医療法人社団誠高会 おおたかの森病院
(千葉県 柏市)
松倉 聡 病院長
最終更新日:2025/09/29


高度専門医療と予防医療で地域の未来を守る
つくばエクスプレス開通を機に人口増が続く千葉県東葛北部地区。その発展とともに歩み、「住みたい街」から「住んで良かった街」への進化を支えてきた「おおたかの森病院」。働き方改革や、医師の絶対数の減少に伴って救急医療・高度医療に手が回らなくなる病院も多い中、同院は優れた医師の確保と環境・設備の拡充を先回りして実行し、充実した地域医療の継続に向けて努力を続けてきた。同院の松倉聡病院長は「24時間対応の救急医療、消化器や循環器、整形外科、脳神経外科などの高度医療が当院の強みであり、地域の中で力を発揮すべき部分です」と話し、意欲あるスタッフとともに緊急手術にも積極的に対応している。「高齢化がさらに進む未来を見据えて、心房細動のスクリーニングをはじめとした予防医療にも注力していきたい」と話す松倉院長に話を聞いた。(取材日2025年6月17日)
まずは、病院の成り立ちや地域における役割をお聞かせください。

当院はつくばエクスプレスの開通と同時期に開院し、街の成長とともに歩んできた病院です。診療面では、内科・外科の両面からアプローチできる消化器・循環器、頭部外傷から脳血管障害、脳腫瘍などを幅広く診る脳神経外科、脊椎、膝関節、スポーツ整形、手の外科といった多様な専門家が在籍する整形外科などをそろえ、高度医療・救急医療に対応できる体制を整えてきました。皮膚科、泌尿器科、小児科などの診療科を含め、地域ニーズの高い診療科に専門領域のスペシャリストが在籍し、大学病院と比べても遜色のない治療を提供します。近年の急激な人口流入で救急要請が顕著に増加していますが、働き方改革などでリソースが追いつかない医療機関も増えてきました。当院ではこれまでどおり、救急車、ドクターヘリによる救急の患者さんを積極的に受け入れ、地域医療の維持に力を尽くしたいと思っています。
循環器、脳神経の高度医療について教えてください。

高度医療は、救急対応と、ある程度予定を立てて行う定時手術に大別できます。緊急性が高い心筋梗塞や大動脈解離などに対して、循環器内科の心臓カテーテルによる血管の開通、心臓血管外科の開胸手術などに24時間対応しています。一方、定時手術では、不整脈による脳梗塞のリスクを軽減するための左心耳閉鎖デバイスの装着があります。これは、不整脈でできた血栓が脳まで届かないように左心耳をふさぐもの。循環器内科と心臓血管外科をはじめとした多様なスタッフが必要で、当院のチーム医療が力を発揮します。循環器内科では、脳梗塞の予防につながる心房細動の治療のため、患者の体への負担を最小限に抑えつつ短時間で治療を完了できる新たなアブレーション装置も導入。予防医療の分野でも地域に貢献しています。また、脳神経外科では、救急の代表例である脳卒中などの脳血管障害に対して、脳血管を拡張するステントを使った血管内治療に注力しています。
消化器がんをはじめとした外科治療についてもお聞きします。

消化器のがんは内視鏡、腹腔鏡・胸腔鏡での治療が中心です。内視鏡治療は食道・胃・大腸の早期がんを対象に、大きな腫瘍も一括で切除を図れるESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)も可能で、担当医師は腫瘍を徹底的に取りきることを心がけて再発リスクの低減に努めています。また、治療が難しいといわれる胆管がんや膵がんに対しても、黄疸を改善するためにERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影)を行った後、肝胆膵のスペシャルチームで切除を行います。外科には消化器以外にも乳がんのマンモグラフィ検査や乳腺外科を専門とする医師も在籍し、早期発見から治療までカバーできるのも特徴ですね。腹腔鏡・胸腔鏡手術は胃がん、肺がん、大腸がんだけでなく肝嚢胞、胆石などの良性疾患でも用い、可能なら腹部を1ヵ所だけ切開して腹腔鏡を入れるSILS(単孔式腹腔鏡下手術)によって、患者さんの体への負担を極力減らすようにしています。
地域の医療機関や救急隊との連携も緊密だそうですね。

柏市に限らず、医療機関の絶対数が少ない近隣地域からのご依頼を含めて受け入れを強化していますが、当然ながら当院だけですべての地域医療をカバーできるわけではありません。助けられる命を可能な限り救うには、地域の医師会、医療機関、救急隊との協力が欠かせないのです。当院は、近隣医療機関や医師会、消防局などが協力して緊急性の高い心疾患に対応する「柏ハートネット」、東葛5市の消化菅出血を参画する医療機関が診る「GIBネットワーク」といった連携においても中心的な役割を果たしてきました。救急搬送中も、救急隊員が電子端末に症状などの情報を入力して複数の病院に送信し、医師が直接受け入れ可否を伝えることでより対応を迅速化する体制が整っているんです。こうした仕組みがよりスムーズに機能するよう、引き続き連携を牽引していきたいですね。
最後に、今後の展望をお聞かせください。

当院は引き続き高度専門医療、救急医療を中心に地域医療を担っていきますが、高齢化で患者数が増加する一方で医師が不足する未来を見据え、官民連携での予防的アプローチも重視しています。循環器内科の治療でふれた、脳梗塞の予防につながる心房細動の早期発見・治療もその一つです。国が推進する脳卒中・循環器病対策に貢献できるよう、柏市とも協力して取り組んでいきたいですね。柏市とは、アプリを活用した検診受診の啓発と呼びかけも予定しています。高齢の方がより安心して暮らせる地域づくりに向けては、病院から施設・在宅へとスムーズに移行できる体制の強化にも取り組まなければなりません。当院は、高度医療から在宅医療までをシームレスにつなぐ地域包括ケアのモデル事業「柏モデル」に10年以上参画してきました。その知見と経験を生かして、理念である「地域とともに」「地域の皆さんの健康を守るために」を実現すべく邁進してまいります。

松倉 聡 病院長
1993年東京大学医学部卒業後、同大学医学部附属病院第二外科入局。肝移植をはじめ肝臓、胆道、膵臓の治療を多く経験し、1999年に国立がん研究センター中央病院肝胆膵外科チーフレジデント。東京大学医学部附属病院肝胆膵・人工臓器移植外科助教を経て、2004年医療法人社団誠高会に入職し、2005年から現職。日本外科学会外科専門医、日本肝臓学会肝臓専門医。





