独立行政法人地域医療機能推進機構 大阪みなと中央病院
(大阪府 大阪市港区)
辻 晋吾 院長
最終更新日:2024/05/30
地域医療と特色ある診療で独自の存在感を
大阪環状線と大阪メトロ中央線が交差する弁天町駅。「大阪みなと中央病院」は、その弁天町駅に隣接しており、広域からアクセスしやすい立地が魅力だ。かつては天保山にあり「大阪船員保険病院」の名で親しまれていた同院は2014年に現病院名へ改称、2019年には現在の場所へ新築移転を果たした。以前から一般の患者に向けた診療を行っていたが、移転後には救急部門を拡充し血液腫瘍内科を新設するなど、地域の医療ニーズにきめ細かに応える。また、移転に併せて新設された歯科口腔外科などには、専門的な診療を求めてより広いエリアから患者が訪れているという。約15年前から同院で勤務し、2024年より院長を努める辻晋吾先生は、「地域の患者さんが多い内科や外科では、難症例にも当院で対応。また特徴ある領域にも取り組み、大学病院などとの連携で専門性の高い治療にもつなげる、この二面性も当院の特色です」と穏やかに語る。さらに同院内には港区医師会の「港区在宅医療・介護連携相談支援室」が設置されており、スムーズな情報提供の支援にも努めている。移転から5周年を迎える同院の現状について、辻先生に話を聞いた。(取材日2024年5月14日)
移転後の5年間で、新たに取り組まれたことはありますか?
当院がある磯路から朝潮橋までの間は、港区内でも人口が密集した地域です。また、この地域では急性期病院が少なく、救急患者がより増えることが移転以前から見込まれていました。そこで2020年には救急科を開設、内科・整形外科のスタッフが24時間常駐し、二次救急医療機関として救急患者を受け入れてきました。さらに最近、救命救急を専門とする2人の医師を迎えたことで、救急対応力は大きく高まっています。また同じく2020年には、血液腫瘍内科を開設しました。ご高齢になると、骨髄異形成症候群などの血液疾患が多く見られます。また、港区や隣接する大正区には、西日本の島しょ部出身の方が多くお住まいで、これらの地域では成人T細胞白血病のウイルス感染者が多いことがわかっています。この病気は主に母子間で感染し、高齢になってから発症することも多いため、当科でも想定以上に多くの患者さんに治療を提供しています。
高齢患者が多い内科領域を中心に、難症例にも対応されています。
内科では、消化器、循環器、腎臓・高血圧、糖尿病、血液の分野に精通する医師が、診察日はほぼ毎日、外来診療を行っています。私の専門でもある消化管では、鎮静剤を用いた苦痛の少ない内視鏡検査・治療のほか、カプセル内視鏡やバルーン内視鏡による小腸の検査、抗がん剤治療も可能で、地域のクリニックでは治療が難しい症例に力を入れています。また循環器では冠動脈CTでの検査や虚血性心疾患の治療、心不全の治療なども行っていますし、腎臓内科では慢性腎臓病(CKD)の治療や、緊急透析を含めた腎不全期の管理も実施。大阪市内には透析クリニックが多いのですが、そこでトラブルがあった場合や、透析患者さんのがん治療などにも対応しています。さらに、ご高齢の方では関節リウマチや変形性の関節疾患も多いのですが、膝関節や股関節などの治療や人工関節置換術、また脊椎疾患に対する手術も院内で実施しており、手術希望者の多い状態が続いています。
美容外科など、特色ある診療科に訪れる患者さんも多いとか。
大阪の西エリアには口腔がんの手術までできる施設が少ないなどの理由から、移転時に新設した歯科口腔外科ですが、患者さんは今も増えています。手術や抗がん剤治療は当院で、また放射線治療が必要であれば大阪大学歯学部などと連携して治療を行います。美容外科も標榜していますが、すでに他のクリニックで診療を受けた後のお悩みや、セカンドオピニオンを求めての受診が多い印象ですね。その他に、眼科では先進の治療機器を導入し、多くの白内障手術をはじめ繊細な手技を要する硝子体手術も行っていますし、耳鼻咽喉科では副鼻腔・涙道疾患の治療に注力しています。これらの特徴的な治療ができる診療科では、近隣だけでなく比較的広い範囲から患者さんが来られていて、当院の独自性や強みにもなっています。また技術や専門性の高さにもこだわっており、大学からの研修医を受け入れている診療科も多くあります。
地域医療において、新たな役割も担っているそうですね。
港区では、医師会の先生方がチームとなって在宅医療にあたっています。また大阪市では各区の医師会が在宅医療や施設との連携をコーディネートすることになっていて、その窓口である「港区在宅医療・介護連携相談支援室」が当院内に設けられています。看護師であり行政経験もある当院の職員が、区内の患者さんの自宅療養や施設入所についてご紹介を行ったり、相談に応じたりしていて、港区内の医療・介護連携のハブを担っているといえるかもしれません。それから、地域のクリニックと当院との連携の窓口になるのが「地域医療連携室」で、ここで地域の先生方からご紹介いただいた患者さんの予約を取ったり、当院での治療を終えた患者さんの在宅療養や施設入所をサポートしています。なお、地域の先生方からご紹介いただいた患者さんは、まず初診外来で予約をとって診察を行ってから、適切な診療科へ紹介するという流れになっています。
最後に、患者さんへのメッセージをお願いします。
当院は、開設当初は船員向けの病院だったこともあり、現在もクルーズ船の患者さんや、旅行などで来日した海外の方の治療を行うこともありますし、院内には中国語に対応できるスタッフもいます。特色ある診療科には幅広い地域から患者さんが来られていますし、今後大阪で予定される国際的なイベントの会場にも近く、さまざまな患者さんを受け入れるというユニークな立ち位置にあるかもしれません。その上で現在は、この地域の病院として、近隣の皆さんや開業医の先生方のニーズに確実に応えていきたいと考えています。275床という病床数で、診療科もすべてを網羅しているわけではありませんが、ご紹介いただいた患者さんはどんな症状でもまずは診察を行って、院内外の適切な治療へつなげていきます。今後は地域の方向けの健康啓発イベントや公開講座なども積極的に行って、地域とともに歩む病院でありたいと思っています。
辻 晋吾 院長
1981年大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院第一内科で臨床・研究に従事し、米国やスウェーデンの大学へ複数回留学。2002年大阪大学大学院医学系研究科病態情報内科学講師、2005年同大学院消化器内科学講師を経て2008年より大阪船員保険病院副院長に就任し、病院の新築移転や新型コロナウイルス感染症流行下での病院運営に尽力。2024年より現職。専門は消化器内科学。日本消化器病学会消化器病専門医。