独立行政法人国立病院機構 大阪刀根山医療センター
(大阪府 豊中市)
奥村 明之進 院長
最終更新日:2024/02/29
特定領域で専門性と先進性のある治療に注力
阪急宝塚本線蛍池駅から東へ、住宅地に続くゆるやかな丘陵に広がるのが「大阪刀根山医療センター」だ。結核療養所として長い歴史がある同院は、20年ほど前から肺がんをはじめとする呼吸器疾患や神経難病、関節リウマチなどの関節・脊椎疾患へ、注力する疾患領域を徐々にシフトしてきた。2019年には結核病棟を閉鎖して施設名を現名称に変更、さらに2023年には肺がんセンターを設置し、治療の進歩が著しい肺がんについて集学的な治療を行えるよう診療体制を強化している。時代の変化に合わせた同院の運営をリードしているのが、奥村明之進院長だ。「当院が強化してきた領域では、国立病院機構だからこそできる先進的で専門的な治療を提供したい」と語り、地域との連携にも力を入れているという。そこで今、同院で注力している診療内容やめざす病院像について、奥村院長にじっくりと聞いた。
(取材日2023年12月12日)
結核療養所の時代から、診療内容が変化してきたそうですね。
当院は、20世紀の初頭に大阪市立の結核療養所として開設されました。1000床という規模に達した時期もあり、戦後も国立療養所として長らく結核や呼吸器の治療を行ってきました。ですから、ご年配の方や地域内では今も「結核の病院」というイメージがあるようです。ただ、結核では治療薬の開発とともに長く患う患者さんが減ったこともあり、2000年頃からは結核以外の呼吸器疾患や、筋ジストロフィーなどの神経難病、またリウマチなど関節・脊椎疾患の診療にも取り組むように。筋ジストロフィーは専門の病棟があり、長期入院するお子さんのために敷地内に支援学校も設けられています。さらに2019年には老朽化した結核病棟を閉鎖し、「大阪刀根山医療センター」という現在の名称に改称しました。呼吸器領域では現在、肺がんをはじめ喘息、間質性肺炎やCOPD、最近では非結核性抗酸菌症など、難治性疾患の診療に注力しています。
肺がんセンターを設けた狙いやメリットをご紹介ください。
当院の呼吸器内科と呼吸器外科には呼吸器腫瘍を専門とする医師が15人程度在籍し、以前から肺がん診断のための気管支鏡検査や化学療法、胸腔鏡を用いた精緻な低侵襲手術などを積極的に行ってきました。さらに今、ゲノム医療の実用化で肺がんの薬物療法は急速に進歩しています。分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬などの新薬が多数登場し、薬剤の併用や手術との組み合わせが検討され、新たな研究結果も次々と報告されています。これら膨大な情報をスピーディーに取り入れ、先進の治療も含めた選択肢から各患者さんにその時点でベストな治療を行うためには、ある程度の人数の専門家が、診療科や職種を超えて連携する必要があるのですね。そこで2023年1月には肺がんセンターを開設。放射線科や病理診断、緩和ケアの専門家や、日本看護協会がん化学療法看護認定看護師も参加し、1つの病棟で肺がんに特化した集学的で効率的な治療を提供しています。
神経難病の診療にも力を入れているそうですね。
筋ジストロフィーではさまざまな症状に対する治療法や人工呼吸器の開発が進み、以前よりも生命予後がかなり良くなりました。このため、治療を受けながら専門の病棟で長期入院して過ごされる患者さんもいますし、普段はご自宅で生活され、体調不良の際やリハビリテーションのために短期入院される患者さんも多くなっています。他の神経難病としては、筋萎縮性側索硬化症(ALS)や重症筋無力症、クロイツフェルト・ヤコブ病、また最近ではご高齢の方のパーキンソン病も増えていて、入院による専門的な治療やリハビリテーションも行っています。そしてまれな病気ではありますが、脊髄性筋萎縮症や重症筋無力症では近年、新薬が登場していますので、当院でも導入しています。神経難病ではロボットスーツを用いたリハビリテーションも特徴で、姿勢の改善によって転倒予防につながることが期待できるため、リハビリテーションのための定期的な入院も行っています。
関節・脊椎疾患の診療にも特徴があります。
結核の中には脊椎カリエスなど骨に及ぶ病気があり、当院の整形外科ではそれに対して外科的な治療を行っていた歴史がありますので、現在も他の結核専門病院に協力する形で手術の応援などを行っています。また、以前から関節リウマチの治療に注力していて、整形外科で薬物治療や手術を行っていましたが、近年では膠原病内科の医師が加わり、新薬なども導入しながら患者さんに適した治療が行えるようになりました。関節リウマチやその薬物治療に伴う呼吸器疾患に対しても、呼吸器内科が適切にサポートできる点は強みですね。整形外科では他にも椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、変形性膝関節症において切開の小さな内視鏡手術を実施していますし、リハビリテーションが必要な場合は入院期間中に完結できるように努めています。なお、骨粗しょう症についても、DXA法による高精度の検査や診断、治療法の提案やかかりつけ医との連携による治療を行っています。
今後、地域でどのような役割を担いたいとお考えですか。
当院は、大学病院や地域中核病院のように多彩な診療科がそろう体制ではありません。しかし、今ご紹介した特定の領域では、先進の治療に対応できる高い専門性を持つ医師が集まり、治験にも参加しながら、現時点で最適と考えられる医療を提供すべく努めています。このような専門性の高さは、国立病院機構ならではの役割でしょう。また肺がんに関しては豊中市と協力し、肺がん検診の画像のダブルチェックを呼吸器内科や呼吸器外科が担当するなど、地域医療との新たなつながりも構築しています。当院が得意とする診療内容を地域の皆さんにより広く知っていただけるよう、行政や地域の医師会と連携しながら情報提供の機会をいっそう増やす予定です。将来的には豊中市だけでなく池田市や箕面市、さらに兵庫県の宝塚線沿線など、北摂エリアの皆さんから「この病気なら大阪刀根山医療センター」と信頼していただける存在になりたいと考えています。
奥村 明之進 院長
1984年大阪大学医学部を卒業後、同附属病院第一外科をはじめ関連病院にて研鑽を積む。1993~1996年には米セントルイス・ワシントン大学病理学教室へ留学。帰国後は大阪大学医学部第一外科や近畿中央呼吸器センターにて勤務し、2004年大阪大学大学院医学系研究科外科学講座講師、助教授を経て2007年には同呼吸器外科学初代教授に就任。2018年より現職。週末には低山登山で体力づくりに努めている。