京都府立医科大学附属病院
(京都府 京都市上京区)
佐和 貞治 病院長
最終更新日:2025/05/22


京都を世界トップレベルの医療で支えたい
河原町今出川から南へ進むと、左手に「京都府立医科大学附属病院」が見えてくる。京都御所と鴨川の自然に囲まれ比叡山を望むという京都ならではの立地で、150年近くにわたり高水準の医療を地域へ届け続ける病院だ。新型コロナウイルス感染症では重症例を中心に多くの患者を受け入れ、病院を挙げて治療に注力。2024年には京都府の三次救急医療機関の指定を受け、より広域での救命救急医療や災害医療体制を構築中だという。またこの数年間ではロボット支援手術やカテーテル治療、ナビゲーション手術など先進技術を活用した低侵襲治療も拡充。がん診療や小児医療でも集学的な治療の実践とともに、患者や家族を長くサポートする環境整備を進めるなど、「世界トップレベルの医療を地域へ」という理念に基づく診療を展開する。そんな同院を率いる佐和貞治病院長は今、「地域連携と役割分担をより加速し、大学病院として研究や人材育成にもあらためて力を入れたい」と語る。取材では近年の取り組みとともに、地域医療においてこれからの同院が担うべき役割についても、展望をじっくりと聞いた。(取材日2025年4月30日)
最初に、地域医療での役割と近年の状況をご紹介ください。

当院の前身である京都療病院は、戊辰戦争の兵士の治療で西洋医学を目の当たりにした京都の人々や財界の寄付で設立されました。後に京都府が運営を引き継ぎますが、京都府民に質の高い医療を提供するという立ち位置は今日まで変わりません。現在は京都府北部や滋賀県、福井県、阪神方面からも当院の医療を必要とする患者さんを迎えています。また2024年には京都府の三次救急医療体制が拡充され、当院は救命救急センターに指定されました。そこで重症例を含め大半の救急車を受け入れ、院内での治療とともに支援病院へ転送する際のトリアージを実施。京都府北部での大規模災害に備えて、救急災害医療を提供できる体制づくりも進行中です。一方、2020年から病院全体で新型コロナウイルス感染症の診療を優先する体制を取っていましたので、感染が徐々に落ち着いた2023年以降は、経営や組織の立て直しが急務の課題になっています。
患者の負担を減らす先進の治療技術を活用しているそうですね。

手術の傷が小さく患者さんの負担が軽い、いわゆる低侵襲治療は、当院でも複数の領域で普及しています。例えば循環器領域では心臓弁膜症に対するカテーテル手術の件数が大幅に増加。以前は開胸して人工心肺を使っていた手術を、今は足の付け根から入れたカテーテルによって行えますので、ご高齢の方でも手術を検討しやすくなりました。TAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)や経皮的僧帽弁クリップ術、経皮的左心耳閉鎖術などを実施しています。「傷が小さい」手術としては消化器内視鏡による手術も盛んですし、ロボット支援手術では新たに国産のロボット1台を導入。3台体制で泌尿器科、消化器外科、呼吸器外科、婦人科、心臓血管外科などの手術が行われています。また脳腫瘍や脊椎疾患では可動式CTを用いたナビゲーション手術が導入され、あらかじめ画像データ上でガイドを作製することにより、精緻で安全性の高い手術手技がめざせるようになっています。
ニーズが高いがん診療について、御院の特徴をお聞かせください。

がんでは手術療法、化学療法などの薬物治療、放射線治療が三大治療になります。薬物治療ではこの数年で分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬など新しい機序を持つ薬剤が登場し、多くのがんで病状のコントロールが格段に向上しました。手術もお話ししたように低侵襲化が進んでいますし、放射線治療では陽子線治療を実施できることも当院の特徴です。病変部に留置したマーカーを利用して標的を絞り込み、体内の奥にあるがんにも陽子線を集中的に照射します。近年では肝細胞がんや局所膵がん、局所大腸がん、さらに早期肺がんにも保険適用が拡大しました。「治らない病気」であったがんの概念が治療の進歩で変わることに伴い、患者さんやご家族を支える「がん相談支援センター」の役割も増しています。都道府県がん診療連携拠点病院として、高度な専門性を伴う治療から生活の支援まで、総合的な診療が提供できる体制を整えています。
小児医療にも力を入れているそうですね。

小児がん拠点病院として、がん治療では各科の専門家による集学的な治療を行い、陽子線治療も行っています。また当院には小児心臓血管外科と小児外科があり、先天性疾患の難症例に対し高水準な治療に努めています。特に先天性心疾患では、異常が複数ある心臓や形態が複雑な心臓の修復手術も実施。独自の術式の開発にも取り組み、手術成績の向上をめざしています。それから、小児疾患では成長に伴う医療体制や支援の切り替えが課題になっていますので、京都府のサポートも得て移行期医療の専門部署を開設し、さまざまな問題に対して継続的な支援を行っています。なお、治療が長期間にわたることも多い小児がんや先天性疾患では、付き添うご家族も大きな負担を抱えます。そこで当院では京都大学医学部附属病院や地域の皆さんとともに、患者さんのご家族が病院近くで宿泊できるよう専用の施設を誘致しました。個人的にも長年の念願がかない、うれしく思っています。
現在の課題や、今後の展望をお聞かせください。

当院は大学病院であり、臨床とともに教育と研究にも注力する責務があります。一方、ここ数年で医療を取り巻く情勢は急激に変化し、当院を含め多くの大規模病院は経営やマンパワーの問題に直面しています。大学病院の医師が適切な診療環境を保ちながら、学生の教育や自身の研究に取り組むためには、やはり地域や国全体で医療機関の機能に応じた役割分担、つまり地域連携を加速する必要があるでしょう。幸いにも当院は京都府内の多くの病院とスムーズな連携がありますし、京都府立医科大学で学ばれた多数の先生方が、開業医として各地で地域に根差した診療を行っています。ですので患者さんには、普段はかかりつけ医院を頼っていただき、何かあれば当院へご紹介いただく。当院は「いざ」という場面で確かな医療を提供しつつ、質の高い教育や世界水準の研究を行う。そうなることで、今後も「世界トップレベルの医療を地域へ」届けていきたいと考えています。

佐和 貞治 病院長
1985年京都府立医科大学卒業。京都府立医科大学附属病院などで研鑽を積み、1999年よりカリフォルニア大学サンフランシスコ校麻酔科へ留学、2002年同アソシエートプロフェッサー。2005年には京都第一赤十字病院へ入職し、2006年同麻酔科部長。2010年京都府立医科大学麻酔科学教室教授に就任し、同大学附属病院副病院長、京都府立医科大学副学長を経て2023年より現職。専門は麻酔科学、細菌学。