神戸大学医学部附属病院
(兵庫県 神戸市中央区)
黒田 良祐 病院長
最終更新日:2025/08/13


地域医療の中核を担う「砦」
1869年の開院以来、兵庫県下および阪神地域の医療に貢献し、関西医療圏の中核を担ってきた「神戸大学医学部附属病院」。「特定機能病院」「地域がん診療連携拠点病院」「災害拠点病院」「エイズ治療拠点病院」「がんゲノム医療拠点病院」として、高度かつ専門的な医療を提供することで、市民にとっての砦としての役割を果たして続けている。近年は、手術支援ロボットや手術ナビゲーション装置といった先進医療技術の研究・開発に携わると同時に、国際的な医療機関との連携にも注力。さらに、豊かな人間性と高度な専門性を兼ね備えた医療人の人材育成にも尽力し、大学病院としての使命を着実に果たしている。常に「患者に優しい医療」を追求する同院の現在と未来について、2025年4月に病院長に就任した黒田良祐先生に話を聞いた。(取材日2025年5月26日)
地域における貴院の役割についてお聞かせください。

神戸大学医学部附属病院は、兵庫県全域における高度医療の中核となる病院です。一般病院での受け入れが困難な難病や希少疾患、重症患者を積極的に受け入れ、地域医療の砦として多様な医療ニーズに対応することがわれわれの重要な使命だと考えています。幅広い診療科を備え、救急医療も充実していますので、高度かつ専門的な治療を24時間365日実践し、地域の皆さまの安全と安心を守り抜くのがわれわれの役割です。また、周辺の医療機関と密接に連携しながら集約的な医療を推進し、地域全体の医療の質向上に努めていくのもわれわれの使命の一つ。神戸市医師会や兵庫県医師会と連携し、患者の紹介・逆紹介を推進して地域医療連携の活性化にも取り組んでいます。さらに医療DX化も推進し、医療人同士のスムーズな情報共有やオンライン診療を通して、遠隔地にお住まいの皆さまの安全と安心にもより積極的に関わっていけたらと考えています。
研究や開発においても、重要な役割を果たされていますね。

先進的な医療の実現に向けた研究・開発の推進は、私たちが医療を通じて果たす地域貢献の一つです。研究では、基礎医学から臨床応用まで幅広い分野に取り組み、患者データを活用した疫学研究や医療の質の向上に関する研究が活発に行われています。これらの成果は国内外の医療現場に広く還元されています。開発においては、国産手術支援ロボットの開発と実用化に大きく関わってきたことが、私たちにとって重要な成果です。少しずつ普及しているこのロボットが、手術の精度向上や患者・医師双方の負担軽減につながることを期待しています。さらに、遠隔手術の実証実験や、AIを活用した次世代型手術室のプロジェクトにも参画し、医療の未来を見据えた開発・検証を進めています。今後、人口減少が進む中でも、医療の質を維持し続けるためにできること常に考え、実践していきます。
人材育成についてはいかがでしょうか?

ロボットやAIの活用を積極的に進める一方で、人にしか持ち得ない温かさやホスピタリティーの重要性も強く意識しています。医療人にとって、医療知識や高度な専門性が不可欠であることは言うまでもありませんが、患者さんに満足していただける医療を提供するためには、コミュニケーション能力や豊かな人間性が今、これまで以上に求められていると感じます。ロボットやAIによって、どれほど便利で正確な医療が提供できたとしても、人の心を支える温かな感情は普遍的な価値であり続けるでしょう。当院では総合臨床教育部門を設置し、医学生、研修医、看護師、医療技術職など、医療に関わる多職種が現場で連携しながら、医学教育や臨床研修が行える体制を構築しています。また、国際都市・神戸の特性を生かし、海外の医療機関との連携や英語による学術活動も推進。臨床・教育・研究の各面から、次世代の医療を担う人材の育成に取り組んでいます。
黒田病院長の専門分野についてもお聞かせください。

私の専門はスポーツ整形外科で、神戸にゆかりのあるスポーツチームのチームドクターを数多く務めています。かつては多くの選手が20代後半には引退を余儀なくされましたが、医療技術の進歩により現役期間は確実に延びています。再起不能といわれていた選手の膝や股関節のけがに対しての再起をめざした手術にも対応しています。大学病院だからどうしてもハードルが高くはなると思いますが、繰り返す捻挫や肉離れの受診も歓迎しています。社会人アスリートはもちろん、スポーツに熱心に取り組む学生の皆さんも気軽にご相談ください。私自身も柔道やラグビーを経験しているので、アスリートの気持ちに寄り添った治療ができると考えています。また、超高齢社会を迎え、健康寿命の延伸をめざした治療や研究にも取り組んでいます。整形外科を通じて、神戸の街を支える皆さまの健康をサポートしていきたいと思っています。
それでは最後に、地域の皆さまにメッセージをお願いいたします。

私たちは地域の中核を担う高度急性期病院として、専門的かつ先進的な医療に取り組むと同時に、「患者に優しい医療」を大切にしています。高度な医療を提供し、医療技術や機器の発展に寄与することはもちろんですが、患者さんの気持ちを置き去りにしない「ペイシェントファースト」の精神を重視し、日々努力を重ねています。大学病院はハードルが高いと感じられるかもしれませんが、皆さんのための病院です。どんな小さなことでも構いませんので、どうぞお気軽にご相談ください。また、地域の医療機関の先生方におかれましても、検査や手術などについて遠慮なくご相談・ご紹介いただければ幸いです。疾患や症例の相談でも構いません。私たちが力になれることがあるのであれば、それがわれわれの存在意義であり、大きな喜びだと思っています。今後も地域の皆さまと医療の信頼関係を築きながら、ともに歩み、神戸そして阪神地域の医療に一層貢献してまいります。

黒田 良祐 病院長
1990年神戸大学医学部卒業後、米国クリーブランドやピッツバーグでスポーツ整形外科学や再生医療研究に従事。2016年に神戸大学整形外科学教授と神戸大学医学部附属病院整形外科長に就任。副病院長、神戸大学医学部附属病院国際がん医療・研究センター長を歴任し、2025年4月に現職就任。多くのスポーツチームをサポートするチームドクターとしても活躍している。