国立研究開発法人 国立がん研究センター中央病院
(東京都 中央区)
瀬戸 泰之 病院長
最終更新日:2024/08/07
がん医療とその研究をけん引する専門病院
国立がん研究センターの一角をなす存在として、1962年の開設から現在までがんの診療と研究をけん引する「国立がん研究センター 中央病院」。「社会と協働し、すべての国民に最適ながん医療を提供する」という理念のもと、治験、TR(トランスレーショナル・リサーチ)などを通じたより効果的で先進的な治療の開発に取り組み、あらゆるがんに対して質の高い医療の提供をめざしてきた。今なお有効な治療法が見つかっていない希少がん・難治性がんの症例を取りまとめ、アプローチ方法を開拓することも重要な使命の一つだ。「自院のみならず、日本全国どこにいても高いレベルのがん医療が受けられるよう、情報の共有による医療の均てん化にも尽力したい」と話す瀬戸泰之病院長に、同院の取り組みなどについて話を聞いた。(取材日2024年6月17日)
臨床のみならず開発や研究にも注力されていると聞きました。
そうですね。当院はがん診療・研究のリーディング・ホスピタルとして、質の高いがん医療の実施と研究・開発を両立してきました。その一つが、さまざまなテクノロジーを組み合わせた高度な低侵襲治療を即時的に行うとともに、新たな医療機器やアプリの早期開発へつなげる取り組みです。当院は高難度手術や侵襲性の高い手術を強みとしていますが、低侵襲治療を追求することも重要な使命に他なりません。可能な限り患者さんの体に負担をかけずに良い治療を届けることをめざして、継続的に取り組んでいきたいですね。加えて、アジア地域が世界のがん治療開発をリードすることをめざした「ATLASプロジェクト」も実施しています。これは、ASEAN諸国に向けた日本主導での国際共同試験ネットワークの構築、がんゲノム医療の本格導入の推進、子宮頸がんに関する治験、希少がんの治療開発などを行うものです。
特徴的な取り組みについてお聞かせください。
当院は、非常に多くの治験にも携わってきました。現在は、患者さんが医療機関に来院しなくても治験に参加できる分散型臨床試験(DCT)の導入を主導し、治験参加の地域間格差解消にも力を入れています。DCTは、デジタル技術を活用して遠隔地からでも治験を完遂できるようにする方法。患者さんの負担が減ると同時に登録スピードが迅速化され、治験の参加を拡大することができます。また、小児や、AYA世代のがん対策も代表的な取り組みの一つです。遺伝子パネル検査で適合する医薬品が見つかっても、小児がんの患者さんの治療に活用するにはさまざまな壁があります。ステークホルダーと連携してがんの子どもたちのための治療薬開発を行い、治療薬へのアクセス改善に取り組んでいます。併せて、他院では技術的に難しい手術など、当院で行うべき手術を明確化し、他の医療機関との役割分担を進めていくことも重要ですね。
希少がん・難治性がんの治療についてもお聞かせいただけますか。
がんゲノム医療による難治性がん・希少がんの治療は、まさに当院で行うべき治療であると考えます。希少がんの網羅的臨床ゲノムデータベースと複数の治験により、治療の機会が限られている希少がん患者さんにより多くの治験の選択肢を届ける産学連携の希少がんプラットフォーム試験「MASTER KEY プロジェクト」を実施しています。遺伝子パネル検査で治療薬に到達できる患者さんを増やすため、遺伝子プロファイリングに基づく複数の標的治療について、患者さんの申し出を起点として安全性や有効性を確認するための試験として実施する患者申出療養も推進しているんですよ。患者さんや一般の方向けのイベントも開催しています。
周囲の医療機関との連携にも力を入れておられますね。
高齢化が進むにつれ、糖尿病や心疾患、間質性肺炎などの合併症があるがん患者さんが増えています。当院はがんに特化した専門病院ですから、専門外の疾患については専門の医師がいる他院との連携が不可欠です。特に循環器内科、心臓血管外科、腎臓内科との連携は重要であるため、聖路加国際病院、東京慈恵会医科大学附属病院、東京都済生会中央病院との医療連携を強化してきました。各領域のプロフェッショナルと一緒に治療をすることで、より安全性に配慮したかたちでがん治療を進めることができています。ただ、医療連携には患者さんを紹介してくださる前方連携、在宅医療やホスピスに移行する際の後方連携、患者さんが住む地方の医療機関との連携など複数あり、近隣病院との連携はその一部にすぎません。さまざまなサポートが必要とされる今、患者サポートセンターを中心とした多職種連携で患者さんを支えてまいります。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
高齢化が進んでいますが、治験はだいたい75歳までであり、かつ高齢になるほど個人の持病なり体力なりの状況が異なることから、高齢者医療のエビデンスが共有・反映されにくい現状があります。これまでの取り組みにプラスして、高齢の患者さんの治療をより充実させるための医療DX活用を推進していきたいですね。また、プレシジョンメディシンにも注力し、遺伝子レベルでがんを解析し、そのがんに合った治療を行うがんゲノム医療も、これまで以上に精力的に実施していく予定です。がん治療薬開発をけん引し、「がんを克服し、安心してがんと生きる社会の実現」に向けた成果の最大化をめざしてまいります。
瀬戸 泰之 病院長
1984年東京大学医学部医学科卒業。同大医学部附属病院第一外科、国立がん研究センターを経て東京大学医学部附属病院消化管外科講師。癌研究会附属病院消化器外科医長、癌研究会有明病院上部消化管担当部長を務めた後、2008年から東京大学大学院医学系研究科消化管外科教授、2019年より同大医学部附属病院病院長。2024年より現職。