日本赤十字社 神戸赤十字病院
(兵庫県 神戸市中央区)
築部 卓郎 院長
最終更新日:2026/01/13


救急医療と災害医療の最後の砦をめざす
隣接する兵庫県災害医療センターとともに、地域の救急医療と災害医療の中核を担う「神戸赤十字病院」。多彩な診療科と310床を備える同院は、阪神・淡路大震災の教訓を礎に、災害発生時には最大500床へと拡張し運営できる体制を整備。日常は高度急性期医療を担いながら、災害時には一気に医療提供能力を高める柔軟性と即応性を併せ持つ点が、同院の大きな強みだ。さらに、「人間を救うのは、人間だ」という日本赤十字社のスローガンを体現するべく、救急・災害医療を支えるための人材育成にも注力。医学生や看護学生、若手医師を積極的に受け入れ、日常の診療を通して次代を担う医療者が実践力を磨ける環境を提供している。「自分に何かあったときに、『ここで治療を受けたい』と職員自らが思える病院をめざしたいのです」と話す築部卓郎院長は、心臓外科を専門に研鑽を積む傍ら、MBAを取得。より広い視点から病院の未来を見つめている。今回はそんな築部院長に、同院の医療体制の背景や未来を見据えた取り組みについて語ってもらった。(取材日2025年11月18日)
こちらの成り立ちや地域での役割について聞かせてください。

当院は、兵庫県庁の南西に位置していた旧神戸赤十字病院と旧須磨赤十字病院が統合し、2003年8月に現在のHAT神戸へ移転・開院した病院です。この開院の背景には、神戸市民に深い傷跡を残した阪神・淡路大震災があり、震災の教訓を踏まえ、「災害に強い医療拠点をつくる」という明確な目的のもとで整備された施設であり、これが当院を語る上で欠かせない大きな特徴です。現在は兵庫県が設置した兵庫県災害医療センターと一体的に整備・運営されており、建物は大地震にも耐え得る免震構造と、停電や断水などの非常事態でも病院機能を維持するためのインフラを備えています。その上で平時には高度で専門的な医療を提供し、災害発生時には兵庫県災害医療センターと連携して、救急・災害医療を迅速かつ的確に担う「最後の砦」をめざし、その役割を果たすことが、われわれの使命だと考えています。
地域の救急医療にも大きく貢献されていますね。

平時の地域救急医療を支えることも重要な使命の一つとして捉え、兵庫県災害医療センターと連携し、心筋梗塞、脳卒中など生命の危険が極めて高い重篤な患者さんを24時間体制で受け入れています。さらに当院の救急医療で特徴的なのは、CBRNE(シーバーン)事案に対応できる体制を有していること。CBRNEとは、化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear)、爆発物(Explosive)の頭文字を取ったもので、一般的な事故とは異なり医療従事者が二次災害に巻き込まれる危険がある特殊な緊急事態を指します。テロや化学工場での事故、さらには近年の新型コロナウイルスの感染拡大などがその一例です。こうした事態に迅速かつ適切に対応するため、当院ではCBRNEを想定した専門的な訓練を行い、どのような状況であっても、目の前の命を救う体制を確保しています。
診療体制について、どのような特徴があるのでしょうか。

当院の大きな強みの一つは、病床数と医師数のバランスが非常に良いことです。大規模病院と比べると、担当医と患者さんとの距離が近く、顔の見える関係で診療を進めることができ、患者さんやご家族から寄せられる疑問やご要望にも、スピーディーに対応することができています。また、当院を支える看護師たちは、赤十字の根幹である「博愛の精神」を体現しており、本当に優しく、寄り添う姿勢が徹底していると日々感じています。患者さんに安心していただける温かいケアが提供できているのは、彼女たちの力が大きいですね。また、当院単独で完結する医療にこだわるのではなく、周辺の医療機関や地域のクリニックとも密接に連携しています。迅速な判断と情報共有に力を入れることで、地域全体で患者さんを支えるための一助になりたいと思っています。
人材教育にも注力されているそうですね。

当院では常に「医療とは人である」という考えを大切にしています。どんなに優れた設備や技術があっても、最終的に患者さんと向き合うのは医師や看護師などの「人」です。つまり、人材の育成は病院の医療の質に直結しており、地域医療全体の底上げにもつながっているのです。そこで当院では、若手医師や看護学生を数多く受け入れて、医師の教育プログラムや看護師の継続教育を充実させることで、救急医療や災害医療にも対応できる高いスキルの習得を日常的にサポートしています。さらに、こうした高いスキルを持った医療者が「働きたい」と思える環境づくりにも注力。素晴らしい医療者が気持ち良く働く病院となり、実際に病院の内部を知る医療者自身が「もし自分に何かあったら、ここで治療を受けたい」と思える病院であることをめざしています。
最後に今後の展望や、地域の方々へのメッセージをお願いします。

当院はこれまでどおり、災害拠点病院として、また高度急性期病院としての機能をまずしっかりと維持し、地域の皆さんの安心に貢献していきます。その上で、今後は悪性腫瘍の治療にも注力し、高齢化が進む社会の中で、より多くの方に必要な医療を提供できるよう病院の体制を強化していきたいと考えています。当院には豊富な診療科があり、専門性の高い医療者も多く在籍していますので、さまざまな悪性腫瘍の治療にも対応できると思います。そして今後は、彼らがその能力をさらに発揮できる環境を整えていきたいです。また、同時に地域の医療機関や関係機関との連携も一層強化していかなくてはなりません。救急医療はもちろんですが、それ以外の相談も気軽にしていただけるような信頼関係を構築し、地域の皆さんにとってさらに必要な病院となれるよう成長していきたいです。

築部 卓郎 院長
1985年神戸大学を卒業後、神戸大学医学部第2外科に入局。心臓外科医師として市中病院で経験を重ね、米国ハーバード大学にも留学。2003年の神戸赤十字病院・兵庫県災害医療センター新規開院に際して心臓血管外科部長として赴任し、同部門の立ち上げと心臓外科手術をけん引。2025年より現職。2012年にMBA、2020年に経営学博士を取得するなど、医学のみならず経営の視点も備えた幅広い領域で活躍している。





