日本医科大学武蔵小杉病院
(神奈川県 川崎市中原区)
谷合 信彦 院長
最終更新日:2022/10/28
人に尽くし、地域と未来をつくる総合病院
1937年開設の「日本医科大学武蔵小杉病院」。2021年に新病院がオープンし、長い歴史の先に続く新たな一歩を踏み出した。新型コロナウイルス感染症流行の真っただ中に就任した谷合信彦院長は、院内外において未曽有の危機の旗振り役を務めつつ、新病院の建設プロジェクトを粛々と進行。感染拡大収束後を見据え、快適かつ高度な医療の提供を可能にするハードの完成に向けて尽力してきた。これまでどおりの高度医療をよりスムーズに提供させていく環境のほか、災害に備えて病院一帯の安全を守る役割も備えて進化を遂げた新病院は、文字どおり地域の生命線だ。一方で、機能性に満ちた同院の軸が「人」というソフト面にあることも忘れてはならない。医療の力と、患者の生きる力を最大化する鍵は、患者に関わる人の力にあると谷合院長。「治るために必要な最後の1%」を患者と家族、医療者で絞り出せるよう、人を思い、人に尽くす姿勢を背中で見せる谷合院長に話を聞いた。(取材日2022年9月7日)
まずは、病院の成り立ちと歴史から教えてください。
当院は1937年に日本医科大学付属丸子病院として開設され、1963年以降は「日本医科大学付属第二病院」として親しまれてきました。地域に根差した病院であることを名前で体現する現在の名称に変わったのは2006年のことです。私たちの使命は、高度で先進的な医療を提供する大学病院としての高い専門性と、豊富な診療科がそろう総合病院だからこそできるゼネラルな医療を両輪として地域医療をけん引すること。新型コロナウイルス感染症に対しても、神奈川県における拠点病院的な役目を担い、重症の患者さんを数多く受け入れてきました。地域の医療機関と連携して受け入れの調整をする中で病院同士の連携も強まったことは、新型コロナウイルス感染症流行以降の地域医療の強化につながる副産物だと思います。現在では院長同士のホットラインで直接情報をやり取りするまでになり、二次救急システムの100%受け入れにつなげていきたいと考えています。
新病院建設について、あらためて目的をお聞かせいただけますか?
当院の柱は、二次・三次を担う高度な総合救急医療、周産期医療、周術期医療の3つです。新病院では、この3つをより強化することを中心に環境と体制を整えました。救急医療では、24時間体制で二次救急、三次救急の要請に対応し、迅速な診断の上で総合診療部門と救急科を中心に治療を行います。また、感染拡大が一時的に収束しても、何度も波を繰り返すであろうこと、また別の感染症が流行しないとも限らないことを考え、重症者の受け入れを想定した陰圧室を増やしました。災害拠点病院である以上、災害時に救急を止めないことも大切な役割ですから、建物の免震性や水害に強い構造にもこだわっています。見た目の良さより性能を重視して全体をかさ上げしたほか、入り口の扉部分には止水板を入れました。2階のソファーの一部をソファーベッドにして、軽症の方のトリアージに活用できるようにするなど、見えない工夫もたくさん凝らしています。
周産期医療もさらに強化されたわけですね。
産婦人科、新生児内科、小児科、小児外科で構成された周産期・小児医療センターのほか、NICUやGCUを有する高度急性期病棟、小児急病部門を備えていることは当院の特徴の一つです。比較的高齢の方にも安心してお産に臨んでいただき、産後もしっかりとサポートする体制づくりは以前から進めてきました。今回の移転で、産婦人科とNICU、GCUを同一フロアに配置し、よりスムーズな動線を実現。小さく生まれた赤ちゃんにも、産婦人科から新生児内科、小児科まで成長とともに一貫した医療を提供しますから、自信を持ってこの地域でお子さんを生み育ててもらえたらうれしいです。新型コロナウイルス感染症に罹患した妊婦さんも多く受け入れましたが、充実した環境が不安を抱える妊婦さんの安心につながり、落ち着いてお産に臨んでいただける一助となったのではないかと自負しています。
周術期についてはいかがですか?
手術室と集中治療室(ICU)を拡充し、術前・術中・術後のすべてのプロセスにおいて、これまで以上に機能的、かつ安全に患者さんの状態を管理できるようになりました。手術室はロボット支援手術にも十分に対応できるようスペースを広げており、すでに導入している泌尿器科、消化器外科をはじめ、今後は呼吸器外科や心臓血管外科などの胸部外科分野や小児外科、婦人科などにも活用範囲を広げていく予定です。将来的に医療の中心を担うであろう先進技術や、患者さんの負担軽減につながる高度医療は積極的に推進していきたいですね。透析室や、外来で行う抗がん剤治療のための外来化学療法室なども一新し、患者さんのプライバシーを守りながらリラックスして治療に臨んでいただけるよう努めています。
最後に今後の展望をお聞かせください。
どんなに建物が新しくなっても、どれだけ良い機器を入れても、そこで働く人の質が低ければ患者さんを幸せにする医療は提供できません。患者さんの病気を治す上で医師の力はもちろん重要ですが、コメディカルやご家族の力はとても大きいものです。スタッフがうつむいて働く病院より、明るく声をかけてくれる病院のほうが、患者さんもそのご家族も生きる力が湧いてくるでしょう。みんなの良い見本になれるように、できるだけ院内を歩いて患者さんやスタッフに話しかけ、先頭を切って楽しく働く姿を見せることを心がけています。優れた設備と、ホスピタリティーに満ちたスタッフで、どんなときも人に優しい医療を継続していきたいですね。
谷合 信彦 院長
1988年日本医科大学卒業。2018年より日本医科大学武蔵小杉病院消化器外科部長、2019年より日本医科大学武蔵小杉病院副院長。2020年4月、同院院長に就任。専門は肝胆膵外科、門脈圧亢進症、肝臓移植。