公益財団法人柏市医療公社 柏市立柏病院
(千葉県 柏市)
田邉 稔 院長
最終更新日:2025/08/05


市民の医療の砦として診療の質を高める
1939年に陸軍病院として開設され、戦後、国立療養所柏病院、国立柏病院を経て、1993年に現在の名称になった「柏市立柏病院」。現在は病床数200床の地域の基幹病院として、各科が地域の多様なニーズに応えられるよう診療の拡充を図っている。昨今の建設業界の諸事情により新病院の開設の延期が余儀なくされる中、田邉稔院長は、歩みを止めることなく、病院の改革を進めている。東京科学大学をはじめとする大学病院との連携によって、各分野に精通した医師をそろえ、先端の機器を導入するなど、医療の質の強化を図ると同時に、市民にとって親しみやすく、信頼できる病院をめざしている。医療で地域を支える同院の取り組みについて、田邉院長に聞いた。(取材日2025年6月10日)
ご就任から1年が過ぎ、今、どのように感じられていますか。

この1年は、地域に密着した病院の院長として、地域のクリニックの先生と親交を深めたり、医師会のいろいろな会合に参加したり、患者さんとも市民公開講座などを通してふれあったりすることができ、地域医療というものを理解するのに本当に良い1年となりました。何よりもこの町がとても好きになりましたし、同時に、地域医療がカバーする範囲の広さをあらためて実感しました。地域医療というのはニーズが大学病院とまったく違います。大学病院はある意味、高度な医療を要する、早く社会復帰をしてバリバリ働きたいというような患者さんが集まる場所です。地域医療の現場にももちろんそんな患者さんもいますが、それ以外の、熱が出た、おなかが痛い、フラフラするといった症状の方がほとんどです。手足の不自由な高齢者や小さなお子さんも多くいらっしゃいます。このように幅広い病気や年齢層の声に応えていくことの大切さを感じています。
多様な患者さんに対応するための体制について教えてください。

医師はもちろんコメディカルを含む全職員に対して、来院された患者さんはお断りすることなく真摯に対応しようと伝えています。一方で、より高度な医療が必要な患者さんは医療連携によって、大学病院やがんセンターにお願いしています。当院は二次救急医療機関であり、クリニック、介護老人保健施設では診られない患者さんと三次救急の患者さんのちょうど中間層を支えています。実はそれが最も役割の幅が広く、かつ、当院がこの地域で担うべき責務であると思っています。
これまでの大学病院でのご経験をどのように生かされていますか。

大学病院では、主に肝臓・胆道・膵臓のがんの治療を行い、ロボットによる低侵襲手術も多数経験しました。この病院で同じ治療をすることは難しいのですが、しっかり手術ができる体制を整えることで、私のこれまでの経験をご期待に添えるよう発揮できればと思っています。この病院の特徴は大学との連携であり、最も典型的な例が、眼科で2025年1月に始まった網膜硝子体手術です。この手術の開始にあたり、東京科学大学の眼科の教授のもとを訪れ、当院で実施するため眼科科長の古瀬悠医師と計画を立てました。この夏には先端の機械を購入する予定です。このように大学や高度施設と連携し、新しいプロジェクトを立ち上げることは私が大学病院で長くやってきたことであり、他の診療科でも生かされています。自分のできる少し上をめざして、昨日よりも今日、明日、明後日が良くなるように、できることを伸ばす。これこそが大学で培われた精神です。
眼科以外でも新しい取り組みはありますか?

今年度大きく変わったのは、新しい医師が13人加わったことです。これもやはり大学との連携で、若い医師から中堅クラスまで粒ぞろいのメンバーとなりました。整形外科では、千葉大学の整形外科との連携で、下肢専門の寺川寛朗医師による股関節や膝関節の人工関節置換術を始めます。小児科では、循環器専門の前田佳真医師が着任し、先天性心疾患や小児の不整脈を中心に専門的な治療を展開しています。この規模の病院でこれだけ小児科の各分野の専門家がそろっているのは奇跡的といっていいでしょう。また、飯田啓太不整脈センター長を中心に比較的新しい治療に着手し、治療時間の短縮と周りの正常組織への熱損傷を減らすことで、患者さんの負担に配慮した治療を提供できるようになりました。
最後に、地域へのメッセージをお願いします。

建設費の高騰により新病院建設が数年延期になりましたが、その間を利用して、新しい病院をどのように軌道に乗せていくかをじっくり検討していきたいです。実力のある医師をそろえ、できる医療の幅をどんどん広げることで、新病院のクオリティーにつながればと思います。病気になり、どこの医療機関に行くか検討する際に、行きやすいという親近感はとても重要です。単に医療的な側面だけを磨くのではなく、市民の医療の砦である市立病院としての機能を生かせる病院、そして願わくば、単なる240床の急性期病院にとどまらず、併設される公園と一体化し、町の景色を変えるような、そういう病院になりたいです。しばらくは歴史あるこの病院にお付き合いいただくことになりましたが、病院の中身はどんどん改革を進め、より信頼できる病院になることをめざしてまいります。

田邉 稔 院長
1985年慶応義塾大学医学部卒業。米国ピッツバーグ大学外科で研鑽を積んだ後、慶応義塾大学外科准教授。2013年より東京医科歯科大学肝胆膵外科教授、同大学では副病院長ならびに副医学部長を務め、2024年4月より現職。消化器外科、肝胆膵外科のスペシャリストであり、がん治療や低侵襲手術に精通する。学生時代は競技スキーに打ち込んだスポーツマン。