療がしにくいですが、ほかの放射線治療ほど影響を受けにくいのも特徴です。

患者さんへのメッセージ

石川 仁 副病院長

1995年群馬大学医学部卒業。同大学医学部附属病院講師、筑波大学医学医療系教授などを経て、2020年より現職。専門は放射線腫瘍学と粒子線治療全般。日本医学放射線学会放射線科専門医。医学博士。

前立腺がんは焦らずにきちんと検討した上で治療法を決めることが大切です。病気の状態を検査し、ライフスタイルや病状に合わせて、自分に合った治療を選択してください。医師の話をよく聞いて不十分だと感じたら、セカンドオピニオンを聞くこともお勧めします。放射線治療は“患者さん参加型の治療”です。手術は麻酔で寝ている間に終わりますが、放射線は目が覚めている状態で日常生活を営みながら治療を受けていただくため、治療の結果や副作用は患者さんの努力によっても変わってきます。「自分で頑張って治す」という気持ちをもって受診していただきたいと思っています。われわれも一生懸命にサポートいたします。一緒に頑張りましょう。

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