愛知県医療療育総合センター中央病院
(愛知県 春日井市)
新美 教弘 病院長
最終更新日:2024/07/25
障害児医療のハブ的役割を担う病院
緑あふれる、のどかな雰囲気に包まれた丘陵地の一角に位置する「愛知県医療療育総合センター中央病院」。前身の「愛知県心身障害者コロニー中央病院」から数えて50年以上にわたり、医療の領域から障害のある人たちの成長や発達を支援する専門病院だ。2019年の施設再編・新築に伴い刷新された病院内にはさまざまな小児の専門診療科を設け、内科系、外科系、児童精神系、重症心身障害児者の病棟が整備されている。リハビリテーション診療では理学療法、作業療法、言語聴覚療法、視覚障害訓練などを提供できる体制があり、設備も充実している。2023年4月に病院長に就任した新美教弘先生は、約30年にわたり小児外科診療に力を尽くしてきた医師であり、同院の移り変わりも間近で目にしてきた人物だ。障害児者を取り巻く医療・福祉の在り方が変遷する中、第一線で診療にあたり続ける新美病院長に、東海地方におけるさまざまな障害のある小児患者の医療をけん引してきた同病院の診療と設備の特色、今後の展望について話を聞いた。(取材日2024年6月19日)
病院の歩みについてお聞かせください。
当病院の成り立ちを紹介する上で、まずは社会福祉施設「愛知県心身障害者コロニー」についてお話ししたいと思います。コロニーは集落を意味し、障害のある人を1ヵ所に集約し専門的な療育・医療・教育を行う施設です。1960年代から1970年代にかけて国内各所にコロニーが設けられました。「愛知県心身障害者コロニー」もその一つで、当病院は付属の「中央病院」として1970年に開院し、心身の発達に重大な障害を及ぼす疾病の診断と予防、および治療に努めてきました。しかし時代の移り変わりに伴い障害を取り巻く状況も変化し、ノーマライゼーションの理念のもと施設福祉から地域福祉への転換が図られることに。これに伴い当病院も地域に暮らす障害児者を支援する後方支援病院として生まれ変わりました。役割こそ変わりましたが長年の医療・療育の実績があり、愛知県はもとより東海地方の障害児者医療の中心的存在であると自負しています。
診療内容や施設の特色をお聞かせください。
内科系には遺伝診療などを行う小児内科、脳障害などに対応する小児神経科、小児の発達や心の問題を扱う「子どものこころ科」という3つの領域があります。診断・治療に限らず、希少疾患の患者さんの家族交流会を開催しているのが特色です。小児外科や整形外科といった外科系では、主に合併症の治療を担っています。気管切開や胃ろう増設などはもちろん、例えば重度心身障害児者に多い合併症の一つである痙縮に対してボツリヌス毒素製剤を注射し筋肉の弛緩を図るなどのアプローチもその一つです。その他歯科、リハビリテーション科などがあり、どの領域も高い専門性を持ち、豊富な診療経験があります。また、コンパクトでありながら1ヵ所で検査・診断・治療・入院・入所・療育・リハビリテーションまですべてをカバーできる環境が整っていること、精神科病棟を開放型と閉鎖型の2タイプ、重症心身障害児者病棟を備えていることも特筆すべき点だといえます。
発達障害研究所と療育支援センターがあるのも特徴的ですね。
本館棟5階の発達障害研究所は、心身の発達障害の原因探求や治療・予防に関する研究を行う機関で、療育を行う施設でこのような研究機関があるのは、全国的に見ても非常にまれだと思います。希少疾患や遺伝的な疾患を研究する上で、患者さんが多く集まる病院に研究所があるというのは、研究が進みやすいだけでなく臨床にフィードバックしやすく、臨床での成果をさらなる研究に生かせるといった利点があり、医療の発展において研究所と当病院の日常的な連携の意義は非常に大きいと感じています。日頃から研究者と医師が定期的に勉強会や交流会を開き、情報交換や連携を図り、医療や療育に役立てています。本館棟1・2階には「療育支援センター」があり、1階の地域支援課では、レスパイト入院や短期入所を含めた入退院や生活のご相談、発達障害に関するご相談などの障害者への理解を深める活動を行っています。
地域連携に対する思いをお聞かせください。
患者さんの地域の暮らしを支え、より適切な支援を行う上で、関係機関の連携は欠かせません。当病院では「電子@連絡帳システム」を活用して患者さんを中心に情報共有をするプラットフォーム「このはネット」を構築。学校の先生や地域の療育主治医・専門施設の主治医、訪問看護ステーションなど、教育・医療・福祉分野との多職種連携に力を入れ、グループ外来診療や講演会など情報発信にも活用しています。また、当病院敷地内には、県の基幹支援センターである「あいち医療的ケア児支援センター」が拠点を構え、日頃から医療的ケア児に関する相談に対してアドバイスするなど密に連携を取っています。医療的ケア児がいるご家庭に必要な情報を届け、適切な医療の提供につなげるためにも、こうした関係機関との連携は不可欠です。当病院が障害児者を取り巻くさまざまな連携でハブ的役割を担い、障害児者が生活しやすい地域の発展に貢献していきたいと考えています。
今後の展望をお聞かせください。
障害のあるお子さんの医療・療育・リハビリテーション・教育・福祉・研究とさまざまな視点から総合的に支援する当病院の役割は、非常に大きいと考えています。多くの職員が信念を持って働いており、私個人としても小児外科の専門家として患者さんの生活の質の維持・向上、重症化予防に携われることに、大きな喜びとやりがいを感じています。さまざまなニーズに応え続けていくためにも、職員の働く環境の刷新にも取り組んでいく考えです。また、障害児の方が成人した後、悪性腫瘍や腎疾患、心疾患を発症した場合は専門医療機関で治療を受ける必要があります。そうした際に、専門医療機関に対してどのような点に注意が必要かなどを説明することで、障害の有無に関係なく、等しく適切な医療を受けられるよう支援するなどの役割も担っていきたいと考えます。障害は少しの個性があるに過ぎない。そう捉えられるような社会を築けるよう、役割を果たしていきたいです。
新美 教弘 病院長
1987年名古屋大学医学部卒業。大垣市民病院外科で一般外科全般を経験。その後、名古屋大学医学部附属病院第一外科に入局し、名古屋大学医学部附属病院分院にて小児外科領域を専門に研鑽を積む。1993年愛知県心身障害者コロニー中央病院に入職。救急搬送された新生児の手術を手がけ、現在は障害児者に対し数多くの外科診療を行っている。2023年4月より現職。日本外科学会外科専門医、日本小児外科学会小児外科専門医。