社会医療法人 真美会 大阪旭こども病院
(大阪府 大阪市旭区)
木野 稔 理事長
最終更新日:2023/03/31
健全な成長や発達につながる小児医療を実践
大阪メトロ今里筋線・新森古市駅から歩いて3分、「大阪旭こども病院」は住宅も多い落ち着いた街並みの中にある。1966年に全国でも珍しい小児専門の民間病院として開院、その後今日まで一貫して、救急を含めた小児医療に力を注いできた。ただ、子どもを取り巻く環境は時代とともに大きく変化し、同院でも2015年の新病院オープンを機に、「私たちはいつも何が子どもにとって一番大切かを考えて医療を提供します」という新たな病院理念を提唱。病気の治療にとどまらず、子どもの健全な成長・発育につながる医療をめざしている。「子どもは病気でも成長するもの。すべての職員が病気を含めたその子そのものと向き合う、それが当院の医療です」と話すのは、同院を長らくけん引する木野稔理事長だ。特に、現在の子育てでは社会的な支援が希薄であることを懸念し、小児専門病院だからこそできる子育て支援に取り組む。「子どもがしっかりと育つためには、身体的、心理的、社会的な支えや関わりが欠かせない」と語り、地域の行政や福祉とも意欲的に連携を図る木野理事長に、小児医療に対する同院の姿勢や、これからの展望を聞いた。(取材日2023年2月28日)
最初に、こちらの歴史をご紹介いただけますか?
1965年、第2次ベビーブームの少し前に、東京で国立小児病院(現・国立成育医療研究センター)が開設されました。当時は非常に子どもの多い時代でしたが、小児医療はまだ不十分で、はしかなどの感染症で亡くなる子どもも非常に多く、大阪にも小児専門病院を造ってほしいとの声が上がったものの、具体的な動きがなかったのです。そこで、この場所で小児科医院をしていた中野博光先生がお一人で、1965年に「中野こども病院」を開設、これが当院のスタートです。中野先生は「子どものためなら何でもしよう」という創業の精神を掲げ、救急医療自体が珍しかった当時から子どもの救急搬送を受け入れたり、病気だけでなく心身両面から子どもを支えるための医療を行うなど、先見の明のある方でした。病児保育や職員向けの院内保育も、非常に早期から実施しています。2015年には建て替えを実施し、現在は79床で外来と入院治療を行っています。
現在の診療方針を教えてください。
今日では子どもが病気で命を落とす機会は激減しましたし、少子化が進み、子どもの成育環境は大きく変化しています。そこで2015年には新たな病院理念を設けました。子どもにとって一番大事なのは、健全に成長、発達すること。これは、病気になっている最中でも変わらないと、私たちは考えています。ただ、健全な成長や発達に必要な要素は、病気とともに年齢、性格、生活環境など、その子によってそれぞれ異なる。だから当院では医師だけでなく看護師や薬剤師、栄養士、臨床検査技師、臨床心理士、医療を学んだ保育士、さらに事務職員や警備員まで全スタッフが子どもに視線を注ぎ、その子にとって一番大事なのは何かを考え、意見をすり合わせ、治療やケアの内容へ反映します。病院全体で「子どもの健全な成長や発達」という1点に集中するために、あえて臓器や領域ごとの診療科は設けず、小児内科に特化して診療を行っているのです。
つまり、病気の治療をするだけではない、ということですか?
もちろん親御さんは病気を心配してお子さんを連れてきますので、きちんと受け止め、必要な検査や投薬もします。しかし普段は元気な子が胃腸炎になったとき、入院して適切なケアを受けながら回復を待ち、食欲が出て久しぶりに口にした白湯やおかゆのおいしさを知ることは、貴重な成長体験です。また発達に不安のあるお子さんなら、検査などで特性を明らかにしていきますが、問題がなかったり優れている部分も見出して、そこを伸ばしていく。子どもの医療は「診断して薬を出して終わり」ではない。健康や安全、親御さんの安心は確保しながら、子どもの成長や発達につながる関わりを、治療だけでなく看護や食事や保育、院内で過ごすすべての時間を通じて提供するのが、小児専門病院の役割です。病気や心のトラブルに伴う経験は、子どもの免疫や回復力を育むと考えています。「病気を機に子どもの成長や発達を支援する医療」を、私たちは大事にしているのです。
「子育て支援」にもつながるような医療ですね。
子どもがしっかりと育つためには「身体的」「心理的」「社会的」という3要素の充実が欠かせないと言われています。ただ今日では、病気で受診した子どもの背景に、家庭や学校の問題が潜んでいる場合も多い。子どもが育つ社会的な環境、つまり子育ての場を支援することが、今は小児医療でも不可欠なんですね。だから当院では、行政や学校とも積極的に連携を取ります。また、当院があるこの地域から子育て環境を充実したいと考え、2021年には病院に地名を入れ「大阪旭こども病院」に変更。その際には旭区役所や大阪市旭区社会福祉協議会と子育ての包括支援協定を結び、マタニティカフェなど新たな企画にも取り組んでいます。現在、子育て支援は教育や福祉の場で行われていますが、そこになじめない子どもや家族への支援は不足しています。だったら医療の側から福祉や教育を巻き込んで一緒に子育て支援をしていこう、そういう気概で活動に力を入れています。
最後に、地域の方や読者へのメッセージをお願いします。
当院は24時間365日救急の外来を行っていますが、夜間の救急搬送は増える一方です。ただ実際に救急医療が必要なケースは少なく、多くはお母さんの不安によるものです。そこで、時間外には看護師が電話での相談に応じていて、急いで受診すべきか、次の診療時間内に来れば良いのかお伝えします。緊急性が低ければ、深夜に連れ回されるよりもご自宅でしっかりと眠るほうが、お子さんの病気にも成長にも良いですから。また子育て不安への対応としては、2023年4月から産後ケアも始めます。産後ケアは主に行政や産婦人科で実施されていますが、近年では子どもが1歳前後になる頃に、発育の悩みで母親が行き詰まり、ケアを要するケースが増えています。小児専門病院として、子どもの成長や親の不安を適切に支えていきたいですね。独自の取り組みも多いですが、これからの社会で小児医療や子育て支援のモデルケースになれるよう、頑張っていきたいと思います。
木野 稔 理事長
1977年関西医科大学卒業。1994 年同大学医学部小児科学講師を経て、1998年に中野こども病院(現・大阪旭こども病院)へ入職。2000年より院長を務め、2009年からは社会医療法人真美会理事長。同院の発展にとどまらず、地域の小児医療や子育て支援の充実に尽力。大阪総合保育大学特任教授を務めるなど、子育てに関わる幅広い領域で後進の育成にも取り組む。