独立行政法人国立病院機構 呉医療センター
(広島県 呉市)
繁田 正信 院長
最終更新日:2024/07/01
135年の歴史を持つ高度急性期医療機関
1889年に「呉海軍病院」としてスタートした「呉医療センター」は、全国に約140ヵ所ある国立病院機構の中でも規模の大きな病院の一つだ。現在は地域がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療連携病院、救命救急センター、地域周産期母子医療センターなどの機能から、幅広い領域で専門性の高い医療を提供。呉市や江田島市を中心とした呉医療圏の高度急性期医療機関として、地域住民の命と向き合っている。2023年11月には新たに手術支援ロボットを導入し、がん診療を強化。泌尿器や消化器、膵臓などの領域で、がんのロボット支援手術に対応し低侵襲治療に力を注ぐ。2024年4月には、泌尿器科科長などの要職を歴任してきた繁田正信先生が院長に就任。「救急医療とがん診療を並行して行う、全国的に見ても珍しい病院。広島県内でも大きな規模を誇り、スタッフも専門性の高い一騎当千の強者ばかりですから、地域の皆さんには安心して治療を受けてほしい」と意気込む繁田院長に、病院の沿革をはじめ診療の特徴、地域で担う役割などについて詳しく語ってもらった。(取材日2024年6月7日)
まずはこちらの病院の歴史について教えてください。
当院は1889年に「呉海軍病院」として開院しました。太平洋戦争終結後、イギリス・オーストラリア軍に接収されていましたが、1956年に「国立呉病院」として再開。1965年に中国がんセンターを併設し、2004年には「呉医療センター」と名称を変え現在に至ります。呉海軍病院時代から数えて135年を数える歴史ある病院で、広島県内でも大きな規模を誇ります。私は呉市出身で、当院は高校時代の通学路に位置していたため親しみのある病院でした。2024年4月から院長を拝命することとなり、自分の故郷に恩返しができるのではと感じています。今年は医師の働き方改革や診療報酬の改定など、医療を取り巻く環境が大きく変化する年でもあり、病院の運営についてもしっかりと向き合っていく必要があります。病院運営の安定は患者さんに良い医療を提供するための欠かせない基盤になりますから、院長としても注力していかなければなりません。
救命救急センターを備えるなど急性期医療に尽力されています。
呉医療圏の三次救急医療機関として、心肺停止や急性心筋梗塞などの重症患者を受け入れ治療していくのは当院の大きな使命の一つです。2024年4月からは救命救急専門の医師を2人に増員し、あらゆる状態の患者さんに対応できるように体制面も整備しています。また当院は地域周産期母子医療センターという役割も担っているため、集中治療室(ICU)だけではなく新生児集中治療室(NICU)を備え、先天性の病気を持つ赤ちゃんや低体重で生まれた赤ちゃんの治療に携わっています。基本的には呉市およびその周辺地域から救急患者を受け入れていますが、昨今の医療情勢を鑑みると、近隣の病院とともに均衡を保っている救急医療体制が崩壊しないとは言いきれません。ですから地域の患者さんを受け入れられないという事態が起きないよう、他院のバックアップという意味合いを含めて救急医療についてはしっかりと向き合っていく必要があると考えています。
がん診療については手術支援ロボットを導入されたそうですね。
2023年11月に手術支援ロボットを導入し、12月から実際の手術で運用を開始しました。泌尿器のがんから適用し、大腸などの下部消化管、食道や胃といった上部消化管のがん手術に活用しています。症例数を重ね、2024年4月からは膵臓がんの手術をスタートしましたし、7月からは婦人科系のがんや肺がんなどの呼吸器外科でも使っていく予定です。もちろん腹腔鏡を使った手術でもがんを治療することはできますが、より低侵襲な手術を希望される患者さんのニーズにも応えていかなければなりません。当院のがん診療においては初期のがんから緩和医療まで幅広く対応しているほか、がんゲノム医療連携病院として広島大学病院と連携してがん遺伝子パネル検査を行い、一人ひとりの患者さんに有効な治療ができるよう尽力しているところです。がんは罹患者数も多く、医師にとっても避けては通ることができない領域ですから各診療科で強化していきます。
その他に力を入れている領域はありますか?
やはり当院は三次救急を行う高度急性期医療機関ですから、脳梗塞や心筋梗塞など突発的な病気にも備えなければなりません。脳の病気に関しては脳神経内科、脳神経外科が協力することでさまざまな状態の患者さんを治療することができますし、循環器疾患についても呉心臓センターを併設し内科・外科の混合チームが対応。必ず当直体制を取るようにし、24時間365日体制で専門家による診療が可能です。呉市は高齢化が進み、患者さんの中には複数の疾患を抱えている方もいらっしゃいます。がんと脳梗塞を併発するということも珍しくはありません。そこで私がイメージする当院のめざすべき姿は、一流の百貨店。そこに行くとすべてがそろうように、各診療科に専門家をそろえ、質の高い医療を提供していきたいと考えています。風通しが良く、横のつながりも強固な当院ですから、あらゆる領域でレベルの高い医療が提供できるのではないかと期待しています。
最後に、今後の展望を含め皆さんにメッセージをお願いします。
患者さんにより良い医療を届けるためには病診連携、病病連携は欠かせない要素です。急性期を脱した患者さんをスムーズに地域へとお返しするため、地域医療連携室を設けてかかりつけ医との協力体制を強化している他、病院ごとの強みを生かして連携した診療にも取り組んでいるところです。今後はさらに高齢化が進展し人口も減少していくことが予想され、地域の基幹病院ごとに特色を打ち出していく必要があるでしょう。当院は救命救急センターと先進的かつ高度ながん診療機能を併せ持った全国的に見ても珍しい病院の一つです。この2つの役割を同時に担い、維持していくことは非常に困難な道ではありますが、それが地域の皆さんに求められている姿だと感じています。広島県内でも大きな規模を誇り、スタッフも専門性の高い一騎当千の強者ばかりですから、皆さんには安心して治療を受けていただきたいと思います。
繁田 正信 院長
1987年広島大学医学部を卒業。広島大学病院泌尿器科に入職し、県立広島病院などに勤務。泌尿器がんや尿管結石などの治療にあたる。途中、留学を挟み、2006年に泌尿科科長として呉医療センターに赴任。2024年4月より現職。新型コロナウイルスの感染拡大時においては感染対策室長を務めた。