早期の治療開始が命と生活を守る鍵
全身性エリテマトーデスの治療
地方独立行政法人 桑名市総合医療センター
(三重県 桑名市)
最終更新日:2025/07/02


- 保険診療
自己免疫の異常によって全身にさまざまな症状を起こす膠原病。その一種である全身性エリテマトーデスは若い女性に多く、発熱、皮疹、関節痛などの症状のほか、腎臓や肺などに臓器障害が起こり得る。生命予後に大きく関わる可能性もあるが、早期に診断し治療を開始することで、寿命の延伸や生活への影響を最小限に抑えることが望めるという。地域の基幹病院である「桑名市総合医療センター」の膠原病リウマチ部門では、軽症から重症まで幅広い膠原病の患者を受け入れ、病気とともに生きる患者をサポートする。患者が全身性エリテマトーデスなどの膠原病を理由に何かを諦めることなく、疾患と社会生活の両立をめざした治療を行う同部門部長の小寺仁先生に、全身性エリテマトーデスについて詳しく聞いた。(取材日2025年5月29日)
目次
全身症状や臓器障害が起こる全身性エリテマトーデス。早期治療と適切な薬の選択で生活への影響を最小限に
- Q全身性エリテマトーデスとはどんな病気ですか?
- A
「微熱、関節痛など多様な症状が起こる病気」だと話す小寺先生
全身性エリテマトーデスは膠原病の一種で、比較的若い女性に起こりやすい免疫の異常に伴う病気です。日差しが強くなる時期に増悪しやすいことから、紫外線による皮膚の細胞のダメージに対して自分の免疫の過剰な反応が関与するといわれています。疾患に関連する遺伝子の検索は行われていますが、どのような人に起こりやすいか、何をしたらかかりやすいか、といった具体的なことは今のところわかっていません。ただ発症する人には、「幼少期から原因不明の微熱があった」、「関節痛やリンパ節が腫れることを繰り返す」、「健康診断で血小板や白血球が少ないと指摘されたことがある」、などのエピソードがあることが多い傾向にあります。
- Qどのような症状が出るのでしょうか。
- A
全身の臓器に対応する検査機器や専門診療科がそろう
発熱や関節痛、皮疹といった一般的な症状から、腎炎、肺に水がたまるなど全身の臓器に多様な症状が出ます。比較的多いのは蝶形紅斑(こうはん)と呼ばれる鼻から両頬に広がる紅斑で、突然現れ、なかなか消えないことが多いです。内臓の症状は、肺であれば、大きく息を吸った時のズキンとする胸の痛みや、動いている時に息苦しさを感じます。腎炎は残念ながらほぼ無症状であるため、知らない間にタンパク尿が出て、悪化するとネフローゼ症候群を引き起こし、足のむくみなどが起こります。これらの症状があり、一般的な治療をしても改善されないときは、全身性エリテマトーデスをはじめ膠原病の可能性を考え、専門の医療機関の受診をお勧めします。
- Q発症すると寿命に影響する病気なのですか?
- A
最近は生命予後が良くなったというデータもありますが、この病気はやはり一般的な寿命との差が懸念されます。ただし、これは、病気による臓器障害よりもむしろステロイドなどの治療薬の副作用の影響が強いことがわかっています。今、治療は画期的に変わってきており、病気の根本に近い部分に作用する薬も数多くあります。それらをうまく使い分け、病気の勢いを抑え、薬による臓器障害を減らすことができれば、良い未来を迎えることは十分に可能です。近年では、最善の治療を行うことで、生命寿命を維持することだけではなく、日常生活が制限されることなく生活できる「健康寿命」の維持と継続をすることが期待できます。
- Q検査や治療法について教えてください。
- A
診断では、病歴と身体所見をもとに疾患特異的な自己抗体を確認します。治療では、ガイドラインに基づき臓器障害の種類や程度に合った薬を選択します。最初は炎症を取るための薬を使うことが多く、免疫抑制剤を加えて病気の影響の抑制を図ります。最近は、注射の薬剤である抗体製剤の使用も可能となりました。注射と聞くと不安になるかもしれませんが、飲み薬よりもむしろ負担の少ないものがほとんどです。これらの薬剤を使い分けることで、副作用が多い薬剤を減らしていくことが望めます。ステロイド薬などを漫然と継続することは避け、症状や検査結果を確認しながら、都度必要な薬剤を使うことで、薬による副作用をできる限り減らします。
- Qこの病院での治療の特徴を教えてください。
- A
5人の常勤医が、全身性エリテマトーデスをはじめ膠原病に対応
当院の膠原病リウマチ部門では5人の常勤医が、全身性エリテマトーデスをはじめ膠原病に広く対応しています。急性期の重症から慢性期の維持治療まで全般的に扱い、標準治療を基本に、必要な場合は新しい薬や治験も積極的に取り入れます。また地域の基幹病院として、緊急の受け入れや入院管理も可能です。他院で治療を受けている人が急変した、などさまざまな患者さんに対して、院内の他の診療科と連携し速やかに検査をして適切な治療を開始できることは、当部門の特徴の一つです。何が起こるかわからない、かつ長期的な管理が必要な膠原病疾患の治療に適した環境が整っており、通院しやすいお住まいの地域で、治療と社会生活の両立が可能です。