公益財団法人 日産厚生会 玉川病院
(東京都 世田谷区)
和田 義明 病院長
最終更新日:2025/02/10


急性期から回復期まで専門性の高い医療を
1953年の開設以来、高台の閑静な住宅地から二子玉川の街を見守り、地域の人々の健康を支えてきた「玉川病院」。公益財団法人日産厚生会の医療機関の一つとして、社会に多大なる貢献を行う公的使命を担う同院は、理念である「医の実践と研究」のもと、疾病の予防・治癒につなげるための研究を進めるとともに、地域密着の病院として地域から必要とされる医療の提供に努めている。急性期における専門的な治療から回復期リハビリテーションまで必要な医療をワンストップで行い、急性期から慢性期へ移行する過程での転院の負担を軽減。東京都指定二次救急医療機関として積極的に救急患者を受け入れるとともに、がん医療のほか、気胸やヘルニア、股関節の高度かつ専門的な治療を展開する。2023年10月には先端のロボット手術を開始。形成外科も常勤の医師による体制となった。時代の変化と地域のニーズに合わせて進化を続ける同院の近況について、和田義明病院長に聞いた。(取材日2024年6月28日)
この1年で変化のあった診療科はありますか?

泌尿器科では、2023年10月に手術支援ロボットを導入し、前立腺がんのロボット手術を開始しました。これまでの腹腔鏡手術とともに当院での低侵襲の手術の幅が広がり、大学病院で長くロボット手術に従事していた石坂和博先生を中心に、大規模病院と遜色ない治療で地域完結のがん治療をめざしていきたいです。より多くの方にロボット手術を実施できるよう、手術室を密に稼働し、男性用の病室を増やすなど体制を整えるとともに、前立腺肥大症や腎臓がんなどに対するロボット手術の提供も行っていきます。ロボット手術以外の変化としては、形成外科で、今回三鍋俊春先生が常勤勤務となり、顔面の外傷やケロイドの専門的な治療などにも対応していきます。
診療体制に変化はありましたか?

急性期病院はより急性期に特化することが求められている中で、当院では、地域包括ケア病床を一般病床に転換しました。また、長く脳卒中のリハビリに取り組んできたことや整形外科の術後の患者さんも多く診てきたことから、急性期のリハビリも一層注力していきたいと考えています。最近は、術前からリハビリを開始し体力を落とさず手術をすることで早期回復につなげる取り組みも見られますが、当院でも患者さんの ADL (日常生活動作)をできるだけ落とさず、早期に地域に帰っていけることをめざしています。また、心不全の患者さんに対する心臓リハビリなども立ち上げつつあるところです。当院は2024年4月より紹介受診重点医療機関になりました。今まで以上に地域のかかりつけ医との連携を深め、地域の期待に応えるために、各診療科が専門性を高めるとともに質の高い一般診療をバランス良く行っていきたいです。
力を入れている医療について教えてください。

1つ目は、地域での急性期疾患患者の受け入れです。昨年度の受入数は4320台で、現在も毎日多くの患者を受け入れています。新型コロナウイルスも引き続き入院病床を確保しています。2つ目は、整形外科で導入したロボティックアーム支援手術です。人工股関節置換術を中心に人工膝関節置換術にも使用しており、若手の医師たちが非常に頑張ってくれている分野です。3つ目は、高齢化に伴い急増している慢性心不全に対するチーム医療の強化です。地域の多職種との連携を強化し、包括的なケアを提供できる体制を構築しています。4つ目は手術支援ロボットの導入です。前立腺疾患や鼠蹊ヘルニアなどへの確実で低侵襲な手術を可能としました。5つ目は、医師の判断を待たずにより広範な対応を行うことができる看護師を育成するためのセミナーの実施です。知識のある看護師を増やし、タイムリーで質の高いチーム医療の実現に貢献していきたいと考えています。
特徴の1つである先進的な医療についてもお聞かせください。

鼠径ヘルニアや気胸、股関節疾患、透析、リハビリなどの分野で以前から先進的な医療に取り組んでいます。鼠径ヘルニアは太ももの付け根が膨らみ痛みや違和感が出る病気ですが、CTによる精密な診断のもと、可能であれば積極的に低侵襲の腹腔鏡下手術を実施。気胸は肺に穴が開く病気で、各病態に応じた治療を長年主導してきた経験から、遺伝的な気胸や難治性気胸といった例では、大学病院からの転院も珍しくありません。股関節の病気は、歩く時の痛みによるQOLの低下が一番の問題点。変形性股関節症や関節リウマチなどにはロボット技術を用いた人工関節置換術などで改善を図っています。透析については、慢性腎臓病の重症化予防のための栄養指導などから進行した方の腹膜透析まで総合的に提供しています。リハビリ部門では上肢へのロボットリハビリの応用や、東京都からの委託事業として高次脳機能障害の地域の中核として相談業務などを行っています。
今後の展望を含めて、読者へのメッセージをお願いします。

日本の人口減少と少子高齢化による「2040年問題」も含め、これからの10年で世の中は大きく変化すると思われます。若者が減り出産が減っているように、少子化の波は病院にも影響を及ぼしています。患者さんが少なくなっていく中で、私たちはいかにニーズに合ったものを提供していくかということを常に考えていかなくてはなりません。さまざまな病気が治療できる時代になり、これからは増えていく病気と減っていく病気が出てくるでしょう。例えば骨折は増え、急性の心臓の病気は減っていく傾向にあるといわれていますが、それに合わせて医療体制もどうすれば効率的かを考えて改変していく必要があります。今回、手術支援ロボットを導入したのも、高齢化に伴い泌尿器疾患がますます増えるだろうということを見越してのことでした。時代の流れに取り残されることのないよう環境を整えながら、新しいこともどんどん取り入れていきたいです。

和田 義明 病院長
1981年東京医科歯科大学卒業。同大学医学部附属病院神経内科外来医長、病棟医長、病院掛主任、米国ユタ大学医学部神経内科留学などを経て、1998年より玉川病院リハビリテーション科部長。同院副院長を経て2017年より現職。日本リハビリテーション医学会リハビリテーション科専門医、日本神経学会神経内科専門医、日本内科学会総合内科専門医。東京医科歯科大学臨床教授。医学博士。日本病院会理事、東京都支部長。