医療法人社団松弘会 トワーム小江戸病院
(埼玉県 川越市)
鈴木 貴勝 院長
最終更新日:2020/11/25
多数の疾患を持つ認知症患者を総合的に診療
現在、65歳以上の約7人に1人が罹患しており、2025年には5人に1人になるともいわれている認知症。川越市に立つ「トワーム小江戸病院」は、認知症を専門とする精神科病院だ。患者に威圧感を与えないように配慮された院の内外観はまるでホテルのよう。ロビーには、豪華な装飾の家具や毎年同院が主催する花火大会を撮った美しい写真が並び、訪れる人の緊張をほぐしてくれるようだ。同院の特徴は、精神科分野の治療だけでなく、内科やリハビリテーションも充実していること。認知症が進行し、治療に協力できないがゆえに一般病院では入院を断られがちな患者を広く受け入れており、糖尿病が悪化した認知症患者の治療なども行っている。予約制の外来と重度認知症デイケアも開設されている。同院の特色や診療にあたって大事にしていることを、鈴木貴勝院長に聞いた。
(取材日2019年8月20日)
病院の概要からお話しいただけますか。
当院は、さいたま市桜区にある急性期病院「三愛病院」を運営する医療法人社団松弘会が、2008年6月に開院した認知症専門の病院です。急性期病院ではカバーしきれない高齢者医療への前理事長の思いに、将来増えるだろう認知症患者の受け入れが結びついたことで誕生しました。一般の精神科病院や急性期病院との一番の違いは、内科的治療、精神的治療、リハビリテーションのすべてを提供し、一人の患者さんを総合的に診ていることです。認知症の患者さんはご高齢の方が多く、高血圧や糖尿病など別の疾患を持っている人が少なくありません。そんな認知症以外の疾患も含めて治療を行っています。MRIなど画像診断の充実には力を入れており、3.0テスラのMRIを認知症の診断・治療に活用しています。精神科の場合、いわゆる「病院」のような建物だとそれだけで診察拒否する人もいらっしゃるので、患者さんに威圧感を与えないようなデザインにしています。
治療はどんなふうに進むのでしょう?
入院治療を、と紹介されてくる患者さんの多くは、自宅や施設で暮らしていたけれど、認知症の進行で家族や周囲の負担が増え、そのまま暮らしていくのが難しくなってしまった方です。認知症の原因は一つではなく、水頭症や脳腫瘍などの場合は、外科的な方法で改善していくこともあります。ですのでまず検査をして原因を突き止め、どんな道筋で治療を行うのがいいのかを診ていくことから始まります。外科手術が有効であれば、三愛病院などに紹介して手術を。アルツハイマー型やレビー小体型など外科手術では治療できないタイプの場合は、薬物治療とリハビリテーションを行っていくのが基本です。リハビリテーションは、昔の歌を聞いたり歌ったり、ゲームをしたりといった精神科作業療法と歩行訓練といった身体的なリハビリを平行します。また、効果については確立されていませんが、音楽やドッグセラピーも取り入れています。
重度認知症デイケアも行われているそうですね。
はい。認知症が進み、騒いだり周囲への迷惑行為のようなものが出始めると、自宅で介護するご家族の負担は増えますし、介護保険のデイサービスを利用しようとしても断られてしまうこともあります。ご家族の介護負担の軽減のためにも、精神的症状があっても日中過ごせる場所が必要で、当院の重度認知症デイケアはそういった方の場所なんです。家にこもって誰とも話さないのでは、脳への刺激が少なく、認知症の進行予防・治療によくありません。外に出るなら着替えもしますし、女性ならお化粧したりもします。ほかの利用者さんとお話ししたり、作業をしたりというのも、脳の機能にとっては大事なことです。デイケアだけでなく、入院でも「認知症があり治療にご協力いただけない場合は診られません」という病院もありますが、当院では受け入れています。糖尿病が悪化した認知症の患者さんなども来られていますよ。
病院として、大事にしている価値観について教えてください。
三愛病院同様、根底にあるのは「患者さんへの愛と思いやりの心」「地域を愛する心」「医療に奉仕する心」の3つです。当院の名称である「トワーム」も、フランス語で3を意味する「トロワ」と愛を意味する「アモーレ」を組み合わせてつくった造語で、この3つの愛を表しています。これを土台に、患者さんに尊敬の念を持って働きかけることは常に大事にしており、折に触れて職員にも伝えているところです。これらに加え、私が院長になってからはバランスも重視するようになりました。患者さんにとって良いこと、大事なことが最優先なのは間違いないのですが、いくら患者さんのためにと思っても、ずっと無理をして働いていると疲弊して、結局いい仕事ができなくなってしまいます。職員の肉体的・精神的健康も大切ですから、メリハリをつけて、バランスよく働いてもらえるように心がけています。真ん中でバランスを取り続けるのは、一番難しいですけれどね(笑)。
最後に、今後の展望についても一言お願いします。
病院やクリニックに来られる方は医療につなげることができますが、そもそも病院へ行くのが難しいという方も少なくありません。これからは訪問診療など、こちらから出向いていくことも必要だと思います。認知症がかなり進行してから来院される患者さんが多いのですが、早い段階で見つけ、初期段階で適切な治療を行えば、進行を遅らせたりすることができるかもしれません。そんな認知症治療は医師だけではできず、在宅の患者さんの場合は特にですが、介護の方々と連携していくことが大事だと感じています。認知症の方はただでさえ混乱しやすいので、医療・介護が連携して、統一性をもった対応をしていくことも重要ですね。一方、院内医療に関しては、日々のケアや介護の仕方、接遇といった面に、もっと磨きをかけられるんじゃないか、かけていきたいと思っています。認知症でお困りなら、気になることがあれば、介護に限界を感じる前に一度ご相談ください。
鈴木 貴勝 院長
1994年昭和大学卒業。昭和大学病院精神科での勤務を経て、森林公園クリニック(現・森林公園メンタルクリニック)院長、埼玉森林病院診療部長などを歴任。2008年よりトワーム小江戸病院に勤務し、同院副院長を経て、2019年4月から院長を務める。患者に最善の医療を提供すること、職員の健康・精神的健康を守ることの両方を大切に、バランスの取れた病院運営に注力している。