顔面けいれんと三叉神経痛の
根治をめざす頭蓋内微小血管減圧術
医療法人社団仁明会 秋山脳神経外科病院
(神奈川県 横浜市港南区)
最終更新日:2022/03/28
- 保険診療
- 顔面けいれん
- 三叉神経痛
片側の上下のまぶたや頬、口角にピクピクとけいれんが起こり、進行すると頬が引きつれたり、片目が開けられなくなったりする顔面けいれんと、顔に鋭く強い痛みが短時間、断続的に起こる三叉神経痛。それぞれ、顔の運動をつかさどる顔面神経や顔の知覚をつかさどる三叉神経が、動脈などにより圧迫されることが原因だという。そして、「飲み薬などによる対症療法もありますが、根本的に治療するには手術が必要です」と話すのが、「秋山脳神経外科病院」の矢崎貴仁副院長。同院では、他院ではあまり行われていない仰向けの状態で行う頭蓋内微小血管減圧術で、手術中の患者への身体的負担や術後の合併症の少ない治療をめざしていると話す。そこで、同院の顔面けいれんと三叉神経痛の治療について、矢崎副院長に話を聞いた。(取材日2021年1月8日)
目次
血管が神経を圧迫することで発症する三叉神経痛と顔面けいれん。頭蓋内微小血管減圧術で根本的治療をめざす
- Q顔面けいれんと三叉神経痛とは、どのような病気ですか?
- A
顔面神経は、顔の運動をつかさどる神経です。顔面けいれんになると、片側の上下のまぶたや頬、口角にピクピクとけいれんが起こり、進行すると頬が引きつれたり、片目が開けられなくなったりすることもあります。三叉神経は、「痛い」や「かゆい」など顔の知覚をつかさどる神経です。三叉神経痛では、冷たい空気に触れる、歯を磨く、食事をするなどのきっかけによって片側の顔面や口の中、歯茎などに針で刺されたとかぎゅっとつままれたような鋭く激しい痛みが走ります。痛みは数秒から、長くても数分間で断続的に起こることや、顔の片側に出るのが特徴で、頻度は人それぞれです。どちらも顔に症状が出るため、日常生活に大きな影響を与えます。
- Q何が原因で、そのようなことが起こるのですか?
- A
顔面けいれんと三叉神経痛は、原因が似ています。顔面けいれんでは、顔の運動をつかさどる顔面神経が、三叉神経痛では顔の感覚をつかさどる三叉神経が、脳幹から出た直後の部分で主に動脈に圧迫されることが原因です。つまり、脳幹から出た顔面神経や三叉神経のすぐそばを血管が通っている方なら、いつ発症しても不思議ではありません。また、加齢とともに動脈硬化を起こし、硬くなった血管壁が神経を圧迫する力が徐々に強くなり、一定の圧力を超えたときに症状が出てくることが少なくありません。患者数は、両方とも1万人あたり数人程度ともいわれており、多少女性のほうに多い傾向があります。
- Qどのような治療がありますか?
- A
それぞれに対症療法と根治療法があります。顔面けいれんの対症療法では、内服薬のほか、ボツリヌス毒素製剤を顔面に注射することで顔面けいれんの鎮静を図ります。三叉神経痛では、カルバマゼピンという薬を服用することで痛みをある程度抑えるのに役立ちます。しかし、副作用として眠くなったりフラフラしたりするなど、日常生活に大きな影響を与えることがあります。ほかに、三叉神経そのものに麻酔薬を注射して症状の改善をめざす神経ブロックもあります。ですが、これらの治療は続けることで徐々に作用しづらくなってしまうことが多く、根本的に治療するには手術が必要です。
- Qどのような手術を行うのですか?
- A
根本的な治療法として頭蓋内微小血管減圧術という手術があります。この手術では、耳の後ろの髪の毛の生え際あたりを4〜5センチほど切開し、頭蓋骨に100円玉程度の穴を開けます。そこから、手術用の顕微鏡を用い脳の奥のほうまでアプローチして、三叉神経痛では脳幹から出てきたばかりの三叉神経を、顔面けいれんなら脳幹から出てきたばかりの顔面神経を圧迫している血管を移動させることで圧迫を解除します。通常、手術時間は3時間程度で、入院期間は1週間前後です。手術が成功すればけいれんや痛みはなくなることが期待できますが、聴力障害やめまい、顔面神経まひ、顔面のしびれ、嚥下障害などの合併症が起こる可能性があります。
- Qこちらで行う手術の特徴があれば教えてください。
- A
頭蓋内微小血管減圧術は、一般的に患者さんにうつ伏せに寝てもらって行いますが、当院では、仰向けに寝てもらって行っています。それにより、手術時の麻酔など患者さんへの身体的負担を減らすことができるほか、手術操作で小脳を圧迫する必要がないため、うつ伏せで行ったときに多い手術後のめまいや難聴をはじめとする合併症を極力少なくすることがめざせます。この術式では、執刀医や手術スタッフにある程度の訓練や技術、経験が必要となり、全国でも行っている施設は多くない難しい手術です。しかし、合併症も少なく、患者さんをできるだけ早く日常生活に復帰させてあげるためには、とても有用な術式だと考えています。
矢崎 貴仁 副院長
1985年慶應義塾大学医学部卒業。同大学医学部准教授、国際医療福祉大学教授、立川病院脳神経外科部長などを経て、2017年より現職。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。専門は脳神経外科全般、脳腫瘍、顔面けいれん、三叉神経痛、内視鏡脳神経外科領域、遺伝子・ウイルス療法。患者に寄り添い、治療後に満足感を持ってもらうことを大切にしている。