社会福祉法人恩賜財団 京都済生会病院
(京都府 長岡京市)
伊藤 義人 院長
最終更新日:2025/08/07


病気のみならず「暮らしによりそう病院」へ
京都縦貫自動車道の長岡京インターチェンジからすぐ、阪急京都本線・西山天王山駅から立体歩道橋でつながり、病院の2階入り口まで歩いて5分ほどとアクセスに秀でた場所にある「京都済生会病院」。京都市や大阪市の市街地まで足を運ばずして、地域ですべての医療が完結することを目標に、2022年6月に新築移転した。そんな同院に2024年10月、新院長として就任した伊藤義人先生。着任後、少しずつ病院の改革に取り組んできた伊藤院長。「急に上をめざしても難しいですし、現状維持で走り続けても仕方がありません」と穏やかにきっぱりと語る。まだこれから半年、1年とじっくり時間をかけて、より良い病院へ変革を遂げようとしている同院。済生会の精神にのっとりながら、現代に合った医療を推し進めるために、どのような努力をしているのか。興味深い取材となった。(取材日2025年6月11日)
まず病院の概要と地域での立ち位置から伺います。

当院は京都市の西隣で乙訓と呼ばれる地域にある、病床数288床の急性期病院です。2022年の新築移転でさらに交通の便が良くなったこともあり、長岡京市内はもちろん向日市、大山崎町、乙訓地域以外からも、多くの患者さんにご来院いただいています。当院の役割は、地域密着型の中核病院として乙訓地域の皆さんに必要とされる医療を届けることです。その一つは、進展する高齢化に対応するための高齢者医療です。その中でも高齢者の救急医療を構築するため、救急をどんどん受け入れる体制づくりをめざしています。また公的医療機関という立場から小児科・産婦人科はもちろん、消化器・循環器を含めた主要診療科の高いレベルでの診療にも注力しています。京都市や高槻市、大阪市の市街地へ行かなくても地域ですべてが完結し、地域が求める医療すべてを包括できる病院をめざして、日々全力で取り組んでいます。
院長ご着任後、さまざまな取り組みをなさっていると伺いました。

まず、救急の体制強化があります。もともと積極的に受け入れてはいましたが、専任医師の不在はネックでした。そこで大学病院と話し合いまして、土曜日の日中に救急専門の医師を配置できるようになりました。地域の救急隊の皆さまとも、連携を強化しています。救急搬送以外にも、ウォークインで多くの高齢患者さんが来院されます。その患者さんを平日、休日に関わらずお引き受けすることが、当院の目標です。また、高齢になると長距離を移動することは困難になりますので、併存する多疾患の治療を当院で完結できる体制づくりをこれからも強化していきたいと考えています。もう一つ、内科系診療科の医師が曜日当番制で診療する総合診療内科も開設しました。診療の細分化により、「どの診療科に行けばいいかわからない」といった患者さんの声も聞こえる中で、その受け皿となり、良質な医療を受けていただく一助になればと考えています。
さまざまな診療科の充実を図られているそうですね。

内科系、外科系ともに、それぞれの診療科の特徴を生かしながら努力を続けています。消化器内科では、消化管や肝胆膵領域の患者さんを診療しており、大学病院から肝胆膵領域の超音波内視鏡手技に熟練した医師を招聘し、後進の指導にもあたってもらっているところです。循環器内科ではカテーテル治療に習熟した医師が多く在籍し、先進的な治療を行っています。地域医療を担う当院にとって、外科部門の拡充は今後、特に大切になる要素ですから、スタッフの充実や環境整備の推進を図っているところです。まず消化器外科、泌尿器科では2025年4月に手術支援ロボットを導入し、運用を開始しました。最近は骨折などの治療で、整形外科の需要が増えている傾向にあります。救急で当院へ運ばれても翌週に手術室の空きがなく転院といったことのないように、今後は手術体制の整備にも取り組んでまいります。
院長に就任され、今後どのような病院運営をめざされるのですか。

着任当初、私が職員の皆さんにお話ししたのは、「5%から10%程度に自分の仕事を効率化し、アップグレードしよう」ということでした。急に上をめざしても難しいですし、現状維持で走り続けても仕方がありません。自らの仕事時間を5%から10%、うまく調整し、患者さんのためになるベストな方策を考える。自分で改善を進める部分と、周り、つまり運営側から環境を整える部分の両方から改善することで、良い病院になっていくと私は考えています。さまざまな業界でDXの必要性が叫ばれる中、医療においてもDXの推進は避けて通れません。当院では、電子カルテや検査システム等の導入など、さまざまなDX化を進めています。そうすることで労働時間が減り、自分を振り返る時間の余裕が生まれるでしょう。そのためにも明確な目的意識を持って働いてもらいたい。職員一人ひとりが、モチベーション高く仕事に取り組めるようにしていきます。
最後に、地域の皆さんへメッセージをお願いします。

病院をリニューアルして、2025年で3年がたちました。単に建物が新しく、きれいになっただけでなく、内容も充実して時代に合った、求められる医療を提供する場所として、これからも存在し続けたいと思っています。ぜひ皆さんのご意見をお聞かせください。新病院のコンセプトは「暮らしによりそう病院」です。済生会の理念「施薬救療の精神」を具現化した無料低額診療事業や生活困窮者自立支援事業「なでしこプラン」、誰一人取り残さない社会の実現をめざすソーシャルインクルージョン・町づくりの推進、そして、地域の団体・企業・行政と一緒に開催し、地域のお子さんや大人の方に参加、体験いただける「済生会フェア」の実施などに積極的に取り組むことで、これからも地域とのつながりを大切にする病院でありたいと考えています。

伊藤 義人 院長
1985年京都府立医科大学卒業後、京都府立与謝の海病院(現・京都府立医科大学附属北部医療センター)や京都府保健福祉部勤務を経て、2002年より京都府立医科大学助手、講師、准教授、2013年から京都府立医科大学消化器内科学教授を歴任。専門領域は消化器内科で、ウイルス性肝炎、脂肪性肝疾患などの肝疾患に造詣が深い。他に、消化管・胆膵・腫瘍内科分野の人材育成に力を注ぐ。2024年10月より現職。