医療法人裕徳会 よこはま港南台地域包括ケア病院
(神奈川県 横浜市港南区)
神谷 周良 院長
最終更新日:2025/10/08


自宅に戻れるための医療を
港南台駅近くの「よこはま港南台地域包括ケア病院」は、「港南台病院」のグループ病院として2021年に開設された。地域で高まり続ける高齢者医療のニーズに応えるため、「ときどき入院、ほぼ在宅」を掲げ、地域包括ケアに特化した病院として機能している。「サブアキュート(亜急性期)のすべての疾患に対応することを基本とし、急性期医療と在宅医療の橋渡し役として地域に貢献したい」と、神谷周良(かみや・くによし)院長。リラックスできる雰囲気づくりや、安全性・効率性を重視した院内構造、動線にこだわり、患者にとっても、働く職員にとっても快適な病院をめざしたという。地域包括ケア病院という先進的なかたちを取り、地域医療資源を有効活用しながら患者の在宅療養を支える同院の現状について、詳しく話を聞いた。(取材日2025年9月1日)
地域包括ケア専門病院という、少し珍しい形態の病院ですね。

地域包括ケア病棟を設ける病院は増えていますが、地域包括ケアに特化した病院はいまだ珍しい存在のようです。しかし、高齢化が進む地域の医療ニーズを考えると、急性期治療後の患者さんや在宅療養中に急変した患者さんに対応し、自宅や施設といった「生活の場」に帰るまでをしっかりと支える当院のような病院は、今後さらに必要性が高まるものだと考えています。開設5年目を迎え、当院のこうした役割が、徐々に地域に浸透してきたと感じます。これまで、地域ケアプラザやクリニック、訪問看護ステーションなどに働きかけて周知を広げ、地域で完結できる医療の歯車の一つとしてつながりを強くしてきた成果です。一つのモデルケースとして当院のノウハウをご紹介したり、施設見学を受け入れたりする機会も少なくありません。今後も、「ときどき入院、ほぼ在宅」をコンセプトに、高度医療と在宅医療の橋渡しとしての役割を果たしていきたいと考えています。
具体的にどのような役割を果たしているのでしょうか。

外来受診者や在宅療養中の患者さんの急変に対応するサブアキュート機能と、急性期治療を終えたもののさらなる入院加療が必要な患者さんを受け入れるポストアキュート機能を軸に、レスパイト入院(一時入院措置)や訪問診療、看取りに至るまでの多様な役割を果たしています。特に高齢者に多い循環器・呼吸器疾患、がん、脳梗塞、転倒骨折などの幅広い疾患に、当院の総合診療部門で対応しており、必要に応じて高度救命救急センターや二次救急医療機関につなぎます。また、すぐに自宅に帰れる状態にない患者さんには、薬のコントロールやリハビリテーションを提供した後、回復を待ってお住まいに近い訪問診療の先生に引き継ぎます。一部在宅医療も手がけており、ほかの医療機関や介護サービス事業所などと連携しながら訪問診療に移行することも可能です。さらに、ご家族や介護者の負担軽減も大切ですから、レスパイト入院にも積極的に対応しています。
在宅復帰をめざすリハビリに注力しているとか。

脳梗塞のプロトコルに則ったリハビリをはじめ、在宅復帰を視野に入れたADL(日常生活動作)獲得めざす段階的な介入、摂食・嚥下訓練など、多岐にわたるリハビリを提供しています。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士といった専門職が、個々の必要性に合わせた内容を考え、実践をサポートします。身体機能はもちろんのこと、精神活動をも賦活化させることをめざすのが当院のリハビリの特徴。そのために欠かせないのが、患者さんと医療者との間のラポール形成です。高齢患者さんにはリハビリに対して拒否感を持たれる方も少なくありませんが、お一人お一人のその方らしさを尊重するユマニチュードを大切にした対応であたっています。多職種が力を合わせて全力で取り組んでいます。
スタッフさんについても教えていただけますか?

当院が地域で役割を果たす上で、スタッフの存在は不可欠なもの。患者さんに心から向き合う温かい人材がそろっているのが自慢です。また、各自がやりがいと誇りを持って職務にあたれるような環境づくりにも力を入れています。当院の組織構造は、アメリカ型というよりインド型とでもいいますか、トップダウンより横のつながりを大切にしています。医局を設けず大部屋にすべてのスタッフが集まる構造としており、それによって互いに頼り頼られる関係をつくりやすいと考えています。スタッフには「ここで働いていて良かった」と思ってほしいという思いで運営しており、結婚、出産、育児、介護といったライフイベントも応援しています。実際にこうしたライフイベントによる休職を経て戻ってきてくれるケースも多く、それが一番うれしいですね。また、スタッフの家族の入院を受け入れることもあり、大切なご家族の入院先として当院が選ばれることは、本当に誇りです。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

2021年の開設から4年を経て周知も広がり、現在の組織と機能を守っていくステージに入ったと感じています。新しいことに挑戦するというよりは、今の機能を強化し、職員も患者さんも守り抜いた上で、次のフェーズにつなげていきたいですね。また、横浜市病院協会の常任理事と神奈川県病院協会の理事を拝命し、新たな視点から地域医療を見渡す機会をいただきました。地域医療の底上げのためにも、われわれの取り組みをオープンにすることの重要性を再確認したところです。市民の皆さんに理解してもらえれば、信頼はアップするはず。病院に長く入院することがはばかられる時代になり、「在宅医療ってどうすればいいの?」「施設にうまくなじめない」などとお困りの方も多くいらっしゃると思います。地域インフラの一部として何かアドバイスできることがあるかもしれませんので、お気軽にご相談いただければと思います。

神谷 周良 院長
港南台病院を開設した父の背中を見て育つ。2003年獨協医科大学医学部卒業後、同大学呼吸器アレルギー内科に入局。沖縄県立北部病院のER、ICUで救命救急に従事。大学病院などで診療に携わった後、2014年に港南台病院に入職。同院院長を経て、2021年5月より現職。専門は呼吸器科、総合診療科など。日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医。





