学校法人大阪医科薬科大学 大阪医科薬科大学病院
(大阪府 高槻市)
勝間田 敬弘 病院長
最終更新日:2025/10/29


効率化だけでない近未来型の病院をめざして
前身の大阪医科大学の創立から間もなく100周年を迎える「大阪医科薬科大学病院」。高度で安全な医療の提供、新しい医療の創造、次代を担う人材の育成を使命に同病院はさまざまな取り組みを行ってきた。「スーパースマートホスピタル」をコンセプトとした病院全体の再編成もその一つ。2022年に完成した本館A棟には救命救急センターを含む中央診療部門が設けられ、開設から多くの患者を受け入れてきた。標準のがん治療だけでなく、がんゲノム診療など先進的ながん診療を提供するがん医療総合センター。一部の病棟にはリハビリテーション室も配置。2025年7月には外来と7つの病棟および周産期部門を擁するB棟が稼働。「ついに病院本館がグランドオープンいたしました」と満面の笑みを浮かべる勝間田敬弘病院長は、病院内のDXなど近未来型病院の構築に注力しているものの、その根底にあるのは「温かい病院」だと話す。それは1階から全病棟に至るまで木材を基調とした内装、森や鳥など自然環境をテーマにしたアートからも感じられる。同病院がめざす「スーパースマートホスピタル」と「温かい病院」の両立とは?詳しく話を聞いた。(取材日2025年9月17日)
病院の大規模な整備に至った背景からお聞かせいただけますか?

これまでも、より高度かつ先進的な医療をお届けできるようハードとソフトのさまざまな整備をしてまいりましたが、創立100周年の記念事業の一環として、さらなる改革をすべく、まず2022年に本館A棟を開設しました。ここには地域の三次救急医療機関として救命救急センターを含む中央診療部門が設けられ、「断らない救急」をモットーに多くの患者さんを受け入れてきました。その実現には、2016年に新しい設備を導入した中央手術棟の存在があります。緊急手術、あるいは緊急的な治療に応需する体制が整い、先進の診断機器、集中治療室などを設けていることも当病院の救急医療を支える大きな特徴だと言えるでしょう。中央手術棟は全20室の手術室を備え、そのうち2室はロボット手術室、2室はハイブリッド手術室。先進的な治療だけでなく、治療機器の開発にも取り組んでいます。
本館A棟にはがん医療総合センターも配置されていますね。

ええ、本館A棟は12階建てで、先ほどの救命救急センターやがん医療総合センターがあります。今はがん遺伝子パネル検査を実践して、個々の患者さんに合ったがん治療を選択する時代です。当病院は、そのような医療への取り組みを積極的に行うがんゲノム医療連携病院に指定されています。また、抗がん剤の調剤ロボットが導入されている他、患者さんとご家族の生活の質(QOL)を維持するために、身体的な苦痛、精神的な苦痛、経済的な負担、自宅でのケア方法などの相談を一手に引き受けるがん相談支援センターも設置しています。A棟内の脳神経外科と循環器内科の病棟には、リハビリテーション室が設置されていることも特筆すべき点。理学療法士が早期から入院患者さんのリハビリにあたるほか、病院全体で休日のリハビリに注力し、途絶えることのないリハビリテーション環境を整えています。
では、完成したB棟の特徴についても教えてください。

B棟の大きな特徴は、ユニット制の外来です。これまでは各診療科に分けて外来診療を行っていましたが、臓器別、あるいは疾患別でユニットを立ち上げています。臓器別で言うと、消化器外科と消化器内科が同じ窓口というように、同じユニット内で診療を実施。患者さんは内科でも外科でも、その臓器別のユニットに行けば、あちこち行かずとも診療が完結するというわけです。その結果、診療の効率化とより綿密な診療が可能となりました。そして患者サポートエリアの開設。これまでは入院するとなると、手続きやガイダンスなどで患者さんに各窓口まで足を運んでいただき手続きしてもらう流れでした。それがワンストップで可能に。各スタッフが用途に応じて患者さんのもとに訪れますので、患者さんは動く必要がありません。この患者サポートエリアはそれ以外にも転院、かかりつけ医の紹介、薬剤師による服薬に関する指導やチェックなど、さまざまな役割を担います。
自立移動警備ロボットも導入されたと伺いました。

はい。ロボットが巡回し、セキュリティーチェックを実施しています。人員不足を補ってくれる心強い存在です。新しい試みでいうと、美術館とのコラボレーションもしかり。1階に設置された巨大なデジタルサイネージで、美術館の絵画をご観賞いただけます。また、受診システムに関しては、まずAI電話の導入。際限なく回線がありますので、電話をしてもつながらないという患者さんのストレスを払拭することができました。次に予約システム。来院後、受付機に診察券を通すとタグが出てきてその日に受診する診療科、受ける検査などがすべて印字されています。二次元コードを読み込めば診察までの待ち人数がわかるため、待合の混雑回避と、待ち時間を有効に使っていただくことが可能になりました。また、スマートフォンをお持ちの方はアプリケーションの利用で診察券が不要に。スマートフォンを受付機にかざせば受付でき、次回の予約もアプリでご確認いただけます。
最後に、2つのテーマを軸とした今後の展望をお聞かせください。

当病院は2020年から「スーパースマートホスピタル」をめざして、ハードとソフトのさまざまな整備をしてきました。また、新型コロナウイルス感染症の時代を経て、もう一度医療者間の距離、患者さんと医療者の距離を縮めたいと思い「温かい病院」をテーマに据えました。当病院がめざす「スーパースマートホスピタル」で、かつ「温かい病院」は、一見、両立しないように感じられるかもしれませんが、DXを進め業務効率化できれば、その分スタッフの心と時間に余裕が生まれます。その時間を惜しみなく患者さんへ寄り添うことに使うことが「温かい病院」につながると考えます。医療の質は医療者の質。検体の取り違えを防ぐ検体情報統括管理システム、タブレット端末を用いた医療者間の通信システムなどのDXで利便性・安全性向上をめざし、患者さんに寄り添える温かい病院でありたい。そんな利便性や安全性だけでない、近未来型病院を思い描いています。

勝間田 敬弘 病院長
1988年金沢大学医学部卒業。東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所の循環器小児科、同研究所循環器外科、英国ジョン・ラドクリフ病院心臓外科留学を経て、京都桂病院心臓血管センター外科部長、大阪医科大学外科講座胸部外科学教室教授、大阪医科大学附属病院(現・大阪医科薬科大学病院)副院長などを歴任。2024年より現職。「スーパースマートホスピタル」と「温かい病院」の両立をめざし、さまざまな取り組みを行う。





