医療法人弘仁会 南和病院
(奈良県 吉野郡大淀町)
和田 信弘 理事長
最終更新日:2024/12/18
南和医療圏を支えるケアミックス型病院
奈良県と和歌山県の境にある南和医療圏を支える「南和病院」は、高齢化が進む地域の人々を支えるケアミックス型病院。これまで慢性期医療を支える病院が不足していたこの地域において同院が果たす役割は大きく、急性期の治療を終えたもののすぐには自宅や施設に帰れない患者たちの受け皿として、特に医療必要度の高い患者を数多く受け入れている。「人工呼吸器を装着している方や難病を患っている方など、ほかの慢性期病院では受け入れが難しい方も安心して療養できる病院づくりを進めています」と話すのは、同院の理事長であり総院長でもある和田信弘先生。「心の通うぬくもりのある医療」をモットーに、自力での通院が難しくなった透析患者の受け入れや旅行中の臨時透析など、これまで地域の人々が諦めるしかなかったさまざまな医療の提供に力を注ぐ。同時に、病院祭りの開催など、地域に開かれた病院づくりにも余念がない。開院20周年の節目を通過点に、今後さらなる発展が期待される同院の特徴や今後の展望について、和田理事長に詳しく話を聞いた。(取材日2024年11月5日)
まずはこちらの病院の成り立ちについて聞かせてください。
当院があるこの南和医療圏は、ほかの医療圏に比べて面積が広いにもかかわらず人口が少ないのが特徴の地域です。開院した2002年当時、この地域には3つの病院があり、近隣である御所市を含め4つの病院がありました。しかし、そのすべては急性期の病院であり、慢性期の病院が不足していました。急速に高齢化、人口減少が進む地域において、地域の方々の医療ニーズを満たしているとは言い難い状態が続いていたため、急性期の治療を終えたもののすぐに自宅に帰れない患者さんたちは、受け皿を求めて地域の外に出るしかありませんでした。そこで、地域の医療ニーズを支えるべく、急性期病棟、長期療養病棟を備えたケアミックス型の病院として開院したのが当院になります。
病院の特色を教えていただけますか?
地域の皆さんには、当院は慢性期の病院といった印象が強いのではないかと思います。実際に長期療養目的の患者の中でも特に医療必要度の高い方々を積極的に受け入れていますし、パーキンソン病などの難病の患者さん、通院が難しくなった透析の患者さん、人工呼吸器装着の患者さんが多くを占めています。大学病院や地域の基幹病院から、術後に人工呼吸器から離脱できなかった患者さんが搬送されてくることもあり、ほかの病院では受け入れてもらえない状態であっても安心して療養いただける場所としての役割を担っていると自負しています。また、地域の診療所や施設から紹介される誤嚥性肺炎や脊椎圧迫骨折など、短期入院では回復が難しい高齢者の方々や、医療処置が必要なため施設に入所できない、自宅に帰れない方々の受け皿としての役割も果たしています。
入院中の人工透析について詳しく聞かせてください。
腎臓に疾患を抱え透析が必要な患者さんは年々増え続けていますが、入院透析ができる病院が少ないのが実状です。当院の透析室ではケアミックス型病院の特徴を生かし、長期療養病床または一般病床の入院患者さんに対する透析治療を行っており、入院中におけるオンライン透析や、シャントエコー検査でのバスキュラーアクセスの機能評価など幅広い維持管理に努めています。2014年には透析用ベッド数も6床から12床に拡張し、車いすやストレッチャーでの入退室に支障のない環境づくりにも配慮しております。さらに奈良に旅行で来られる方の臨時透析や、レスパイト入院中の透析治療にも対応しています。医師、看護師、臨床工学技士が協力し、「病気を治すため」といった視点だけではなく、「ケアをしながら入院生活を支える」という視点も大切にしています。
そのほか、特に注力されている診療はありますか?
透析患者さんにおいてリスクの高い難治性潰瘍を有する重症化した閉塞性動脈硬化症(ASO)に対して、病因物質であるLDLコレステロールやフィブリノーゲンを選択的に除去して浄化した血液を再び体内に戻す、吸着型血液浄化器を用いたLDL吸着療法を始めました。1回の治療時間は2時間程度で、3ヵ月の間に24回までは保険が適用されますので、潰瘍の状態を見ながら治療を進めることができます。また、難治性胸腹水の治療にも注力しており、がんや肝硬変によってたまった胸腹水から濾過器と濃縮器を用いて有用なタンパク成分を取り出し、再び体内に点滴で戻す胸腹水濾過濃縮再静注法(CART)を積極的に行っています。どちらも患者さんのQOLの改善が期待できる治療ですので、治療を希望される方はご相談いただければと思います。
最後に、今後の展望や地域の方々へのメッセージをお願いします。
今後はさらに地域に密着した病院づくりをめざしていきたいと考えています。具体的には、すでに行っている訪問リハビリテーションやデイサービスだけでなく、訪問診療や訪問介護に注力していきたいです。また、地域の皆さんとともに楽しむ病院祭りの開催など、イベントを通して当院の実態を知っていただけるように努めているところです。広報誌の発行やホームページ、地域の中学生の職場体験実習の受け入れなどを通して、患者さんはもちろん、そのご家族との信頼関係を構築していくこともわれわれの務め。「ここに来て良かった」「先生や看護師さんが温かく、親切にしてもらった」などと思っていただけるような、心温まる病院であり続けられるよう、これからも人のぬくもりと確かな医療の提供に尽力していきたいと思います。
和田 信弘 理事長
和歌山県立医科大学卒業後、同大学附属病院の消化器外科に12年間在籍し、消化器がんの手術を担当して研鑽を積む。その後大阪の急性期病院などで副院長兼外科医長、院長を歴任するも、地域へのより大きな医療貢献をめざす同志とともに、医療資源に乏しい南和地域に病院を立ち上げることを決意。2002年に現職に就き、以来、地域の医療ニーズに応えることができる、心の通うぬくもりのある病院づくりに尽力している。