学校法人兵庫医科大学 兵庫医科大学病院
(兵庫県 西宮市)
池内 浩基 病院長
最終更新日:2024/10/30
多職種連携に基づくチーム医療で地域に貢献
阪神本線・武庫川駅すぐの川べりに建つ「兵庫医科大学病院」は、1972年に設立し1994年からは特定機能病院としても高度で先進的な医療を実践。大学病院として研究、将来の医療を担う人材育成にも力を注いできた。同院の特色をよく表すのが、多職種が連携したチーム医療によるきめ細かな医療だ。阪神淡路大震災やJR福知山線脱線事故では所属部署を越えた連携により、“オール兵庫医大”の精神で医学生までもが活躍した。新型コロナウイルス感染症の流行の際も、風通しの良い体制を生かし未曾有の有事にも対応してきた。現在、2026年秋に開院予定の新病院棟の建設が進んでおり、同院の歴史に新たな1ページが加わる。池内浩基病院長によると、新病院棟は、さらに進化させた同院の医療を実践する場となるそうだ。「時代に即した、より患者さん中心の医療をめざします」と語る池内病院長に、同院の診療理念や特色ある先進的診療、さらには新病院設立にあたり“Human Centered Hospital”“「ひと」が主役の未来型スマート病院”をコンセプトに掲げる病院の特徴などについて聞いた。(取材日2024年9月10日)
地域における病院の位置づけや特徴を教えてください。
当院は、1972年に兵庫医科大学の開学とともに開設されました。大学の建学の精神には「社会の福祉への奉仕」「人間への幅の広い科学的理解」「人間への深い愛」が掲げられており、当院も「患者さんの立場に立った医療の実践」や「人間性豊かな優れた医療人の育成」を基本方針としています。このため、地域に根差した医療の提供を大切にしており、患者さんから「医師やスタッフが優しい、親しみやすい」という言葉を多くいただきます。当院の特色をよく表しているのが、医療に携わる多職種が連携した「チーム医療」体制です。認知症ケア、褥瘡(じょくそう)対策、栄養サポートなど18のチームがあり、それぞれのスタッフがその専門性を生かしながら連携し、患者さんに寄り添った医療の提供に努めています。今後、チーム医療をさらに推進し、患者さんとご家族の満足度を高められるよう、きめ細かいケアと安全重視で質の高い医療を提供してまいります。
新たにIBDセンターを開設されましたね。
IBDセンターでは、難病指定を受けている潰瘍性大腸炎とクローン病を中心に、ベーチェット病も専門的に取り扱います。内科、外科ともに専門の医師が毎日診療を行っていることが特徴で、非常に多くの患者さんが受診されます。炎症性腸疾患の患者さんが今ほど多くない時代から、外科の領域では、私の師匠である宇都宮譲二教授が大腸を全摘出しても永久人工肛門にならない術式を開発されたり、内科の領域でも下山孝教授をはじめとする炎症性腸疾患を専門とする医師達が、長きにわたり病態解明に取り組んできました。この10年ほどで炎症性腸疾患の患者数は倍増しており、当院ではさらなる診療の発展をめざし、約10年前にこのセンターを開設しました。先進的な内科的治療だけでなく、症状が改善しない場合には直ちに手術ができる体制が整っています。患者さんのQOL向上に少しでも役立てるよう、スタッフが緊密に連携し治療を行っています。
他にも特色ある診療を実践されています。
ニーズの高いがん診療では地域がん診療連携拠点病院やがんゲノム医療連携病院の指定を受けています。手術治療や化学療法、放射線治療をはじめ先進的な治療が可能で、さまざまな医療機関から紹介された患者さんが当院を訪れます。また、地域の事情から悪性中皮腫の病態解明に注力しており、中皮腫センターでは呼吸器内科、呼吸器外科、放射線科の医師が連携して診療を行っています。このほか、脳卒中センターでは24時間365日体制で脳卒中の患者さんを受け入れています。特に血管内治療に積極的に取り組んでおります。脳血管障害は、発症から治療開始までをいかに短くするかが極めて重要です。専門性の高い医師が常駐し、周辺の医療機関との専用電話回線を設けることで迅速な治療の開始が可能です。さらに、当院では新たに2代目手術ロボットを導入しました。先進の医療技術を取り入れ、患者さんの安全を第一に考えた治療を提供します。
地域連携のための取り組みについても教えてください。
当院では地域の中核病院として、地域連携の推進と緊密な医療連携を目的に医療者を対象とした地域医療懇談会を開催。コロナ禍で中止を余儀なくされましたが2021年にオンラインで再開し、昨年には対面でも実施することができました。ほかにも、阪神地区各市の医師会と共催で連携病院の会や病診・病病連携の会を開いたり、周辺地域以外の方も参加が可能な当院の先進の医療情報を提供するため、毎月第3土曜日の朝に各診療科が交代で、オンラインでサタデーモーニングセミナーなども実施しています。当院の取り組みや診療の特性を知っていただき、円滑な連携をめざしています。またこのほかにも、当院の救命救急センターは災害拠点病院に指定されており、東日本大震災、熊本大地震、能登半島地震の際にはDMATを派遣しました。救急医療の分野の人材不足課題もありますが、今後も「患者さんを選ばない救急医療」をモットーに真摯に取り組んでまいります。
2026年秋に開院予定の新病院棟の特徴について伺います。
現在の医療の傾向や当院に求められる機能を踏まえ、よりコンパクトで機動性のある病院にしたいと考えています。大きな特徴は診療科間の連携強化です。例えば、これまでは消化器外科と消化器内科は違う病棟にあるのが通常でした。しかし、消化器という観点から病棟を集約することで両科のスタッフが協働できる体制が整います。これにより、手術の準備から実施、術後のケアに至るまで、円滑で一貫した医療を提供できます。また、転科の手続きが不要となり、患者さんの負担の軽減が期待されます。さらに、大学部門では、第4学年次に実施する共用試験に合格した医学生が、指導医の監督のもと診療に参加できる「スチューデントドクター」が制度化されました。人材育成に注力する大学病院として、各病棟に学生専用の学習スペースを設ける予定です。新病院棟の開設後も「患者さん中心の医療」という基本を忘れず、地域の期待に応えられる医療を提供してまいります。
池内 浩基 病院長
1987年兵庫医科大学卒業後、医師としてのキャリアのほとんどを兵庫医科大学病院で過ごしてきた。消化器外科の医師として、とりわけ炎症性腸疾患を専門とする。座右の銘は、出身高校の校訓でもある「終始一誠意」。最初から最後まで誠意を持ってことを成し遂げることを大切にしている。日本外科学会外科専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本大腸肛門病学会大腸肛門病専門医。