豊富な診療経験を有す専門家に聞く
子どもの熱性けいれん対処法
社会医療法人 真美会 大阪旭こども病院
(大阪府 大阪市旭区)
最終更新日:2023/06/29
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熱が出始めた子どもの意識が突然なくなり、目がうつろになりながらこわばった体がけいれんを起こす――。そんなシーンが現実に起きたとき、冷静に対処できるだろうか。しかしこれは、急激な発熱によって脳が刺激されて発作が起こる「熱性けいれん」と呼ばれるもので、10人に1人の確率で起こる「よくあること」だという。2022年1月~12月に1000例ほどの熱性けいれんの救急受診を受け入れたという「大阪旭こども病院」の荒木敦院長は、発作時の対応さえ間違えなければ、その多くは「心配ないケース」だと語る。全国でも数少ない小児診療体制を持つ同院を率いる荒木院長に、熱性けいれんとはどのような病気か、発作が起こった際の対処法と絶対にしてはいけないこと、同院での治療の流れや特色などを聞いた。(取材日2023年5月29日)
目次
熱性けいれんは10人に1人の「よくあること」。禁忌を知り、慌てず適切な対処で子どもを支えよう
- Q子どもが発熱した際、どのタイミングで解熱剤を使うべきですか。
- A
まず、発熱自体は症状であって病気ではないこと、そして「熱が高いから病気が重い」のではないことを強調してお伝えしたいと思います。かつては高熱が脳に障害を及ぼすといわれていたものの、それは脳炎や脳症の後遺症であって、高熱そのものが原因ではないのです。発熱で最も多い原因は風邪などのウイルス感染ですが、体温が上がるのは体がウイルスと戦っている証拠。保護者の方は熱が下がれば安心かもしれませんが、必ずしも坐薬による解熱が正しいわけではありません。たとえ40度の熱があってもニコニコ遊んでいるなら坐薬の使用は不要ですし、逆に38度でもぐったりしているのであれば、坐薬を使って熱を下げる必要があると言えます。
- Q熱性けいれんとは、どのような病気ですか?
- A
体温が急激に上がるときに出されるサイトカインという物質によって脳が刺激され起こると言われています。主に生後6ヵ月から5歳までの38度以上の発熱に伴う発作で、脳炎・脳症・てんかんなど別疾患を除外したものと定義されます。日本人の10人に1人が一生に1回、そのうち3割が繰り返し発作を起こすとされ、症状は意識を失って白目をむき、手足が固く突っ張る・ピクピクするなど。単純型なら1~2分ほど、ごくまれに見られる複雑型なら15分ほどけいれんが続き、治まるとボーっとした状態になります。熱の上がり始めに発生することが多く、突発性発疹・インフルエンザ・新型コロナウイルスなどで起こしやすいことがわかっています。
- Q熱性けいれんの対処方法と、絶対にしてはいけないことは?
- A
熱性けいれんが起こると、歯をぐっと食いしばり、体に力が入って息をしなくなって顔色が悪くなっていきます。けいれんが治まれば自然と呼吸は再開するのですが、保護者の方が驚いて無理に口を開け指を突っ込んでしまうことも。これは舌を押し込んで気道を塞いだり、口の中を傷つけた際の出血で窒息したりする恐れがあるため、絶対にしてはいけません。また吐しゃ物を喉に詰まらせる可能性もあるため、仰向けにするのも危険です。けいれんが起こったら落ち着いて体を横向きに変え、吐いた物が喉に詰まらないようにしておけばそれほど心配はありません。ほとんどのケースで救急車が到着するまでに、けいれんは治まっていることでしょう。
- Q貴院での診療の流れや治療法について教えてください。
- A
年間の救急受け入れ件数の約3分の1がけいれん性疾患である当院では、小児を専門とする医師・検査技師らが24時間365日、CT・脳波・血液など必要な各検査すべてに対応しています。特に熱性けいれんは数多くの症例に対応しているため、若手医師でも相当数の経験を積んでいるのはもちろん、検査・投薬などがフローチャートで示され、どの医師が診ても適切な対応ができるよう標準化されています。単純型であれば髄膜炎や電解質異常など熱性けいれん以外を病気の可能性がないかを点滴をしながら検査をし、2時間ほど様子を見て問題なければご帰宅可能です。1日で繰り返し熱性けいれんを起こしている場合などは、入院が必要になります。
- Q予防法や日常生活で気をつけることはありますか?
- A
子ども向け鼻水止めシロップにも含まれている抗ヒスタミン薬は、けいれんを起こしやすくするため注意が必要です。抗ヒスタミン薬は脳内に入り込んで眠気を引き起こしますが、これがけいれんの閾値を下げます。特に熱性けいれんを一度でも起こした経験がある場合は医師に相談して、眠くならないタイプのお薬を選んでください。もともと脳が熱に敏感な子もおり、熱いお風呂に長時間つかると入浴けいれんを起こすことも。発熱時もシャワーのみであれば問題ありませんが、入浴で体を温めることは体力消耗にもつながるので気をつけましょう。熱性けいれんには遺伝的な要素があるため、血縁者に発作経験の有無を確認しておくとよいでしょう。
- Qそのほか貴院の小児診療の特徴や強みについて教えてください。
- A
医師はもちろん、看護師・検査技師・放射線技師・薬剤師・管理栄養士・公認心理師ら全スタッフが小児を専門としているのが当院の強み。子どもの脳波検査も多数行っており、小児の脳波解析ができる専門家が2人いるなど、このような病院は全国的にも少ないのではないでしょうか。24時間365日対応の第二次救急告示医療機関として救急はすべて受け入れているほか、救急救命を担う三次救急との連携体制も確立しています。その上で体だけを診るのではなく子どもの心理面や家庭環境まで目を配り、お困りごとがないか、問題点があればそれを解決できるようサポートすることで、より健やかに成長していけるよう各職種が連携して対応しています。
荒木 敦 院長
1985年関西医科大学卒業。国立精神・神経センター小児神経科レジデント、米国アイオワ大学神経内科客員研究員、大阪府済生会野江病院小児科部長などを経て、2018年に副院長として中野こども病院(現・大阪旭こども病院)入職。2019年より現職。専門は小児神経学、神経発達症、てんかん学など。同院では小児科と小児神経疾患全般の外来を担当。日本小児科学会小児科専門医、日本小児神経学会小児神経専門医。医学博士。