医療法人裕徳会 よこはま港南台地域包括ケア病院
(神奈川県 横浜市港南区)
神谷 周良 院長
最終更新日:2022/08/30
地域に密着し自宅に帰るための医療を提供
JR港南台駅近くに「よこはま港南台地域包括ケア病院」を開設した神谷周良(くによし)院長。同グループである港南台病院の院長を務めていたが、高齢者医療のニーズに応えるためには、地域包括ケアに特化した病院が必要と、新しい病院を構想したという。リラックスできる雰囲気づくりや、安全性や効率性を重視した造作や動線にこだわり、患者に快適で、職員にとっても働きやすい環境を整えた。新型コロナウイルス感染症流行下での開院であることも踏まえ、感染症の隔離動線も確保して、市や県の要請を受けて新型コロナウイルス感染症の患者も受け入れ、地域医療に貢献している。もともと呼吸器科やアレルギー科を専門とし、救命救急医療の経験を持つ神谷院長。同院では「どんな症状でも診療し、適切な医療につなげたい」と急性期から回復期、さらに終末期ケアや看取りまで対応する。地域包括ケア機能を駆使しながら、急性期病院と在宅医療の橋渡し役を果たして地域医療を支えたいと語る神谷院長に、同院の特徴やめざす医療について聞いた。(取材日2022年8月8日)
病院を開設した経緯や主な特徴を教えてください。
私は、父が開設し院長を務めていた「港南台病院」の運営を院長として引き継ぎました。法人全体として地域の医療ニーズへの対応を考える中で、まず地域包括ケアの機能を持った、新しい病院が必要という結論に至り、7年以上の構想を経て実現したのが当院です。基本的なコンセプトは、サブアキュート(亜急性期医療)のすべての疾患に対応すること。具体的には、脳血管疾患やリウマチ・膠原病、消化器疾患、呼吸器疾患、整形外科手術などの急性期治療を乗り越えた方、がん患者さんなどを受け入れています。また在宅や施設で療養されている方の急変、肺炎、軽い脳卒中や心筋梗塞、肺気腫の急性増悪、喘息、床ずれ、軽い骨折など軽度中等症の急性疾患にも対応します。退院して自宅へ帰っていただくことをめざし、リハビリテーションの充実に重点を置いているのも特徴で、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士が在籍して濃密なリハビリテーションを行っています。
地域包括ケア病院としてどのような役割を果たしていますか。
例えば、在宅の患者さんが急変した時に、まずは当院で受け入れて治療を行い、必要に応じて高度救命センターや2次救急の病院につなぐことで、地域の救命医療が潤滑に機能します。高齢者に多い循環器や呼吸器、転倒骨折、がん、脳梗塞などの疾患に対し、当院の総合診療で対応します。また急性期病院での手術などの治療後、すぐには自宅に帰れない患者さんには、当院で薬のコントロール、濃密なリハビリテーションを受けていただいてから、近隣の訪問診療の先生に引き継ぎます。当院が地域包括ケアの機能を果たすことで、地域の医療資源を有効に活用することができるわけです。当院でも在宅医療を手がけていますので、他の医療機関や介護サービス事業所などと連携しながら訪問診療も可能です。さらに、在宅で介護に携わるご家族の負担を軽減するためのレスパイト入院(一時的入院措置)にも積極的に対応して、在宅医療を支えるのも当院の役割だと考えています。
快適な病院とするために、動線や構造にもこだわったそうですね。
この病院の構想を持ち始めた時から、患者さんにとって快適な入院環境はもちろん、職員にとっても快適に働ける環境をめざして、院内の構造や導線にこだわって考えてきました。例えば、廊下の幅は広く、デイルームやリハビリ室も広いスペースを確保して、患者さんが安全に、そして職員が効率よく動けるように工夫しています。ドアの幅や検査時の動線にも配慮しているんですよ。コロナ禍の開院でしたから、感染症対策も重視して感染症の隔離動線もしっかり確保しました。また、大浴場やサウナも設けて、患者さんやご家族に利用していただいています。入院生活にはストレスがかかりますから、時にはのんびりと心を休めていただきたいと考えたのです。また、緩和ケアを受けるがん患者さんをはじめ、さまざまな疾患の患者さんの看取りを行うことも当院の大きな役割ですから、ご家族と一緒に入浴して思い出になるひとときを過ごしていただけたらと思っています。
こちらの病院の診療方針について聞かせてください。
大切にしているのは、すべての患者さんを自分の家族と思って親身に対応するということですね。認知症の患者さんも多くなってきましたが、当院では「拘束ゼロ」を実現しています。自分の家族だと考えて、目の前の症状だけでなく、その方の背景や退院後の生活環境への配慮も忘れないでほしいと職員に伝えています。またどんな症状でも、困っている患者さんやご家族に真摯に対応すること、臓器別ではなく患者さんを全人的に診ることが基本と考えています。地域包括ケア病院ですから、治療をすれば終わりではなく、その方の生活や人生までを考えた医療や看護、介護を提供することが必要です。ですから病棟の看護師も、進んで担当していた患者さんの訪問診療に同行するんですよ。そして地域医療全体を考えて在宅医療を支えていくために、レスパイト入院などにより、患者さんとご家族ができるだけ長く穏やかに日常生活を続けられるようお手伝いしたいと考えています。
今後の展望をお願いします。
開院以来、神奈川県内をはじめ東京方面からも多くの患者さんを受け入れ、また当院のような病院を作りたいと各地から医療関係者が見学に来られるなど、地域包括ケア病院は今の時代に必要な病院だと感じています。全国のフラッグシップモデルとなるよう、病院としてさらにブラッシュアップしていきたいと思っています。早くコロナ禍が落ち着いて、当院の機能をフルに活用できるようになりたいですし、コロナ禍で遅れている港南台病院の建て替え計画も進め、当院との連携体制をより向上させて地域に貢献したいと考えています。また市民の皆さんに医療や介護の現状を理解していただいて、限りある医療資源をできるだけ活用できるように、地域ケアプラザでのセミナーなど地域への情報発信や啓発にも力を入れていきたいですね。そして、地域の皆さんには、医療や介護で何か困ったことがあったら、なんでも気軽にご相談していただきたいと願っています。
神谷 周良 院長
「港南台病院」を開設した父の背中を見て育つ。2003年獨協医科大学医学部卒業後、同大学呼吸器アレルギー内科に入局。沖縄県立北部病院のER、ICU で救命救急に従事。大学病院などで診療に携わった後、2014年に「港南台病院」に入職。同院院長を経て、2021年5月より現職。専門は呼吸器科、総合診療科など。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医。