地方独立行政法人 桑名市総合医療センター
(三重県 桑名市)
竹田 寬 理事長
最終更新日:2024/05/13
3病院の統合により400床の大規模病院に
桑員地区に不足している医療を実現すべく、桑名市民病院と平田循環器病院、山本総合病院が統合して開設された「桑名市総合医療センター」。2018年には新病棟が設立され、現在は地域の急性期医療を担う、400床を有する大規模病院へと発展した。統合の計画が持ち上がった頃から同院の歩みを間近で見てきた竹田寬(たけだ・かん)理事長は「最初は設備も人も不十分で苦労しました」と当時を振り返る。同院の発展の背景には、竹田理事長がかつて病院長を務めた三重大学医学部附属病院や医師会など、地域の各機関からの多大なる支援があったそうだ。その時に生まれたつながりは今もなお強く、より専門性が高く幅広い医療サービスの提供につながっている。そこで同院がいかにして前進してきたのか、また新たにどのような課題を抱え、解決に向けて取り組んでいるのかを竹田理事長に聞いた。(取材日2024年3月13日)
こちらの病院の成り立ちを伺います。
当院は公立の桑名市民病院、民間の平田循環器病院と山本総合病院の計3病院の統合によって誕生した急性期病院です。桑名市とその周辺市町からなる桑員地区には、以前は大きな病院がほとんどなく、がん治療をはじめとする専門性の高い医療は名古屋市や四日市市の医療機関に頼らざるを得ませんでした。患者さんは近隣で治療を受けたくても受けられず、遠方まで通院しなければならない。さらに小・中規模病院には設備も人材も不足しており、十分な医療を提供できないという状況がありました。そこで桑名市の医師会や市議会など地域全体が関与する3病院の再編・統合計画が持ち上がり、長い年月をかけて2012年に実現し、診療がスタートしました。私はその頃に三重大学医学部附属病院の病院長を務めておりましたが、病院の統合に携わっていた一員だったこともあり、三重大学を途中離職して当院の理事長に就任した次第です。
理事長に就任してからの取り組みについて教えてください。
統合後は3病院の職員の業務効率化を図るべく、すぐに新病棟の建設に乗り出しました。しかし結果的に建設は2年遅れになってしまい、古い建物で働くしかなかった当時の職員はさぞかし大変だったと思います。それでも新病棟ができた2018年以降は、放射線治療設備に加えて手術支援ロボットや先進のMRIを導入し、対応できる医療の幅が広がりました。ロボット支援下による手術は泌尿器科や婦人科、呼吸器外科など多分野で使用しており、大学との連携下で遠隔治療も実施可能です。また、診療にあたっては三重大学からのバックアップも大きく、各診療科から優秀な若手医師・看護師に助けに来ていただいています。大学と共同で医療のDX化にも取り組んでおり、患者さんがスマートフォンで自身の診療情報を確認できるアプリや、クレジットカードでの自動引き落としにより来院時の会計を不要にするシステムの開発に成功しています。
順調に成長している同院ですが、現在の課題はありますか?
すべての医療機関に今後求められるのは、急性期病院と、急性期以降の患者さんの診療を担う回復期後方支援病院とのより緊密な連携であると考えています。急性期病院には1台でも多くの救急車を受け入れ、迅速に治療し、患者さんの容体が落ち着いたら回復期の病院へ移送するという使命があります。その一連の流れをスムーズに行えず、次の患者さんを受け入れられない事態に陥らないよう、当院も市内の医療機関に働きかけているところです。お互いに役割分担を意識しながら、いかに連携力の強い病院に成長させていくかが喫緊の課題ですね。私たちがめざしているのは、漠然とした医療連携ではありません。病院間で病床を共有したり、医師・看護師が柔軟に行き来できる体制を整えたりと、現状より一歩踏み込む必要があるでしょう。一人でも多くの患者さんを救うために、当院がモデルとなって本当の意味での地域連携を推進していきたいと思います。
一方で、職員の働きやすさも大切にしているそうですね。
三重大学医学部附属病院に引き続き、長年病院を運営してきた中で感じたのは、職員が楽しく働ける環境もつくらなくてはならないということです。職員のモチベーションの低下は、接遇や診療の質の低下にもつながります。そのため医師や看護師、事務職員も含め、全員の働き方改革に取り組んできました。まずは疲弊による退職者を減らすため、できるだけ休みを取得できる環境を整備。4月に新規入職した若い看護職員に対しては、12月まで夜勤を担当させず、自信を持って仕事ができるようじっくりトレーニングする方針を取っています。その結果、職員の定着率に変化が見られ、特に看護師の近年の離職率は6%以下となっています。最近は外部委託であった院内保育園を病院直営としたり、常勤職員は給与アップ、非常勤職員は時間給アップを実現しました。このように待遇面から見直すことが職員の定着、そしてより良い医療のために不可欠だと考えています。
読者へのメッセージをお願いします。
当院に来て間もない頃は、患者さんから「桑名で治療を受けられたらこんなにうれしいことはない」というお声を多くいただきました。今ではがん診療や心疾患の治療を含めた二次医療まで対応できる病院へと発展しましたので、市民の皆さまには喜んでいただけたのではないでしょうか。また当院は桑員地区ならではのフットワークを生かし、地域活動にも積極的に参加しています。近年は卓球を通じてご高齢の方の健康増進を促すイベントを開催し、2024年には外来棟に自動伴走追従機能がついたグランドピアノを導入しました。こちらは手足が不自由な方もピアノを弾けるように開発されたものですが、心身に障害がある方だけでなく、認知症の方のリハビリやコミュニティーの活性化にも活用していきたいと考えています。今後も各方面と良好な関係を維持し、医療圏全体で市民の健康を守りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
竹田 寬 理事長
1975年三重県立大学(現・三重大学)医学部卒業。慶應義塾大学医学部放射線診断部にて研修を受けた後、三重県立大学医学部放射線科助手を務める。アメリカ留学から帰国後は三重大学医学部放射線科教授、三重大学医学部附属病院病院長を歴任。2013年より現職。専門は放射線医学と核医学。